19話 改めて冒険者としての道を
「すまなかった」
決闘が終わり……
その後、俺とルルはギルドマスターの執務室に案内された。
そこで、ギルドマスターは深く頭を下げて、俺達に謝罪をした。
「トッグ達の暴走を許していたのは、私のせいでもある。今更と思うかもしれない。納得できないかもしれない。ただ、せめて謝罪をさせてほしい」
「えっ、いや、そんな……!? 気にしないでください。ギルドマスターが謝罪する必要なんて……」
「いや、これは私の監督責任の問題だ。気づかなかったというのは言い訳にすぎない」
「うむ、その通りだ。よくわかっているではないか」
「ルル!?」
「旦那様よ、この男を甘やかしてはならんぞ。上に立つ者は、下の者をきちんと制御する義務があるのだからな」
「そちらのお嬢さんの言う通りだ。いやはや、なんとも情けない……」
再び頭を下げられてしまう。
「バーンクレッド君が冒険者に呆れても仕方ないと思う。ただ、キミは素晴らしい能力と才能を持っている」
「そんなことありませんよ。俺なんて、大したことない新米です」
「いや、そのようなことはない! 私は長いことギルドマスターをやっているが、キミのような冒険者は見たことがない! 百年……いや、千年に一人の逸材だ」
「そんな、言い過ぎですよ……」
「言い過ぎなものか。これでも、まだ足りないくらいだ。キミとトッグの決闘を見て、私は、そう確信したよ。これほどの逸材を見たことはない、とね」
「うむ、うむ。お主、わかっているではないか」
なぜかルルがドヤ顔を披露した。
「できることならばバーンクレッド君には、これからも冒険者を続けてほしいのだが……どうか、お願いできないだろうか? ギルドにできることはなんでもする! もちろん、今回の謝罪と保証……それに、今後、永続的なバックアップも約束しよう! それだけ、キミを失うということは、冒険者ギルドにとって大きな損失なのだ」
「いえ、あの……えっと、わかりました、謝罪を受け入れます。なので、頭を上げてください」
「本当か!?」
「はい。その……実のところ俺は、トッグのことは、もうあまり気にしていないんです。振り切れた、っていうのもありますけど……」
トッグ達に裏切られた時は、死ぬかと思った。
それだけじゃなくて、心がとても痛かった。
あんな想いは二度としたくない。
それは本心だ。
でも……
「おかげで、ルルと出会えましたから」
「……旦那様……」
「だから、ギルドマスターのことまで恨むつもりはありません。トッグ達のことは許せないですけどね。もちろん、冒険者も続けるつもりです」
「……感謝する」
最後にもう一度、ギルドマスターは頭を下げた。
「このようなことが二度と起きないように、体制の改善を約束しよう。それと、逃げたトッグを捕まえてみせる。彼の仲間であるレイリーとイザベラは、すでに逮捕済みだ。厳罰を約束する」
「はい」
「それと……」
ギルドマスターは席を立ち、とあるものを持ってきた。
「これを」
差し出されたものは冒険者証だ。
名前は書かれていない、空白の冒険者証。
「受付嬢から聞いたのだが、そちらのお嬢さんは冒険者になりたいと?」
「うむ、その通りなのだ! 旦那様と一緒に歴史に名を刻んでやるのだ!」
「これは頼もしい。では、これを使ってほしい。せめてもの詫びだ、すぐに作らせた」
「む? しかし、試験が必要なのではないか?」
「貴方なら不要だ。バーンクレッド君の一件で、人柄、能力についてはすでに証明された。今更、測ることはなにもない」
「……ぶっちゃけ、助かったのだ。試験とか、めっちゃめんどくさそうだったからな」
ルルは、とてもほっとした顔に。
そんなに嫌だったんだ、試験……
悪魔なのに、たまに子供っぽいところを見せるんだよな。
でも、そういうところも好きだ。
「しかし、これはなにも書かれていないが? むぅ……旦那様?」
「登録が済んでいないからな。ちょっとちくりとするかもだけど……針で血を出して、それから、ここに親指を当ててみて」
「こうか?」
言われた通り、ルルは、一緒に差し出された針で親指をついた。
血の珠ができて……
その状態で触れると、冒険者証が輝いた。
「なんと!?」
「こうすれば、後は勝手に必要な項目が埋められていくから。冒険者の登録はこれで……」
……ちょっと待てよ?
冒険者証は身分証のようなもので、わりと詳細な個人情報も記されることになる。
ルルが悪魔ということも記されたら、大変な騒ぎになってしまうのでは……?
「旦那様よ、できたみたいだぞ」
「見せてくれ!」
慌ててルルの冒険者証を確認した。
「……よかった」
ルルが悪魔という情報は記されていなかった。
安心したところで冒険者証をルルに返す。
「どうしたのだ、旦那様よ?」
「いや、なんでもないよ。それよりも……」
ギルドマスターを見ると、柔らかい笑みを向けられた。
「それは、せめてもの謝罪の証だ。それと、優秀な冒険者はギルドとして確保しておきたい、という打算もあるが」
「もしかし、ルルのことを知っているんですか……?」
「いや、初めて見る。しかし、強者というのは、そこにいるだけでわかるものだ。もちろん、バーンクレッド君のことも」
なるほど。
そういうギルドマスターも、かなりの実力者なのだろう。
ただ話をしているだけなのに、空気が重いというか、妙な圧を感じた。
「これで、今日から貴方は冒険者だ。ギルドの方でも登録しておいた。ただ、ランクは最低のFからとなる。これは、誰であろうと共通なので許してほしい」
「ちなみに、旦那様のランクは?」
「俺もFだよ。新米だからな」
「なら、Fランクで問題ないのだ! にゅふふふ、旦那様とお揃い♪」
そんなところでも喜ぶルルは、やっぱり可愛い。
手を繋ぎたい。
抱きしめたい。
「えっと、その……だ、旦那様よ。口に出ているのだ……」
「え!? あ、その……ごめん」
「はっはっは、良いコンビになりそうだな」
微笑ましい視線を向けられてしまった。
「これで、今日から冒険者として活動できるが……その前に、貴方の冒険者証を確認させてくれないか? ギルドマスターとして、軽くでも各々の実力を把握しておかないといけないのだ」
「うむ、構わないぞ」
ギルドマスターは冒険者証を受け取り……
そして、顔をひきつらせた。
「レベル……8000……?」
「ごほっ……!?」
しまった、レベルは偽装できていなかった!?
というか、そこは俺も見落としていたんだけど……
ルルのレベル、めちゃくちゃすぎないか!?
大悪魔というのも納得の数値だった。
「あー……ありがとう。確認は終わりだ」
「うむ」
現実逃避をして、見なかったことにしたみたいだ。
「とにかく、これで、今日から貴方も冒険者だ。どうかよき冒険者ライフを」
「はい!」
「うむ!」
こうして……
俺は冒険者資格を取り戻して、ルルは冒険者と認められることになった。
これから二人の冒険が始まる。
そう考えると、とてもわくわくした。
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