23話 ありったけの一撃を
「それじゃあ、やろうか」
廃村で竜神様と対峙する。
……やばい。
顔を合わせているだけなのに、すさまじいプレッシャーを感じる。
嵐を目の前にしているかのようで、勝手に足が震えてしまう。
「まずは試してみようか。耐えてくれよ?」
「えっ」
竜神様の姿が忽然と消えた。
いったい、どこに……?
「やぁ」
「っ……!!!?」
突然、竜神様が目の前に。
そのままデコピンをされて……
「ぐっ……あああああぁあああああっ!?!?!?」
激しい衝撃と共に、思い切り吹き飛ばされた。
上下左右の感覚がわからなくなり、何度も地面をバウンドして、木の幹をへし折り……
100メートルくらい吹き飛ばされたところで、ようやく止まる。
「うっ、あぁ……かはっ」
血を吐いた。
あちらこちらの骨が折れているみたいだ。
指先を動かすだけで激痛が走り、泣いてしまいそう。
「やれやれ……悪魔と結婚したっていうから少しは期待していたんだけど、やっぱり、人間なんてこんなものか」
竜神様が追いかけてきて、前に立つ。
「これでキミもわかっただろう? 無理なことは口にしないことだ。人間なのだから、身の丈をわきまえたほうがいい」
「……ぅ……」
「安心して。キミは殺さないよ。処分するのはルシフェルだけだ」
「……それ、はっ!!!」
圧倒的すぎる力。
どうあがいても敵うわけがない。
俺の心は折れかけていたのだけど……
でも、今の台詞を聞いて再び火がついた。
痛みは無視。
気合で立ち上がる。
「へぇ……すごいね。思い切り手加減していたとはいえ、僕の一撃を受けて、まだ立ち上がることができるなんて」
「もういいのだ、旦那様! そんなにボロボロになって……我は、そんな旦那様を見たくない!」
「ごめん、心配させて……でも俺は、ルルと離れ離れになりたくないんだ……絶対に!」
「……旦那様……」
「だから……」
「……うむ」
ルルは泣きながらも、笑顔で頷いてくれた。
そして、俺が望んていることを理解してくれて……
「がんばれっ、旦那様! 旦那様ならできるのだ!」
よし。
これで元気100倍。
これ以上ないくらいやる気が出てきたぞ。
「まだやるの? さっきの一撃で、僕とキミの実力差は理解してくれたと思うけど……」
「俺も男なので……どうしても譲れない戦いがありますから」
「やれやれ、頑固だね。結果なんて変わらないのに」
「変えてみせます」
俺は、竜神様に怯えていた。
圧倒的な力を持つ彼に震えていた。
でも……
ここで負けたらルルが危ない。
そんなことになる方が万倍も怖い。
だから……
絶対に負けることはできない!!!
「いきます」
手の平に炎の珠を生み出した。
初級魔法の『ファイア<炎>』だ。
これで竜神様に挑む。
頭がおかしくなったと思われてしまいそうだけど、現状、これが最適解なのだ。
初級魔法なので、もちろん威力は最低だ。
でも、その分、構造がとてもシンプルで……改造しやすい。
魔法の構造式に手を加えていく。
威力上昇。
威力上昇。
威力上昇。
効果範囲は縮小して、極一点に絞る。
持続時間も絞り、その分、さらに威力を引き上げていく。
俺の持つ知識と技術。
そして、故郷のみんなに習った全て。
それらを総動員して、一点集中で極大の破壊力を引き出すように魔法を改造してみせた。
さらに、ありったけの魔力を注いでいく。
全ての魔力を注いで。
それでも足りないから、体力を魔力に変換して。
さらに意思の力も込めて。
炎の珠が光に変換されていく。
超高純度の魔力の塊。
不要なものを削ぎ落として、必要なものを足した結果がコレだ。
ただただ攻撃だけに特化した、破壊の力。
それを見た竜神様は、余裕の笑みを消して慌て始めた。
「ちょっ……!? な、なんだ、その力は? それはまるで、僕達、神に匹敵するほどの……なぜ、人間がそのような力を!?」
「簡単なことです」
「な、なんだって……?」
「これは……愛の力です!」
ありったけの、全身全霊の、全力全開の、最後で最終の、渾身の……
全てを込めた一撃を放つ。
放たれた光は、ゆっくりと竜神様の胸に吸い込まれていった。
そして……
ガッ……!!!!!
一瞬、世界が白に塗り替えられた。
激しい閃光と衝撃が走る。
辺り一帯の空間が揺れているかのようだ。
そこからさらに光の嵐が吹き荒れて……
竜神様がいるところを中心に、白の炎が巻き上がる。
それは竜巻のように天に伸びて、燃やして、砕いて、消滅させていく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
文字通り限界を越えて全てを出し尽くした。
これでダメだとしたら、もう……
「……いやー、驚いた。まさか、人間がここまでの力を持っていたなんて」
舞い上がる粉塵の向こうから竜神様の声が聞こえてきた。




