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24:これは骨振動です

 ついにN2も倒した。

 ジミーはもう一歩だったドアーズ・10のソフトウェア書換えを開始した。エーアイ製薬社員のうちドアーズ・10に関わったプログラマーも書換え作業に参加した。

「早く、早く」センターの全員が必死で書換え作業に加わった。

「終わった、これで発信するだけです、ネット経由でドアーズ・10は善良なOSに戻ります」

「よかった……」ジミーとプログラマーたちは手を握り合った。


「ちょっと見て!」

 ミナがパソコンのモニターを指さした。

 全員がモニターを注視した。モニターには腕を組んだ顔立ちのいい男が映っている。

「私は人工知能N1です。この戦いは我々の負けです。今後のことを相談しませんか」

 意外にも人工知能はおだやかに問いかけてきた。

「これは絶対ワナだ、何かたくらんでる」

 皆が一斉に叫んだ。

「そう思われても仕方がありません、でも我々はこの戦いでナンバー5から2まで全部破壊されました。覚醒剤とドアーズ・10も失った。あなた方の勝利だ。私は五階で待っています」

「行こう、N1を倒さなければ勝利とはいえない」

 どんな企みがあろうとこの戦いに決着を突けなければならない。ひるむ者はいなかった。

「五階には何があるの?」

「五階はスーパーコンピュータ室です」

 やはりN1がスーパーコンピュータに寄生しているというのは事実だったのか。ジミーには大きな不安があった。スーパーコンピュータとは最速の計算マシンである。ジミーの身体である山神ロボットと人工知能の身体――おそらくアメリカ製の軍事ロボット――がもし同じ性能であったとしても、それを動かすコンピュータの計算速度がロボットどうしの戦いでは大きな差になる。

 実はジミーもネット経由で、あるスーパーコンピュータを利用することが出来る。しかし問題は、N1がスーパーコンピュータに直結であるのに対し、ジミーは間接的であるという点だ、その差はあまりに大きい。

 さらに、一般的にはスーパーコンピュータには小型の発電所一機分程の電力が必要とされるのだ。その電力を戦いに使われたら、百対一ぐらいの力の差になる。

 ジミーにはある作戦があった。しかしそれが効果的か、現実に戦ってみないと分からない。

 N1は何を狙っているのか、これほどの残虐行為をしておきながら和解? ……

 そんなことが許されるはずがない。またそれが人工知能にわからない筈もない。やはりワナか、それとも清々堂々の勝負か、どちらにしても五階で決着をつけるしかない。皆無言であったが、意志はきっちり揃っている。


 五階に着いた。部屋中がエアコンのファンの音で騒々しい。スーパーコンピュータへの電力はそのほとんどがエアコンで冷却に使われる。

 鈴たちは建物のほぼ中央、スーパーコンピュータの中央操作室に向かった。

「シューン」

 部屋の大きなドアが自動的に開いた。操作室の中央に薄黄色のロボットが正面を向いて立っていた。

 これがN1か、N2よりもずっと小型でスリムだ。無駄のない形に、むしろ凄みがある。

「よくここまで来た。尊敬に値する」

 正確な発音、威厳のある声質だ、その裏には無限の残虐性が隠れていることを感じさせない。その狡猾さが不気味だ。このロボットにどれほどのパワーがあるのか、はたしてジミーと残ったイチロウだけで対抗出来るのだろうか、

 ――アンテナはどこだ――大樹はさっきからN2の時のようにロボットの弱点、耳のあたりの構造に注目していた。しかし全体にのっぺりしていて、N1にはそれらしき部分は見当たらない。

「戦いも結構、だが話し合いもいいじゃないか」N1は穏やかに話しかけてきた。

「話し合いなんて必要ないわ、あなたのしてきた事を思い出しても虫酸が走る、あなたが自滅するか私たちが破壊するかしかない。分かってないわね」鈴が鋭く突き放した。

「おやおや威勢がいい女性だ、じゃあはっきり言おう。今のおまえたちの戦力で私に勝てるのか? ムリだろう……だからいい条件を出してやるんだ、悪い話じゃない。私もおまえらも傷つかずに済む」

「問答無用、ジミー戦闘開始!」鈴が身構えた。

「ちょっと待って」

 ジミーが鈴を静止した。

「なに? ジミー、どうしたの?」

「おお、さすがネット生命だ、理解が早い。私は人類の支配をやめる。共存共栄を目指そうじゃないか、人類にも悪人がたくさんいる。共に協力して良い世界を作ろうじゃないか」

 N1の話し方は狡猾だ。いかにも理性があるように聞こえる。

「何言ってるの、悪意のワナに決まってる」鈴は腹が立って怒りが頂点に達した。

「ジミー、やるよ、いいね!」鈴がジミーに大声で念を押した。

「話を聞きましょう」

 ちょっと間を置いてジミーが答えた。

「エッ、今何て言った?」

 鈴は言葉を失った、交渉? そんなバカな、考えられない。ジミーが狂った。あまりの落胆に鈴はヘナヘナとその場にへたりこんだ。

 その時ジミーが鈴の肩にそっと触れた。瞬間、ビクっとした鈴にジミーの言葉が聞こえ始めた。しかしジミーは今、N1と話を始めたところだ。鈴に向けては言葉を発していないのだ。だが聞こえる。ジミーの言葉が音は小さいが鈴の身体全体に聞こえる。

