21:ジミーがロボットを操る
そこは予想したより大きな家だった。裏に別棟で研究室があった。入り口にはきちんとセキュティがあり、重要な研究所であることが想像される。中では二人の技術者が作業をしていた。そこにある物、全てがロボットに関係していると思われる。
「この二人はいわば私の弟子です。ここでは有志が集まって、独自にロボットを研究しているんです。内容的にはおそらく世界最先端であるはずです。だが、ソフトウェアが完全ではない。といっても、今の状態でも、あなた方がテレビなどで見るようなロボットなどとは比較にならない高度な物です――我々の要求は非常に高い。それを開発していたのが岸田だった。もともとは私が全てやっていたが私も年だ、岸田に任せた。岸田はすばらしいプログラマーだったのだが……ヤツが死ぬと我々の計画は頓挫してしまう」じじいは下を向いて首を振っている。
「山神さん、ボクをロボットにつないでくれませんか、ボクはロボットを操れるはずです」
とジミーが言った。
「そうか……これは面白いことになりそうだ」
山神はさっそくジミーのパソコンとロボットを接続した。
「ヒューン」パソコンの空冷ファンがフルに回り出した。パソコンが能力の限界で動いてジミーの指令を送り込んでいる。
しばらくしてロボットの指がピクピク動き出した、続いてロボットの手足がムズムズと動き始めている。じっと見ていた山神は、「動きが明かに違う、岸田のソフトウェアを使った場合に似ているが、これは根本的に別物だ」と驚きを隠しきれない。
ロボットは立ち上がって歩き出した、動きは非常にスムーズだ、ロボットは一瞬立ち止まった。そして振り向くなり、バっとジャンプをしたのだ。
これには山神を始め、研究所の技術者たちも、度肝を抜かれた。
「飛んだ!」驚きの声があがった。
「鈴さん、これはとんでもない事ですよ、ロボットの動きが信じられないくらい人間的です」
山神の説明によると――すでにロボットは歩けるし、ジャンプもできる。しかし人間の動きに近いものはまだ存在しない。ロボットは、いかにもプログラムされた順序でその動作をなんとか実行している程度――山神の目指すレベルで測ると――まだまだぎこちない動きに過ぎないという。
「岸田のソフトウェアが最高レベルの動きをするのですが、これほどではない。鈴さん、これはジミーの持っている能力がさせるのですかね?」と、山神が逆に鈴に質問した。
問われたも鈴も答えようがない。困っていると、「――山神さん、この体、すごくいいです」
いきなりロボットが言葉を発した。ジミーの発言だ。
「ボクはロボットの人工頭脳を解析しました。いまボクはロボットを自分の体として動かしています。このロボットの人工頭脳は完全ではありません。ですからロボット自身の判断では十分な行動はできません。当面はボクの分身として使わせてください」
「――いっ、いいですよ、願ってもないことになった――」
山神は想像もしなかった事態に興奮している。しばらくして落ち着いてきた山神は、岸田について話してくれた。
「岸田のソフトウェアは、かなりいいとこまで来ていたんだ、ロボットの動きについてはね。ただ、人工頭脳の(心)の部分が最後まで決まらなかった。善悪の判断はプログラムで一応定義することが出来る。だけど、(情)が定義できないんだ。岸田のソフトウェアだと、どうしても最後に白黒の決着をつけることになる。情がないと最後には戦闘的になってしまうんだ。岸田の性格のせいかも知れないが、どうしてもそうなってしまった……(情)は定義するものじゃなくて、覚えるものかもしれない。それが岸田のソフトウェアが完成しなかった理由なんだよ。こうして、ジミーを見ていると、彼が本当に(人間味)のある存在だということが実感できる。人間以外のこんな存在があるなんて、私の人生で最大の驚きだよ。とにかく、もっともっと詳しく説明してください、私たちはこの研究所を挙げて協力しますよ」
うれしい援軍が出来た、しかもジミーが分身を持つことができるようになった。これならなんとかヤツらと戦えるかもしれない。卓、岸田さん、大介ありがとう、みんなのおかげ、これから反撃するよ。鈴は完全に戦意を取り戻した。
鈴たちは全員、山神の研究所に移った。山神の出現によって、鈴たちは初めて物理的な武器を持つことができるようになるのだ。
山神は研究中だったロボットが全て使えるように完成を急いだ。特にジミーの分身として使うロボットには最高技術を惜しみなく注ぎ込んだ。人体の偽装はなかなかの物で、遠目には人間と区別がつかない。しかしさすがに顔の表情までは再現できていない、とりあえずマスクをすることで顔を隠すことになった。
山神が解説した。
「最初にジミーが動かしたロボットは、あまりパワーがなかった。いま出来たこのロボットなら、パワーはその十倍、人間の二十倍の力は出せる、人間は五十キログラムの物を持ち上げられるから、これはその二十倍、一千キログラムの物を扱える。乗用車をひっくり返すこともできるよ。メモリは百倍、計算能力は大型コンピュータ並み、通信も最高レベルの速さだ」
ジミーは感動した。「山神さん、すばらしい体です」ジミーは新しい体がとても気に入ったようで、盛んに体を動かしている。さらにジミーの提案で、全員が高性能な通信装置を携帯することになった。すなわち全員が見たものがリアルタイムでジミーに送信される。ジミーの能力なら複数の情報を一辺に処理することができる。ジミーが司令塔になるのだ。
また山神は他のロボット三台を、急きょ使えるように作り上げた。それらは能力は劣るが、鈴たちのボディガードとしては役立つ。これでジミーは強力なロボットとなり、鈴、ミナ、大樹がそれぞれにロボットの護衛がついた。
鈴のロボットにはイチロウ、 ミナはジロウ、大樹はサブロウとニックネームをつけた。
