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16話 決闘・その3

「うぉおおおおおーーーっ!!!」


 トッグは獣のように吠えながら、木製のポールアックスを振り回してきた。

 一撃一撃が速く鋭い。

 木製とはいえ、直撃したらただじゃ済まないだろう。


 でも、不思議と恐怖はない。

 焦りもない。

 絶対に当たらないという確信があった。


 トッグの攻撃はスローモーションのように遅くて……

 それだけじゃなくて、攻撃が単調で、簡単に軌道を予測することができる。


 最初は手加減されていると思っていたのだけど……

 たぶん、彼は本気なのだろう。


 本気のトッグに対抗できるのは、レベルが上がっただけじゃない。

 ダンジョンでルルに稽古をつけてもらったおかげだろう。


 ……本当は。


 ルルにも打ち明けたけど、トッグのことが怖かった。

 冒険者になったばかりの俺が、Aランクパーティーのリーダーに敵うわけがない。

 初心者狩りをされた時のように、また、狩られてしまうに違いない。


 トッグに……勝てない。

 またやられてしまう。


 罠にハメられた時のことがトラウマになっていて、そんな恐怖に囚われていた。

 抜け出すことができず、一生、つきまとわれるものだと……そう思っていた。


 でも。


 違う。

 そんなことはない。

 壁は乗り越えることができる。

 過去を振り切ることができる。


 だから……

 俺は、前に進む。

 どこまでも突き進んでいく!


「このっ、このこのこの、このぉ……クソガキがぁっ!!!」

「当たらない」


 一撃も受けることはない。

 速度や威力は上がっていたものの、怒りのせいか攻撃が単調になっていた。

 挑発を混ぜてみると、さらに見切りやすくなる。


 そろそろ反撃に出たいところだけど……


 ちらりと観客席を見る。

 そこにルルの姿はない。

 まだ彼女の準備は整っていないみたいだ。


 なら、このまま時間を稼ぐ。

 避けるのは得意だけど、うまいところ反撃をする術を持たない……と思わせておく。


 今日は、体が羽のように軽い。

 いくらでも避け続けることができそうだ。


 そう思っていたのに……


「……えっ!?」


 突然、ズンッという上からの衝撃を感じた。

 体が重い。

 全身に鉛の塊をつけたかのように。

 水の中にいるかのように、自由に動かすことができない。


「くらえやぁっ!!!」

「くっ……!?」


 避けられない。

 自由にならない体をどうにかこうにか動かして、両手を前で交差させてガードした。


 ガンッ!


 骨にまで響くかのような重い一撃。

 吹き飛ばされてしまうものの、なんとか、うまく受け身を取ることができた。


「なんだ、これ……? どうして……」

「ははっ、スタミナ切れってところか? ちょっとはやるのは認めてやるが、所詮、お前はその程度ってことだな。Aランクの俺に勝てるわけがねえんだよ」


 ニヤニヤと笑うトッグを見て……

 それと、その視線を追いかけて、観客席で同じように笑うレイリーとイザベラを見て、状況を理解した。


 罠だ。


 たぶん、レイリーとイザベラが、僕になにかしらの魔法を使っている。

 あるいは、魔道具を利用したデバフか。

 体が自由に動かないのはそのせいだろう。


「こんなことをして、いいと思っているのか?」

「はぁ? なにを言っているんだ。てめえのふがいなさの責任を俺に押しつけるんじゃねえよ。訳のわからねえことを言うな」

「……冒険者は、強く正しいものだと思っていたけど、あんたのようなつまらない人もいるんだな。がっかりだ。あんたに冒険者を語る資格はない、犯罪者や卑怯者を語った方がいいんじゃないか?」

「てめぇ……半殺しで勘弁してやろうと思っていたが、全殺しだっ!!!」


 激昂したトッグが木製のポールアックスを振りかぶる。


 うん、狙い通り。

 挑発に乗ってくれたおかげで、さらに動きが荒くなっていた。


 それと、ちょっとした会話を交わすことで時間を稼ぐことに成功した。

 その間に、鈍い体の動かし方を覚えて……


「よいしょ」

「なっ……!?」


 さきほどと同じようにトッグの攻撃を避けた。

 まぐれじゃないことを証明するかのように、ニ度、三度……回避を繰り返していく。


「ふ、ふざけるな!? おいっ、てめぇ、なんでその状況で変わらずに動くことができる!? ありえねえぞ!」

「その口ぶり、俺の状態を知っているかのようだけど?」

「そ、それは……!」

「ちょっと大変だけど、でも、これくらいなら慣れればなんてことない」


 さっきは、いきなりだったから驚いただけだ。

 こういうものだと理解していれば、体を慣らすことができる。

 心の準備も整えることができる。


 鉛をつけられているかのように重いのなら、いつも以上に力をいれればいい。

 水の中にいるかのように自由がないのなら、さらに先を予測すればいい。


「簡単なことだ」

「そんなものが……簡単にできてたまるかぁっ!!!」


 ありえない、という感じで怒鳴りつけられても困る。

 現に、こうしてできているのだから。


 俺にできるくらいだ。

 ちょっと練習すれば、誰にでもできることだと思う。

 故郷のみんななら、俺以上に、もっと簡単にできるだろう。


 それができないトッグは……


「こんなこともできないなんて、もしかして、冒険者の才能がないのか?」

「このっ……!!!」


 この挑発も成功。

 トッグの攻撃がさらに荒く、激しくなっていく。


 その分、回避はしやすいため、やっぱりいくらでも戦い続けることができそうだ。

 とはいえ、ずっとこのままというのもまずい。

 どこかでミスしないとも限らないし、なるべく早いうちに決着を……


「あ」


 ふと、観客席にルルの姿を見つけた。

 彼女は俺の視線に気づいて、ぐっ、と親指を立ててみせた。


 よかった、準備が整ったみたいだ。


 さあ……

 ここからは反撃の時間だ!

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