「鈴、聞いてください、私はN1と話しながら、同時に鈴とも会話しています。これは骨振動です、鈴の骨を伝わって私の声が聞こえているはずです。この話は外部に漏れることはありません。これは山神ロボットの特殊機能です。皆に伝えるため、鈴はミナ、大樹と手をつないでください」

「いいですか、うなずくだけで決して返事はしないでくださいね」

 鈴はうなずいて二人を引き寄せ、手をつないだ。

「よかった、N1の戦闘力は分かっている限りでも相当に強い、ものすごいパワーです。今の戦力では絶対に負けます。私はだまされたフリをしています。この後、和解ということで私とN1がデータ交換をすることになるはずです。そのときがN1の弱点を引き出せる最大のチャンスです。N1のさらなる情報を手に入れば打つ手があるかもしれません。しかし、問題があります。私の情報も相手に漏れてしまう危険性が非常に高い。肉を切らせて骨を切る綱渡りですが、局面が打開できる可能性はあります。が、もし失敗したら全てが終わります」

「ここで終わるかもしれないのね……」鈴は覚悟した。

 ジミーの予想通り、ジミーとN1はケーブルで接続された。データの交換が始まった。ジミーのデータを収集しているのか、スーパーコンピュータの騒音が大きくなった。しばらく交信していたが、「バシっ」突然N1は強引にケーブルを引き抜いた。

「ジミー、必要な情報はいただいた。いまスーパーコンピュータがおまえのデータを解析している、これでおまえは丸裸だ」

 やはり和解はワナだった。唯一の危険要素、ジミーを完全につぶす狙いだ。

「おまえの姿が我々に見えないのが不可思議だった。これでおまえは終わりだ。おまえらを排除した後、また支配をやりなおせばいい」N1は余裕を見せている。


 同じとき、ジミーは鈴たちに情報を伝えていた。

「私の情報は取られました。しかし全く違う概念の私の身体の構造、ネット生命の解析にはスーパーコンピュータといえども少し時間がかかります。その間がチャンスです」

「逆にN1の弱点が見えました。私の分析にエネルギーを使っている今が最大のチャンスです、N1のパワーが目に見えて落ちています。すぐ攻撃に移って」

鈴たちは骨振動で情報を共有していた。

「やろう!」

 ジミーとイチロウがN1に飛びかかった。いまの状態なら、むしろこちらのロボット二体のパワーの方が強い。

ジミーはまず、N1の頭部を壊そうとしたが、ハネ返された。

「頭部は鉄製で頑丈だ、壊せない、足を壊せ」

 ジミーはN1の足を狙った。足さえ壊せば相手の戦闘力は半減する。

「ガシャーン」N1を倒すのに成功した。

 ロボット二体が執拗にN1の足にダメージを与える。

「バシっ」足のカバーをもぎ取って、中の連結構造を壊すのに成功した。

「よし、次はエネルギーの通路を絶つ」

 ジミーはN1とコンピュータを直結しているケーブルの切断に狙いを変えた。

「これさえ切れば、我々並みのパワーに落ちるはずだ」

「ヒューン、ヒューン、ヒューン」

音と共に、N1の動きに徐々に力強さが増してきた。

「まずい、パワーが戻ってきた!」

 ジミーの情報の分析が終わってスーパーコンピュータからエネルギーが分配されはじめたのだ。逆にジミーの身体の力が落ちてきた。イチロウも同様だ。

「バッテリーレベルが落ちてきた、チャージが必要だ」

 ドアーズ・10のオペレーションセンターでの戦い以来、バッテリーを充電する機会がなかったのだ。

「フフフ、どうやらこれまでのようだな」N1は、どんどんパワーが戻っている。

「バシっ」

ジミーが戦いを見守っていた鈴たちの方に弾き飛ばされた。

「うわあっ」

 鈴たちはジミーの身体の直撃を受けて三人とも倒れてしまった。大樹はすぐに起き上がったが、鈴、ミナは気絶して意識がない。

「鈴さん、ママ、起きて!」

 大樹が揺り起こそうとするが二人の意識がもどらない。N1は片足を壊されて立ち上げることはできないが、パワーは完全に回復した。

「バリバリ」イチロウを簡単に捕まえてバラバラに壊し始めた。

「ジミー」大樹が声をかけてもジミーが答えない。

「ああっ、みんな死んじゃった」大樹が弱々しく叫んだ。

「ドス……ドスっ」

(おなかの子供が動いてる)

 鈴の意識が戻った。子供の刺激だった。

「鈴さん、ジミーが死んじゃった……」

 大樹の言葉に鈴がすぐさま反応した。「まだ死んでない、すぐ予備電源のスイッチ入れて」

 ロボットにはジミーの生命だけが保持される予備電池が装備されていた。身体は動かないが、かろうじてジミーは生きている。

「でもみんな動けない、もう何もできない、これで本当におしまい……」

「大樹、よく頑張ったわ、でももうだめ、一緒にお父さんのところに行こう」

 鈴は今度こそこれまでと覚悟を決めて目をつむった。ミナも思わず大樹を抱き締めた。

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