28話 単調なのでは?
「嘘だからな」
蒼龍様はさきほどまでの表情を消して、怒りをにじませて、蔑みの視線をこちらにぶつけてきた。
「……え?」
「悪く思うな。貴様が先に嘘を吐いたのだ。なれば、俺も嘘を吐いてもいいだろう」
「ま、待ってください! 俺は、嘘なんて……」
「竜神様が認めた? 人間を? はっ、なにをバカな。そのようなことあるわけがない。なにやら話が来ていたが、それもつまらぬ小細工だろう。くだらぬ嘘をついてまで悪魔をかばおうとするとは、万死に値する。貴様も同罪だ、死ぬがよい」
ぶわっと敵意が膨れ上がる。
「ま、待ってください! 俺は、決して嘘なんて……」
「旦那様! こやつは、わからずやの頑固者で有名だ。こうなると、もう話はできないぞ。ああもうっ、だから蒼龍は大嫌いなのだ!」
「くっ……! ルルは、ミカエルさんを守って!」
「え? いや、しかし……」
「俺は、なんとかしてみせるから」
蒼龍様の狙いはミカエルだ。
彼女を害させるわけにはいかない。
傷ついてほしくない。
それは……絶対条件だ!
「安心して、ミカエルさん。絶対に守ってみせるから」
「そんな、どうして……」
「んー……友達になりたいな、って思ったから」
「……ふぁ……」
ルルがいて、その隣にミカエルがいる。
きっと楽しい。
その笑顔を得るためにも、なんとかしてみせる。
「人間ごときが……吠えるな!」
蒼龍様が突撃してきた。
速い!
風を裂くかのような、音を超えるかのような、そんなスピードだ。
視認することが難しい。
推測になるけれど、パワーも圧倒的だろう。
対峙しているだけなのに、足が震えてしまうほどのプレッシャーを感じる。
その身から放たれるオーラは暴力的で、野生の獣を相手にしているかのよう。
ただ……
「一撃で死ぬがいい、愚かな人間よ!」
「えいっ」
「なぁっ……!?」
蒼龍様は、真正面から突撃して拳を振りかぶるのだけど、俺は、それを受け流してカウンターとして足払いをしかけた。
すさまじいスピードと圧倒的なパワー。
でも、なんの捻りもなく真正面からなんて、いくらなんでも舐めすぎだ。
簡単に対処できる。
「……なるほど、多少はやるようだ。人間など、今の一撃で大抵は塵になるのだが……ならば、少し本気を出すことにしよう」
再び突撃。
ただ、今度は真正面からではない。
右から回り込んで……跳躍。
直上から、隕石のような強烈な一撃を繰り出してきた。
「ていっ」
「ぐぉ……!?」
翼を持たない人の姿なら、空中で軌道を変えることはできない。
なので、単に突撃しているのと変わらないため、回避は簡単だ。
当たり前のように避けて、もう一回、カウンターを叩き込む。
「貴様……なぜ、そのように動くことができる? なぜ、俺の攻撃が当たらない?」
「そう言われても……とても動きが単純なので」
「な、なんだと……!?」
「蒼龍様って、その……戦いの経験が少ないのでは? 俺でもわかるくらい、とても単調な戦い方というか……これなら、まだ故郷の子供の方が戦い慣れているというか」
「き、貴様ぁ……!!!」
蒼龍様は顔を赤くして、ぷるぷると震えた。
あ、しまった。
そのつもりはないのだけど、思い切り挑発してしまった。
「……旦那様の故郷の子供は、あれ以上の戦い方を学んでいるのか? 本当に恐ろしいところなのだ」
ルルが妙な感心をしていた。
「人間ごときが!!!」
三度目の突撃。
いくらかフェイントを織り交ぜてきて、拳を乱打した。
拳撃の嵐だ。
重く、速く……たぶん、一撃でも喰らえばアウト。
常に死と隣り合わせの状態にいるのだけど……
「……対して怖くないかも」
「ぐっ……まだ言うかぁっ!!!」
「やっぱり、とても単調ですから」
挑発のせいというのもあるだろうが、蒼龍様の攻撃はとてもわかりやすい。
狙いが正確すぎるため、先を簡単に読めてしまうのだ。
「がぁっ……!?」
拳を避けると同時に、蒼龍様の懐に潜り込む。
そっと腹部に手の平を当てて……
全身で押し出すかのように力を爆発させた。
蒼龍様が吹き飛んだ。
大してダメージは通っていない様子で、すぐに起き上がるのだけど……
何度もカウンターを受けて警戒している様子で、激昂しつつも、足を止めていた。
「なぜだ!? なぜ、人間ごときが、神である俺と同等に戦うことができる!?」
「……同等ではなかろうに」
「……あの子が圧勝してるよねー」
「ぐぅっ……!?」
ルルとミカエルのつぶやきに、今度は、蒼龍様は羞恥に顔を赤くした。
「信じてもらえないかもですけど、バハムート様と簡単にですけど手合わせをしたことがあるので。だから慣れたというか度胸がついたというか……それで、思い切りのいい動きができているんだと思います」
「まだ嘘を重ねるか! 人間ごときが竜神様と対峙して、生き延びることなど不可能だ! 俺でされ、竜神様を敵に回したら生きていることはできん!」
「……あやつ、間接的に自分の方が下であると自白したぞ」
「……うわー、かっこわる」
「ぐぅっ……!?」
やめて。
後が怖いから、それ以上煽らないで。
「貴様は……完全にコロスっ!!!」




