17話 決闘・その4
「いやいやいや……ありえぬだろう」
与えられた仕事を完了して……
慌てて駆けつけた我が見たものは、トッグという愚か者達が仕掛けた姑息で卑怯な罠だった。
観客席にいるトッグの仲間が魔法を使っていたのだ。
『プリズングロウ<簒奪者>』
対象の肉体に強烈な負荷をかけて、能力値を減衰させて。
さらに、その身に受ける重力を数倍にするという魔法だ。
この魔法の厄介なところは、レベルが高いほど効果が大きい、というところにある。
レベルに関係なく能力を半減させる。
100レベルなら50レベル相当に。
1000レベルなら500レベル相当に。
レベルが高ければ高いほど、減衰される効果が大きい。
仮に、我がその魔法を受けたとしたら、体の自由は奪われてしまうだろう。
行動不能に陥るまではいかないものの、そこらにいる人間のように弱く脆く、拙い動きをするしかできなくなってしまう。
レベルが半減すれば、当然、元通りの動きは不可能。
それに慣れるとしても、相応の時間がかかってしまう。
こういう魔法を開発することができるから、人間は厄介なのだ。
我ら悪魔が負けたのも納得。
それなのに……
「旦那様は……最初はちと動きが鈍くなったものの、なんかもう、順応しているのだ。あれ……? えぇ、ど、どういうことなのだ……?」
行動不能に陥ることはなくて。
動きが鈍くなったのは、ちょっとだけ。
すぐにいつも通りの動きを取り戻していた。
もちろん、魔法はかけられたままだ。
「えっ? えぇ……??? ありえぬぞ。あのようなこと、我でも無理なのに……ど、どういうことなのだ?」
デバフを受けているが、しかし、その状態で最適な体の動かし方を探り、それを実践してみせた?
この短時間で、我のような大悪魔も苦戦するという魔法に対して、順応してみせた?
「うーん……デタラメすぎるのだ……」
悪魔の我でも、ちょっと引くほどの順応性の高さだぞ。
これが真の天才というやつか……
それとも、旦那様の謎の故郷のおかげ?
「ふふんっ!」
まあ、どちらでもよい。
さすが旦那様なのだ!
我は、嫁として鼻が高いぞ!!!
ふっはっはっは!!!
って、ドヤ顔をしている場合ではなかった。
準備はできたと旦那様に合図を送る。
その直後……
――――――――――
準備はできた。
その合図を受けた俺は、反撃に出ることにした。
トッグのポールアックスを素手で受け止めて、そのまま掴み、固定する。
「なんだと!?」
「あれだけ振り回していれば、簡単に軌道を読むことができる」
「いやいや無理なのだ」という声が観客席から聞こえてきたような気がするけど、気にしない。
「てめえっ、離せ! カイルのようなゴミカスが、この俺に……!!!」
「これで……」
ポールアックスを素手でへし折り。
さらにトッグの懐に潜り込んで、腹部に一撃。
「がっ……は!?」
トッグは腹部を押さえて、震えながら二歩、三歩後退して……
立っていることができず、そのまま倒れた。
わぁあああっ! と訓練場が湧いた。
「ぐっ……ぁ……こ、この俺が、こんな……こんなヤツに、負けるなんてぇ……!!!」
「……ここまでのようだな。ギルドマスターの権限で、ここで決闘を終了とする! 勝者は、カイル・バーンクレッドだ!」
俺の勝利が告げられた。
「ふぅ……なんとか勝てた」
いざ終わると冷や汗が出てきた。
思い返すと色々と危ないところもあって、僅差の勝利だったと思う。
うん。
これに慢心しないで、さらなる精進を積んでいかないと。
「旦那様!」
「ルル!」
ルルが飛び出して、笑顔で抱きついてきた。
「見ていたぞ、旦那様よ! なんという素晴らしい戦い。我は、何度も何度も感心させられたぞ!」
「そんなに感心するところはなかったような? けっこう危ういところもあったし」
「旦那様は謙虚なのだ。あれで危ういとなると、世の中、全ての戦いが危ういということになるぞ? もっと自信を持つがいい。そして、胸を張るがいい」
ルルは周囲を見た。
つられて俺も視線をやると……
「いいぞーっ! すごい決闘だった。俺は、久しぶりに胸が熱くなったぜ」
「やるじゃないか、小僧。見直した……というか、偏見の目を向けていて悪かったな」
「私よりも強いんじゃないかしら? あのトッグを倒しちゃうなんて……ふふ、面白い子ね」
次々に歓声を送ってくれていた。
そのどれもが好意的なもので……
「皆、旦那様の実力を認めたのだ。故に、誇るがいい」
「……うん。ありがとう、みんな」
俺は手を上げて歓声に応えて……
より一層、歓声が大きくなるのだった。
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