20話 最初の依頼
「と、いうわけで……さっそく、なにか依頼をしてみたいのだ!」
ルルは、とてもわくわくとした様子で言う。
なんだかんだ、彼女も冒険者を楽しみにしていたのかもしれない。
「じゃあ、依頼票を見てみようか」
依頼票が張り出されている掲示板に向かう。
俺達以外にも、たくさんの冒険者がいた。
「おぉ、なかなか盛況ではないか。して、旦那様よ! 我らは、どの依頼を請ける? 我は、こう、ドラゴン討伐とか伝説の聖剣を探すとか、そういうものがやりたいのだ」
「残念ながら、そういう依頼はないかな」
「ないのか!?」
ガーン、という感じでルルがショックを受けていた。
「ないことはないけど、極々稀に、っていう感じかな? それに、俺達は最低のFランクだから、そんな依頼が発生したとしても請けられないさ」
「むう……ランクを上げるには?」
「依頼をコツコツとこなすこと。何事も最初の一歩は長いものだよ」
「やれやれ、仕方ないか。ここは人間の社会なのだから、その掟に従うことにしよう。して……どの依頼を請ける?」
「うーん……スライム退治と、あと、薬草採取。この二つにしようか」
「……」
「しょぼい依頼、とか思っている?」
「そっ、そそそ、そのようなことはにゃいぞ!?」
あ、噛んだ。
わかりやすい子だ。
ただ、そこがルルのいいところでもある。
「そう思うのは仕方ないけど、でも、こういう依頼を出す人は本当に困っているから。だから、冒険者の俺達が解決してあげないと」
「……旦那様は優しいのだな。そのように他の者のことを考えられるなんて、なかなかできることではないぞ」
「そうかな?」
こんなことは当たり前のことだと思うけど……
でも、ルルに褒められることは素直に嬉しい。
がんばろう! っていう気になる。
――――――――――
依頼を請ける手続きをして……
それから、俺とルルはさっそく街の外に出た。
最初は薬草採取だ。
近くの森に移動して、薬草が生えているところを探す。
「むぅ……我は薬草なんて使わないから、どれがどれなのかさっぱりなのだ。旦那様はわかるのか?」
「ああ、俺に任せて。こう見えて、薬草に関する知識はあるから」
「おぉ……! 力だけではなくて、知識も兼ね備えているのか。さすがなのだ! はふぅ……頼りになる旦那様、しゅき……」
「あ、見つけた」
「はやっ!? 10秒も経っていないぞ!?」
木の根の近くに生えていた薬草を摘む。
「なんか、見つけるのがやたら早くないか……?」
「俺、村にいた頃は、よく薬草採取をしていたから」
「それにしても、ここは村とは違うだろう? まったく違う場所で、こうも早く薬草を見つけることができるなんて……」
「薬草の生息領域って限られているからね。森の地形と草木の生え方を見れば、だいたいの場所は見当がつく。って、偉そうに語ったけど、これくらい普通か」
「いやいやいや、それは絶対に普通ではないと思うぞ? おかしい部類に入ると思うぞ? しかも、かなり、の部分に……」
そうなのか?
「村のみんなは、これくらい、わりと当たり前にやっていたけど」
「常々思うのだが、旦那様の故郷を普通の基準にしない方がいいと思うのだ。見たことはないし行ったこともないが、話を聞いているだけでもおかしいとわかるぞ?」
「うーん?」
そんなことはないと思うが。
でも、一応、心に留めておこう。
「よし、採取完了」
「それだけでよいのか?」
「全部取ると、なくなっちゃうかもしれないからね。少し残して、また増えるのを待った方がいい」
「なるほど」
「じゃあ、次はスライムの討伐に行こうか」
最近、街の外でスライムが増えているらしい。
といっても、スライムは臆病な魔物なので、基本的に襲われることはない。
ただ繁殖力は高く、放っておくと大量発生して生態系が乱れてしまうことがある。
そうならないように、一定期間ごとに駆除する、というわけだ。
……そう説明すると、ルルは感心した様子で頷く。
「ほうほう、旦那様は物知りだな」
「冒険者になるために、一生懸命勉強したから。というか、試験に出題される範囲の知識だから、ルルにも教えたと思うんだけど……」
「さあ、スライムを駆逐してやるぞ!」
ごまかされてしまった。
とにかくも、スライムの目撃情報があった草原に向かう。
見晴らしはよく、今のところスライムは見当たらない。
「なにもないな……このようなところに、本当にスライムが?」
「いる。ここを見て」
「ふむ? この辺りの地面、なにかを引きずったような跡があるな」
「これはスライムの足跡だ。粘体で、若干、酸性があるから、スライムが歩いた跡はこうなるんだよ」
「おぉ、なるほど」
「で、これを追いかけていけば……」
10分ほど歩いたところに小さな川が流れていた。
その水源を独り占めするかのように、スライムが大量繁殖している。
さながら、スライムのバーゲンセールだ。
「うわっ……すでに大量繁殖した後か」
「ちょっとキモいのだ……でも、ちょっとエロさも感じるのだ。ぬるぬるでねとねとで……にゅふ」
うん。
ちょっとなにを言っているかわからない。
「あれ、どうやって倒すのだ? 我、触りたくないのだが……」
「大丈夫。ルルに教えてもらった魔法があるから」
「ふむ。確かに魔法なら……あっ、ちょっと待つのだ!? 魔法といっても、念には念を入れてとか、中級を使ってはいけないぞ!? 旦那様が魔法を使うのなら、初級の……」
「フレア<紅蓮>!」
ゴガァッ!!!
業火が舞い上がり、なにもかも吹き飛んだ。
「……」
「……」
「旦那様」
「うん、ごめん」
以前、ルルにやりすぎだ、と怒られたから威力を調整した。
したつもりだったんだけど……
まだまだ甘かったらしく、なんか、こう……クレーターを作り出してしまった。
そこに上流から流れてきた水が溜まり、小さな湖を作り出していく。
「旦那様が中級魔法を使えば、こうなることは目に見えていたのだ。まったく……」
「あ、いや。一応、手加減はしたんだけど……」
「え?」
「魔法の構造式に手を加えて、威力を減衰させる方向で……」
「……これで減衰?」
ルルは、どこか呆れた様子でクレーターを見る。
「本当だから!? えっと……ほら、その証拠に……ファイア<炎>!」
ドッ……ガァアアアアアッ!!!
別の魔法を別の場所に向けて放つ。
大地が揺れるほどの衝撃が走り、舞い上がる炎が雲を貫いた。
「ほらね?」
「ほらね、ではなぁあああああーーーいっ!!!? なぜ初級魔法の方が威力があるのだ!? あと、そのデタラメな威力はなんなのだ!?」
「減衰処理をしていないから、こっちの方が威力が高くなっているんだよ。ただ、使い勝手は悪く、効果範囲も狭い。魔力の消費は少ないけどね」
「……魔法の構造式に手を加えるなんて、我ら悪魔でも、そうそうできることではないが」
「そう……なのか? 村のみんなは……」
「それ、聞き飽きてきたのだ……はぁあああああ」
ルルは、とても疲れた様子でため息をついた。
「旦那様は、色々と課題が多いのだ……天才すぎるというのも困ったものなのだな」
「え? 俺は、どこにでもいるような凡人だけど……」
「こんなことができる凡人がいてたまるか、なのだ!」
ルルに叱られてしまう。
なぜだ……?
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