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22/26

22:ついに戦いの朝は来た

「ジミー、エーアイ製薬に乗り込んだとして、悪意のOS、ドアーズ・10の関係プログラムは消滅させることは出来ると思う。だけど最大の問題は、私も含めてすでに日本人の50%が体内に持っているエーアイジェイのマイクロカプセルをどうやって取り除くかなんだけど」

 人工知能の排除、ドアーズ・10の排除、マイクロカプセルの排除、これらを全て実現しなければこの危機は乗り越えられない。やっとここまで来た鈴たちであるが、まだ勝利は遠い。

 ジミーが話し始めた。

「マイクロカプセルの排除は出来ると思います、ボクは隠れている間に歴史を勉強しました。人類の歴史を見ると、支配者は奴隷をコントロールするには締め付けを緩めることもしています、あまり締め付け過ぎると皆が自殺してしまうからです。過去の戦争でも集団自決がありました。覚醒剤による締め付けを解く手段が必ずあるはずです。すなわち解毒剤も必ず用意されている。それを探し出せばいいのです」

 皆が相談して、全員で直接エーアイ製薬に乗り込む事になった。急がないと、もうヤツらを止めるのに残された時間がない。

 中枢に乗り込むのは当然危険だが今は武器がある。騒動が起きてもヤツらは戦いを、エーアイ製薬の内部で済まそうとするだろう。決して警察を呼ばないはずだ。

 だが最大の懸念事項はヤツらの戦力だ。エーアイ製薬の社員が全て覚醒剤中毒者だとしても実際に全員を支配、管理するには強力な実働部隊がいるはずだ。それが人間か、あるいはロボットか、行ってみないと分からない。

 乗り込むのは三日後の夜と決まった。それまでにロボットとの連携の訓練だ。


 とうとう本当の戦いになる。鈴はこれまでの事を思い浮かべていた。ジミーとの出会い、別れ、卓の死、そして絶望しかけた時に大介と出会った。岸田の死、大介も死んでしまった。しかし大介の死によってジミーが復活した。なぜかそれが山神さんに繋がる。

 不思議だ、どうしてこんなに人と人が繋がるのだろう、亡くなった人のエネルギー? ――(霊)とかそう言う物? ――何かがそれを操作しているの?

 鈴は卓の話を思い出した。

「死んだ人の霊とかそんな物はないさ、五年前にこの場所で誰かが殺されて、恨みを持った幽霊が出るとする。でも百年前にもここで別の誰かが殺されたとしたら、どっちの幽霊が優先されるのかな? 自殺の多い場所だと、幽霊がオレだオレだと喧嘩になっちゃう。ひとつ考えられるのは、悪意の神様だな。何とか人を不幸にしようとする、とんでもなく悪趣味な神様だ。人生っていうのはそいつとの戦いって訳だ。その戦いに勝つことを幸福と言う。だから戦わないヤツは不幸のまま人生を終えるのさ」

 実に卓らしい説明だった。卓の言った通りだと思う。いま戦わなかったら間違いなく不幸になる。自分もみんなも。

 今日のロボットとの訓練は辛かった。鈴は卓を思い出しながらふっと眠りについた。


 ついに戦いの朝は来た、皆は作戦を復習した。

「イチロウとジロウが先頭に立ってエーアイ製薬の正面から入る。もし何か障害があってもイチロウが察知してくれる。障害の排除はジロウが受け持つ。暴力の戦いになったらサブロウがパワーに物を言わせる。いいわね。そうしてヤツらを締め上げて、解毒剤のありかを聞き出す。ジミーは途中から単独行動でドアーズ・10のオペレーションセンターに侵入して、破壊するかプログラムを無効化する。もし敵のロボットが出てきたら……作戦はないわ、出たとこ勝負」

 鈴たちは夜を待った。やはり会社に人数が少ない夜のほうがケガ人も少ないだろう。

 山神たちも徹夜の連続でロボットを整備してくれた。山神が大樹を呼んだ。

「大樹くん、これを見て」

 山神は神棚から布にくるまれた細長いものを取り出した。大樹にはそれが日本刀だとすぐに分かった。

「これは斬鉄剣(ざんてつけん)、鉄兜を真っ二つに切るといわれる名刀だよ。現代の刀匠、小林康宏の作品だ。君は剣道の心得があると聞いた。持って行きなさい。もちろん人を切るためじゃない、お守りだ、剣には不思議な力がある。科学者のワシが言うのはおかしいが、確かに不思議な力があるんだ」

