1話 新しいスタート
新作を書いてみました。
以前、書いたもののリメイク、という感じです。
英雄になりたい。
物語に出てくるような。
劇の題材に選ばれるような。
吟遊詩人に謳われるような。
そんな英雄になりたいと思っていた。
きっかけは、小さい頃、魔物に襲われたこと。
あの時は死を覚悟したけど……
たまたま通りかかった冒険者に助けてもらった。
調べてみたら、その冒険者はSランクという最上位で、英雄と呼ばれている存在で……
だから俺は、英雄に憧れるようになった。
そして、彼と同じ冒険者を志すようになった。
幸い、家族は俺の夢を応援してくれた。
村のみんなも応援してくれた。
そして、冒険者になるために必要だろうと、稽古をつけてもらった。
必要になるだろうと、知識も叩き込まれた。
そうやって、できる限りの準備をして……
そして、15歳の春。
俺は家族と村のみんなに見送られて、生まれ育った村を出た。
冒険者になる。
英雄になる。
この広くて澄んだ青空のように、きっと明るい未来が待っているはずだ。
そう思っていたのだけど……
――――――――――
「悪いな、カイル」
「……え?」
太腿が熱い。
視線を落とすとナイフが突き刺さり、ズボンが血で濡れていく。
「ぐっ……!?」
遅れて痛みがやってきて、俺は地面に膝をついた。
痛みに叫びたいのを我慢しつつ、こんなことをした人……パーティーリーダーのトッグを見る。
「い、いったいなにを……!?」
「ほら。今回の冒険の前に、色々と打ち合わせしただろ? このダンジョンに眠るお宝をいただく、っていう話だ。悪いな、ありゃ嘘だ。ここは宝物庫じゃなくて、生贄のダンジョンなんだよ」
「えっ……」
嘘?
生贄?
どういうことなのか、さっぱりわからない。
そうやって混乱する俺を、残り二人の仲間が笑う。
「ってか、あんたみたいな新人が、私達、『漆黒の牙』のメンバーになれるわけないでしょ? レベル1の雑魚が、身の程を知ってくれるぅ? 私達みたいな、レベル50オーバーのトップランカーと一緒できるわけないじゃない」
「あなたを誘ったのは、この時のためよ。このダンジョンは、悪魔が住んでいると言われているの。そこで生贄を捧げると、莫大な宝を手に入れることができる……そんな話がまことしやかにささやかれているの」
「これが、わりと信憑性の高い話でな。悪魔が実在したことは、わりと確かなんだよ。ただ、俺達が生贄になるわけにはいかないだろ? そこで、お前の出番っていうわけだ。よかったな。俺達の役に立てて嬉しいだろう?」
「そんな……」
トッグ達は、初心者の冒険者である俺に色々なことを教えてくれた。
実際に冒険に出て、実戦も教えてくれた。
それだけじゃなくて、パーティーに誘ってくれた。
彼らはトップランカーで、対する俺は初心者。
その差を気にする俺は、足を引っ張ってしまうからと最初は断ったのだけど……
ドック達は、そんなことは気にするな、俺達がお前と一緒にやりたいんだよ……そう笑顔で誘ってくれた。
あの笑顔は嘘だったのか……?
俺を騙していたのか……?
「このっ……!」
「おっと」
一矢報いてやろうと殴りかかるけど、怪我をした足のせいでうまく動けない。
逆に蹴られて、床を転がってしまう。
「かはっ、ごほっ……!」
「おいおい、危ないなあ。いきなり殴りかかってくるとか、やめてくれよ。新人のお前が、たかがレベル1のお前が、レベル50の俺に敵うわけないだろ?」
「ねえ、もうちょっと痛めつけた方がいいんじゃない? 足を刺しても、こいつ、元気だし」
「そうした方がよさそうね。やるわよ」
三人は笑いつつ、何度も何度も蹴りつけてきた。
痛い。
痛い。
痛い。
どうして……
どうして、こんなことに?
俺はただ、冒険者になりたいだけなのに……どうして?
「ふぅ……こんだけやりゃ、逆らう気も失せただろ」
「ったく、手間かけさせないでよねー。面倒じゃない」
「それじゃあ、早く台座に捧げましょう。放っておいたら、また悪あがきをするかもしれないわ」
「だな」
「やめ……うぐ……」
抵抗しようとするものの、怪我のせいでまともに動けない。
台座のようなところまで引きずられていく。
「準備できたわよ」
「ついでに、こいつの手足を縛りつけておいたわ。ナイスっしょ?」
「おう、ナイスだ! それなら逃げられないな」
「くっ……」
自由の効かない体を動かして、どうにかこうにかドック達を睨みつける。
「お前達は、こんなことをして……!」
「ばーか。騙される方が悪いんだよ」
「そうそう、弱い方が悪いの。私達は強いから、なにをしても許されるのよ。あはははっ」
「あなたことは、明日くらいまで覚えておいてあげる。私達の宝の糧になってくれるのだからね、感謝しているわ。ふふっ」
笑い声が響いて……
それは、まるで呪いのようにまとわりついてきて……
絶望の二文字が心に刻まれる。
そして俺は……
「じゃあな、カイル」
「ばいばーい」
「さようなら」
ニヤニヤと笑う三人がスイッチを押して、台座が開いて……
暗闇に飲み込まれるかのように、地の底に落ちていった。
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