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15話 決闘・その2

 カイルは冒険者になったばかりの新米で、当たり前ではあるが無名だ。


 一方のトッグは、Aランクパーティー『漆黒の牙』のリーダー。

 その実力は広く知られており、武勇は王都にまで届いている。


 故に、決闘の結果は火を見るよりも明らかだ。

 まともな勝負にならず、一方的な展開になるだろう。

 圧倒的な実力差ですぐに終わるだろう。


 誰もがそう思っていたのだけど……

 その予想は早々に覆されてしまう。


「この……クソガキがぁ!!!」


 トッグは木製のポールアックスを己の体の一部のように扱っていた。


 その狙いはとても正確だ。

 攻撃速度も高く、まるで風のよう。

 もしも直撃したのなら、木製だとしても岩を砕くことができるだろう。


 伊達にAランクパーティーのリーダーは務めていない。


 トッグの攻撃は嵐のように苛烈だ。

 速いだけではなくて、一撃一撃に大きな威力が込められている。


 避けることは難しい。

 防御をしても、その上から叩き潰されてしまう可能性がある。


 彼が暴れ始めたら最後。

 止めることは叶わず、暴力の嵐に飲み込まれて、倒れてしまうだろう。

 まともに激突して、勝利を得る者は数えるほどしかいない。


 当然、初心者であるカイルが抗うことはできない。


 できないはず、なのだけど……


「よし、これなら……!」


 カイルは全ての攻撃を避けていた。

 その動きに危ういところはない。

 偶然ではなくて、まぐれでもなくて、実力で見切っていることが証明されていた。


 トッグを含めて、誰もが一瞬で倒されると思っていただけに、予想外の展開に観客達はどよめいた。


 トッグが手加減をしているのだろうか?

 いや、しかしそうは見えない。

 俺だとしたら、あの攻撃を前に10秒と保つ自信はない。


 そんな声が聞こえてきて、トッグは苛立ちを覚えてきた。

 それらの言葉が、まだ倒せないのか? という嘲りに思えてきたのだ。


「ちょこまか動きやがって! 虫か、てめえはっ」


 トッグは本気を出すことにした。


 最初は、適度にカイルをいたぶり、情けない姿を見せてやろうと思っていたのだけど……

 しかし、攻撃は一向に当たる気配はない。

 このままだと、トッグの方が情けない姿を晒すことになる。


 もういい。

 こんなガキのお遊びに付き合う意味はない。

 さっさと叩きのめして、再び奴隷のように好きにコキ使ってやろう。


 そう判断したトッグは、全身に力をみなぎらせていく。

 そして、さきほどの倍以上の速度で斬りかかる。


(こいつで終わりだ!)


 トッグは己の勝利を確信するが……


「よっと」

「はぁ!?」


 なぜかカイルの速度も上がり、トッグの攻撃を危うげなく回避してみせた。


 ありえない、どういうことだ?


 トッグは表情にこそ出さないものの、大きく混乱した。


 カイルの動きを見切り、これならば回避はできないという威力、速度、タイミングで攻撃をしかけたのだ。

 それなのに簡単に回避されてしまう。


 なぜだ?

 なぜだ?

 なぜだ?


(……もしかして)


 カイルの動きを見切っているように思えて、ぜんぜん見切ることができていなかった?


 その可能性に思い至り、トッグは冷や汗をかいた。

 想像が正しいとしたら、トッグは、カイルの実力を見誤っている。

 しっかりと測ることができない。


 それはつまり、カイルの力は底を見通せないほどに大きい、ということだ。


「くそっ、ふざけるな!!!」


 カイルの方が上などということは、あってはならない。

 認めるわけにはいかない。


 トッグは怒りに吠えつつ、大きく踏み込んだ。

 その際、地面を強く蹴る。

 砂が舞い上がり、目潰しとして機能するのだけど……


「いたた……でも!」

「なっ……!?」


 カイルは、確かに目潰しを受けた。

 砂が目に入り、一時的に視界を奪われた。


 それなのにトッグの攻撃を避けてみせた。


 偶然ではない。

 その証拠に、トッグはさらなる連続攻撃を繰り出すものの、一撃もヒットしない。

 全てギリギリのところで回避されていた。


「ば、ばかな……」


 ありえない光景を連続で見せつけられて、トッグは、一度距離を取る。


「……お、驚いたぜ。少しはやるじゃねえか」

「一応、ありがとう。でも、手加減はいらないけど」

「は?」

「観客を呼ぶくらいだから、試合のことを考えているんだろう? だから手加減して、観客を楽しませようとしている」

「おいおい、俺は手加減なんて……」

「手加減している、って考えないと、あまりにも遅くで弱い攻撃だ……だろう?」

「……てめぇ」


 あからさまな挑発だけど、トッグは冷静を保つことができない。

 ギリギリと柄が壊れてしまいそうなほど、木製のポールアックスを強く握る。


「ズタズタにしてやるよぉっ!!!」


 再びの突撃。

 猛攻を繰り出すのだけど……


「……やっぱり、手加減したままじゃないか」

「てめえっ、まだ言うか!」

「だって……」


 カイルは攻撃をかいくぐり、一撃を入れる。


「かはっ!?」

「ほら、こんなにも遅い」

「なっ、ぐぅううう……なんで、こんなにも重く……くそっ!」


 トッグは反射的に距離を取る。

 そして……震える。


「こいつ……は!?」


 一瞬、カイルが巨人のように大きくなったように見えた。


 それだけの威圧感。

 それだけの覇気。

 パーティーに参加していた頃とはまるで別人で、恐れを、怯えを抱くほどの力を持っているように見えた。


 トッグは確かな実力者ではあるが……

 なまじ力を持っているだけに、カイルの本当の力にも気づいて、萎縮してしまう。

 恐怖してしまう。


 ……なにをしても絶対に敵わないと、圧倒的な差を感じてしまう。


「ばかな……そんなこと、そんなことっ……認められるわけねえだろうがぁっ!!!」


 使い勝手のいい新米だった。

 使い潰して、パーティーの成長に必要な糧となるはずだった。

 それなのに、糧になるわけではなくて、いつの間にか前を歩いていて……


 その事実は、トッグのプライドを酷く傷つけた。


 なにがなんでも勝つ。

 勝たなければいけない。


 そのために、トッグは秘策を使うことにして……

 ちらりと、観客席にいるレイリーとイザベラにアイコンタクトを送った。

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