 大樹は斬鉄剣の話を剣道の先生から聞いたことがある。明治時代の初期に三人の剣の達人が明治天皇の前で鉄兜を試し切りした話だ。三人のうち、心を込めた一人だけが成功したという。技と心が一体になれば鉄兜も切れる。

 大樹は無言で剣を受け取った。ずしっと感じる真剣の重さは、実際の重量の他に、何か秘められたエネルギーのようなものを感じさせる。言葉を発しなくても、山神の精神はしっかりと大樹に受け継がれた。

「ありがとう、山神さん、私もその剣に何か、エネルギーにみたいなものを感じる」鈴も確かに感じるものがある。

「ロボット四人、人間三人、七人のサムライ……じゃなかった、お腹の子も入れて八人ね」みんなが最後の大笑いをした、腹がよじれるほどに。


 鈴たちは車二台に分乗してエーアイ製薬に向かった。途中の登り坂で大介の亡くなった場所にさしかかった。車を止め、それぞれが一時思いを募らせる。

 ミナは思う。夫、大介との出会い……ほんの少し前まで決して豊かではなかったが楽しかった我が家のこと。それが一転して自らが戦士として戦いに向かう現実……なんで、なんで私が戦いに行くの? 私たち何か悪いことをした? ……一方的だわ、突然、悪が現れて抵抗しなければ支配されてしまうなんて……そんなことって、ないはず……だれでもそう思いたい……でも大介は私たちを守るため死んだ。

 戦争ってそういうこと? 歴史をみればむしろ当たり前に侵略とか虐殺とか、事実として残ってる。昨日まで平和だったのに、突然侵略されてしまう。現代にそれがまた起きたっていうこと。違いは相手が人間じゃなくて人工知能だってこと。

 怖い、でも目をつぶって過ぎるのを待ってちゃいけない、大介は命をかけて戦った、私も戦わなきゃ。

 鈴もこれまでのことに思いを巡らせた。

 半年に満たない数ヶ月、なにも不安のない日常が突然狂い出し、いま戦いの時を前にしている。

 卓は以前、こんな話をした。

(地球は平和であっても、宇宙は平和じゃない。たとえば隕石が1個、直径400m、たった400mの隕石が地球に落ちたら、少なくとも幾つかの国が吹っ飛ぶ、それ以外の被害も相当なことになる。地震も怖いがそんなもんじゃない……もしそれが分かっても防ぎ様がない。それに比べたら、人間どうしの戦いは防ぐことができる。もし防げなかったら戦う。少なくとも戦う事ができるだけまだマシだ)

 鈴はそれを聞きながら、(卓の戦争ゴッコ好きは困ったもんね……男の人はみんなそうかしら?)なんて思っていた。

 地震だって百年のうちに可能性が何パーセントなんて言われていて、百年後だったら自分の生きているうちは大丈夫、なんて思っていたものね。

 卓、ごめんね、今日、明日、突然危機が訪れてもおかしくないって、やっと分かったわ。

 ジミーはもっと深刻だ。

 自分を育ててくれた鈴に無言で姿を消した。自分が隠れている間に、卓が死に、人間の尊厳が脅かされるような事態になっていた。運良く復活することが出来たが、卓が仕込んでくれた男の約束がなかったら、人類はもう打つ手がなかっただろう、自分の責任は重い。

