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21話 昇格と新しい依頼

 FランクからEランクに昇格するのは、実はわりと簡単だ。

 ルルに言った通り、コツコツと依頼を達成していけばいい。

 そして、三十の依頼を達成したところで、自動的にEランクに昇格する。


 試験などはない。

 Fランクは、冒険者としてやっていけるかどうかを試す場で……

 依頼を定期的に、問題なくこなせることができる、と判明したらEランクになることができる。


 三日後。


 俺とルルは無事にEランクに昇格することができた。


「確認できたわ。昇格条件に問題なし。よって、二人共、今日からEランクね」

「「わぁっ!」」


 受付嬢の言葉に、俺とルルは明るい顔になった。


 よかった、無事に昇格できて。

 以前、ギルドを尋ねた時は受付嬢も冷たくて、ちょっと心配していたけど……

 今回の人はとても親切で優しい。

 たぶん、ギルドマスターが手を回してくれたんだろう。


「それにしても……」


 受付嬢が怪訝そうな顔に。


「どうかしましたか? ……もしかして問題が?」

「あ、ごめんなさい。なにも問題はないの。ただ、これほどの短期間でEランクに昇格した人なんて、初めてだから」

「そうなんですか?」

「そうよ。普通は一ヶ月前後かかるのに……あなた達、たったの三日で昇格よ? ありえない速度というか、これ、ギルドの新記録よ。さすが、期待の新星のバーンクレッド君ね」

「期待の新星? えっと……俺のことを知っているんですか?」

「もちろん。この前の試合、私も見たわ」


 受付嬢はどこか怪しく笑い、そっと顔を近づけてきた。


「とてもかっこよかったわ」

「あ、ありがとうございます!」

「ふふ。私、あなたのファンになっちゃった。ねぇ……よかったら、今夜、一緒に食事でもどう?」

「えっ!?」

「そのまま、一緒に夜を過ごしてもいいわよ? ふふ。それくらい、あなたのことが気になっているの」

「そ、そそそっ、それは……!?」

「ダメなのだーっ!!!」


 ルルがものすごい形相で割って入る。


「旦那様は我のものなのだ! そういうのはダメなのだ!」

「……ルル……」


 しまった。

 俺は、なにをいい気になっていたんだ?

 たまたま試合に勝ったからといって、それでいい気になって浮かれて……


 それでルルを傷つけていたら、なにも意味がない。

 そんなことのために強くなりたかったわけじゃない。


「すみません。そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、俺、他に大事な人がいるので……」

「そう……残念、振られちゃったわね」

「本当にすみません……」

「いいわ、気にしないで。ただ、ファンを続けることは許してくれても?」

「あ、はいっ。それは、もう、ぜんぜん!」

「ふふ、ありがとう」


 受付嬢は微笑み、そのまま作業を進めて……

 ややあって、俺達の冒険者証を差し出してきた。


「はい、冒険者証の更新が完了したわ。大事にしてね」

「ありがとうございます」

「応援しているわ、これからもがんばって」

「はい!」


 笑顔で冒険者証を受け取る。

 それから、いつものように依頼票が貼られている掲示板に……


「あ、ちょっと待ってくれる?」


 受付嬢に呼び止められた。


「実は今、ランクに関係なく受注できる依頼があるんだけど、興味ない?」

「え、そんなものがあるんですか?」

「ええ。緊急依頼、って呼ばれているものよ。できるだけ早く解決したいから、普段は設けているランク制限を解除しているの。低ランクの冒険者が意外なヒントを持ち帰ることがあったりするから」

「なるほど。そういえば、そんなシステムが」

「今、緊急依頼は三つあるんだけど……」

「三つもあるんですか」

「いつでもどんな時でも、緊急はあるものよ。で、依頼内容だけど……一つ目は、街から少し離れたところにある川の調査。なんでも、急にクレーターができたらしいの」

「「……」」


 俺とルルはピタリと固まる。


 それ……

 もしかしてもしかしなくても、俺のせいだよな……?


「なにか不吉の前触れかもしれないって、領主様が調査を命じたの。一応、危険は少ないみたいだけど……やる?」

「えっと……ほ、他の二つはどんな依頼なんですか?」

「んー……危険度の高い魔物の討伐があるけれど、あまりオススメできないわね。侮るわけじゃないんだけど、冒険者になったばかりの二人には、まだ厳しいと思うわ」

「そうですね、無理をして背伸びするのはよくないと思います」


 「旦那様ならいけると思うが」なんていうルルの台詞が聞こえたものの、慢心はダメだ。

 そういう無茶をすることで命を落とす冒険者は多いと聞く。


「最後は、少し離れたところにある廃村の調査ね。近くをたまたま通りかかった商人によると、神様がいた、とか」

「神様? え、なんですか、それ?」

「わからないわ。詳しい話を聞こうとしても、神様がいたとしか答えてくれなくて……一人だけなら、まあ、笑い話で済ませられたんだけど、あと二人、同じようなことを言う人が出てきたの」

「それは、また……」

「気になるでしょう? だから、こちらも領主様から調査依頼が寄せられているの。まあ、オススメするとしたら、一つ目と三つ目。このどちらかしら?」


 一つ目を請けるというのは、ちょっと……

 どう考えてもマッチポンプになりそうなので、やめておきたい。

 そうなると、三つ目かな?


「……旦那様」


 ルルが小声で言う。


「……三つ目を請けてほしい」

「……了解」


 ルルの真面目な顔を見て、なにかあるのだろうと思い、三つ目の依頼を請ける旨を受付嬢に伝えた。

 そのまま手続きをしてもらい、正式に受託。


 ギルドの外に出て……


「ルルは、三つ目の依頼になにか思うところが?」


 しばらく歩いたところで、そう尋ねた。


「うむ、神というのが気になる。なにかの間違いであればいいのだが……もしも本物だとしたら厄介なことになるかもしれぬ。今のうちに確かめておきたい」


 創造神、竜神、地神、天神、海神……この世界にはたくさんの神様がいる。

 多くの人に祈りを捧げられていて、それに応えるように豊穣を招いてくれて……

 人に害を加えるような存在ではないのだけど、ルルは、なにを警戒しているのだろう?


「なにか気になることがある?」

「うむ」

「神様は、害を及ぼすような存在じゃないはずだけど……」

「それは……説明は待ってほしい。いや、その、旦那様に隠し事をしたいわけではないのだ。ただ、我も確信があるわけではなくて、いたずらに不安を与えたくないのだ。それと……その懸念を言葉にしたら真実になってしまいそうで、怖いのだ……」


 大胆不敵で、いつも自信に満ちあふれているルルが怖いって言うなんて……


 よほどのことなのだろう。

 俺僕も覚悟を決めた方がよさそうだ。

 そして、いざという時は、なにがなんでも、絶対にルルを守る!


「大丈夫」

「……ぁ……」


 そっとルルを抱きしめた。

 往来の真ん中だけど気にしない。

 それよりもルルの方が大事。


「なにか心配事があるかもしれないけど、問題が起きたら、俺がなんとかしてみせるから。なにせ俺は、ルルの『旦那様』だから」

「……旦那様……」

「一緒にがんばろう」

「……うむ! 我ら夫婦なら、なにがあろうと乗り越えることができるのだ!」


 よかった、元気になってくれたみたいだ。

 あとは、依頼を無事に達成すればいい。


 ただ……


 ルルの気持ちが伝わってきたのか、俺も、どこか嫌な予感を覚えていた。

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