３２話 さらなる限界突破
依頼の報告をするため街へ戻り、冒険者ギルドへ。
ただ、普通に依頼を達成したのではなくて、ミリーのことがある。
きちんと報告しておいた方がいいだろうと、ギルドマスターに時間を作ってもらうことに。
そして彼の執務室を訪ねるのだけど……
「……むぅ……」
ミリーのことを報告すると、とても難しい顔をされてしまった。
「悪魔はいた。詳細は省くものの、契約を結ぶことになった……この認識で間違いないかね？」
「はい」
「……むぅううう」
さらに悩ませてしまったみたいだ。
「ねえねえ、カイ君。あのおっさん、なんで唸っているの？ 威嚇？ ぶっ殺す？」
「落ち着いて。発想がとても物騒だよ」
「はーい」
「夫婦というよりは、飼い主と猟犬みたいだな」
言いえて妙だった。
「そうなると、やはりルシフェル殿も……」
「うむ、悪魔なのだ」
隠しておいても、いずれバレるかもしれない。
それに、ルル達のことを知っている人がいれば、なにか問題が起きた時に良い方向に対処できるかもしれない。
そんな考えに至り、ギルドマスターには打ち明けることにした。
ギルドマスターも薄々気づいていたみたいだから、ちょうどいい。
……神様と戦ったとか、さすがにそれは信じてもらえそうにないので、止めておいたけど。
「むぅううう……頼もしいと喜ぶべきなのか、それとも、恐ろしいと嘆くべきなのか」
「おっちゃん、大変そうねー。もっと気楽に生きた方がいいんじゃない？」
「ミリーは気楽すぎるような」
「え、そっかな？ あたし、けっこう全力なのに」
とても不満そうだった。
これで全力……
悪魔は、人間と比べると、とてもマイペースなのだろうか？
「……まあいい。とにかく、依頼を達成してくれて助かった。ありがとう」
「いえ。それよりも……」
「ミカエル君のことだね？ なに、心配しないでほしい。彼女のことは私の胸の内だけに秘めておこう。もちろん、ルシフェル君のことも」
「ありがとうございます」
「……迂闊に情報をばらまいたら、大惨事になりそうだからな」
ギルドマスター、本音がこぼれていますよ？
まあ、隠したい気持ちは納得できるので、苦笑いするしかない。
「それで、お願いがあるんですけど……」
「ミカエル君の分の冒険者証かね？」
こちらの考えていることはお見通しだったらしい。
さらに、すでに用意していたらしい。
「これを使うといい」
「おーっ、ありがと、おっちゃん！」
「……おっちゃん……」
「これで、今日からあたしもカイ君と同じ冒険者だね。よろ～♪」
とても嬉しそうに、ミリーは冒険者証の登録をした。
「少し見せてもらえないだろうか？」
「オッケーオッケー。はい、どうぞ」
「ありがとう」
ギルドマスターは、登録が済んだミリーの冒険者証を受け取る。
ややあって、ふらりとよろめいて、頭に手を当てる。
「ど、どうしたんですか！？」
「いや、なに……非常識な数字を見せられて、色々と困惑しているところだ」
「非常識、って……うわっ」
横からミリーの冒険者証を覗き込んでみると、とんでもないものが見えた。
『レベル：５８００』
ルルと比べると低い。
ただ、比べる対象が間違っているだけで、５８００レベルなんて、冒険者証のバグとしか思えないような頭のおかしい数値だ。
ルルから、ミリーも高位の悪魔って聞いていたけど……
まさか、これほどだったなんて。
「旦那様よ。ミカエルのレベルを見て驚いているが、今の旦那様も大概だぞ？」
「え？ そりゃ、まあ、１２００レベルなんておかしいけど……」
「違う違う。もう一度、確かめてみるといい」
「えっと……っ！？！？！？」
言われるまま自分の冒険者証を確認してみると、レベルが『２５００』になっていた。
約ニ倍。
どうして、こんなことに……？
「ミカエルと契約しただろう？」
「あ」
「それに、そう……あやつとも戦っただろう？ その経験値が入っているのだ」
「……そういえば」
ミリーと契約して。
さらに、蒼龍様と戦って。
その二つの経験値で、俺は、再びとんでもないレベルアップをしてしまったみたいだ。
「なんか、夢を見ているみたいだ」
「それは、我らの台詞なのだがな」
「ルシフェル様から聞いたけど、しんりゅ……アレも退けていたとか、カイ君、めちゃくちゃっしょ。人間で言うと、天から落ちてくるバカでかい隕石をバットで打ち返すような真似だよ？」
「あはは……」
もはや乾いた笑いしか出てこない。
「キミは、私が思っていた以上の逸材だ。これからも、冒険者の未来のために国のために……そして民のために、たくさんの依頼をこなしていってほしい」
「はい、がんばります！」
なんだかんだ、ギルドマスターに期待されているというのは嬉しい。
自然と大きな返事になる。
「そこで、というか……申しわけないのだが、また一つ、依頼を請けてもらえないだろうか？」
「えっと……内容を聞かせてもらえますか？」
「これは、あくまでも強制ではなくて任意だ。キミ達ならば、という期待はあるものの、無理にとは思っていない。断ってくれてもいいし、それによるペナルティもない。不満があるのなら、この街を離れ、他の街のギルドを拠点としても構わない」
ギルドマスターがここまで言うなんて、いったい、どんな依頼なんだ？
よほど危険度が高いのだろう。
「依頼内容は……連続殺人鬼の捕縛。あるいは、討伐だ」
「「却下！！」」