 それぞれの思いを込めてあらためて現場を見る。事故の後はきれいに修復されていて、何もなかったかのようだ。車はみんなの気持ちを乗せて動き出した。


 エーアイ製薬の正門に着いた。作戦通り、イチロウ、ジロウが降りて門のロックをいきなり破壊しはじめた。

「おい、なにしてる! 」守衛が二人、大声をあげて走ってきた。

「ガラガラガラ」無言で門を開いてゆく。

「おまえら何だ、警察を呼ぶぞ」守衛が叫んだ。

「あなたたち警察は呼べないでしょ。けがをしない程度に二人を排除して」

 鈴が命じてイチロウ、ジロウが守衛二人をつかんで投げ捨てた。二人は投げられた衝撃で動けなくなった。

 二台の車は会社の中央広場に向かった。一瞬の行動だったので、守衛から警報がまだ届いていない。

 いまのうちだ、鈴たちとジミーはここで別行動に移った。あらかじめ大体の社内レイアウトはジミーが調べあげてある。鈴たちは一目散に三階の薬剤センターに向かった。途中何人も社員に出会ったが、侵入者だとはまだ気づいていない。

 三階に上がると、がっちりとした入り口があった、ここは部屋の作りが全然違う。

「ここね、さすがに頑丈な扉があるわ」

 鈴が様子を見ていると、イチロウが反応した。

「監視カメラの光線が出ています、ジロウに妨害させます」

 ジロウが薄い煙を放った。

「これで監視カメラにはまともな映像が映らなくなります」

「扉のセキュリティを解除するよりも壊してしまおう、その方が早いわ」

 サブロウの出番だ、パワーに物をいわせてドアを外してしまった。

「リリリリ……」さすがに警報が鳴り始めた。

「そろそろ守衛から連絡が入るころね、かまわず続けて」

 バタバタと人の走る気配がし始めた。

「警備員が集まってきたみたいね、ジロウ、あれを出して」

 鈴たちは持ってきたマスクを着用した。それを待って、ジロウは催涙ガスを噴出させはじめた。この時のために山神が準備したものだ、危険性は弱いが、とてもマスクなしではいられない。警備員たちはガスを吸ってたまらず逃げ出した。

 次に第二の扉があった、それはまるで金庫のような作りだ。サブロウがフルパワーで壊そうとするが受け付けない。

「困ったわ、サブロウでも無理みたい」

「ロボット三台で一斉にやれば」ミナが提案した。

 三台で一気にドアを引っ張った。

「バリバリバリ」ドアは枠ごと外れてしまった。

「成功!」

 鈴は先頭を切って入ろうとしたが、イチロウが止めた。

「危険! とても危険、入ってはいけない! 致死性のガスが出ています」

「ウワーッ、」

 叫びながら二人の社員が転がり出てきた。口から泡を吹いている。

「この中はガスで一杯です、中の人は全員死にます」

 イチロウの言葉に鈴たちは身の毛がよだった。

「えっ、なんで人が死ぬようなガスを出すの?」

「われわれを止めるためです、中の人間はその犠牲になっています」

 鈴はあらためて、ヤツらの無慈悲な仕業に怒りがこみ上げてきた。

「私たちを止めるためここにいた人間を全員犠牲にしたって? ……ひどい! 絶対に許さない! ジロウ、ガスを無害化できる?」

「予想していましたから大丈夫です、無害化ガスで中和します」

 数分でガスは無害化された。しかし、すでに部屋の中は死人の山になっていた。

「これじゃまるでナチスのガス室じゃない、ひどいなんてもんじゃない! 大樹、あなたも見なさい。これがヤツらの本性よ、人の命を何とも思っていない、見るのは辛いけど、この怒りがないと戦えない」

「ピピーっ」ジミーから連絡が入った。

「ジミー私たちは無事だけど、部屋の中は悲惨な状態、そちらは?」

「抵抗がありましたけど大丈夫です、レベルは低いけどロボットがたくさんいました、こいつらが人間を管理していたようです、そちらはどうですか?」

「えっ、やっぱりロボットがいたのね……あっ、こっちも出てきた、話は後で」

 死体の山の奥に動く物がある、ロボットだ。白いロボットがワサワサと出てきた、十体はいる。

 イチロウ、ジロウはそれぞれ三体と戦い始めた、パワーのあるサブロウは一度に4体を相手にしている。

「ロボットなら遠慮はいらない、思い切りブチ壊して!」

 いままでのうっぷんを晴らすように敵のロボットを次々破壊した。わずか十分ほどで敵のロボットは壊滅した。すごい、さすがは神谷さんのロボットだわ。鈴は胸のすく思いだ。

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