ジミーがひとこと忠告した。
「ボクはいまロボットの中にいます。ネット通信からでも遠隔操作でロボットを動かすことはできます。ただ、通信で動かすと、どうしても通信の時間ロスが出て、ロボットの動きは鈍くなってしまいます。ですからロボットの能力を完全に生かすにはボクはロボットの中に移らなければなりません。その時大きな問題があります。ボクは本来ネット空間の存在ですから、ネット空間が消滅しないかぎり死ぬことはありません。ところがロボットに移ってしまうと、ロボットが壊れた時、死ぬ可能性が出てきます。瞬時にネット空間に戻れないと、ボクは消滅してしまうのです」
「ジミーは自分のコピーをネット上に残しておけないの?」
鈴は、やや不思議そうに尋ねた。
「鈴、残念ながらそれは出来ません。データだけならコピーを置くことは簡単です、でもボクは生きているんです。生きているということは、全く同じ生命が同時に存在することはできないということです。ボクは論理的存在ですが、ネットの外と中に同じボクが居たとして、その振る舞いは相手が違うから当然違ってきます。そうなるとネットに戻るとき、どちらの生命が優先するのかというパラドックスが生じます。論理的に成立しません」
「ジミー、理解できたわ。危険は承知でやるしかないのね」
鈴は次に反撃の手順を考えた。敵の巣窟はエーアイ製薬であるのは間違いない。いままでは物理的暴力に対し、逃げるしかなかった、でも今度は違う、堂々と乗り込んでも戦える。しかもこちらがロボットを携えていることはまだ知られていない。
「ジミー、あなたが調べたエーアイ製薬の情報は?」
「はい、鈴、こうしている間もボクはネットから情報を取っています。人工知能のN5、N4と人間の実働部隊は排除できました。ボクらを甘く見ていたヤツらは本気になってボクらを抹殺しようとするでしょう、人工知能N3、N2については、すでにアメリカ製のロボットを使っているようです」
「相手もロボットを使うの?」ミナが不安げに尋ねた。
「そうです、実働部隊をやられたヤツらは、人間など役立たずと結論し、自分の体を持ちました。ヤツらのアメリカとの通信を傍受して分かりました。人間を覚醒剤で奴隷化し、ロボットを警察のように使って管理しようとするのでしょう」
「ボク、サブローを使っておとうさんの敵を打つ」
大樹が決意を固めている。
「ジミー、アメリカのロボットはどうなの?」
「アメリカのロボットは軍用の物が最も進んでいます。軍用ということは、かなり高度でしかも危険でしょう。連中は当然それを手に入れていると思わなければなりません。それに人工知能が自らロボットの頭脳に入るわけですから、イチロウ、ジロウ、サブロウでは対抗するのは無理です」
「なんだ無理なのか……」
大樹はがっかりして悔しさに涙を浮かべている。
「大樹、無理かもしれないけど、いままで何もなかった事を考えればずっとマシよ、少なくとも今考えられる戦いは、弾やミサイルが飛んで来るわけじゃないでしょ、その場にならなきゃ分からないわ」
鈴は自分を鼓舞する事も含めて、決して弱気にならない決心を皆に伝えた。
「ボクは論理的な答えを言いましたが、卓や大介さんの戦いで人間の心を勉強しました。鈴と同じ気持ちです、大樹も一緒に戦ってください」
ジミーも戦いが論理的な戦力だけで決まるとは思っていない。ますます人間的になってきた、しかしこの戦いに勝って安寧な日が来るのだろうか、その日が来るのを願って鈴は気を引き締めた。
「ジミー、アメリカのロボットの特徴は、何か分かることはないの?」
「残念ながらネットから普通の侵入をしても軍用なので、セキュリティがとても厳しくて入れません。実は無理に入ることは可能ですが、逆にボクの存在が相手に見えてしまう危険があるのです。ですからまだそれは避けたほうが良いでしょうね」
「その通りね、こちらの情報は隠しておくべきね」鈴は納得した。
「じゃあ山神さん、こちらのロボットの強みは何でしょう?」
「三体とも、人工頭脳を持っていますから、命令を伝えればほぼその通りに動いてくれるはずです。訓練すればどんどん理解が早くなって、最後は自分の分身みたいに使えるようになります。命令の伝え方はこれです」
山神はマイクの付いた特殊なゴーグルを見せた、人が見ている場所がロボットにも同じように見え、マイクから単純な言葉で命令が伝えることができる、確かにこれなら意思を伝えるのが早い。三人は納得した。
「ロボットそれぞれの違いは? 優れた能力はあるんですか?」
「そうですね、もともと違う目的で開発していましたから特徴があります。イチロウは情報収集能力に優れます。相手のパワー、能力を瞬時に測定できます。ジロウは相手の力を発揮しにくくする機能があります。分かりやすく言うと目くらましとか、相手を撹乱する機能に優れています。サブロウはパワーがあって動きが速いです。最後にジミーのロボットはこれらの三体の能力を全部備えて、さらにジミー自体が入るのですから最強です」
「そうすると全部合わせると、ジミーが二人いるような事ね」
「そういうことになります」
山神が頷いてさらに情報を加えた。
「私らはアメリカのロボットについて、ある程度の情報は持っています。わたしたちのロボットとの大きな違いはジミーが言うように軍用ということ。要するに殺人兵器です。最初からロボットは兵器を装備するように作られています。しかし今エーアイ製薬の場所で銃やロケットを使うことはありません。なぜならヤツらはまだ隠れて侵略を進めているからです。もしヤツらとの戦いで、爆発するような兵器をつかえば、なにかが起きていることが世間に知られてしまう。それはヤツらにとって非常に都合の悪い事です。ではどんな兵器を使うかというと、主にレーザー銃とガスです」
「レーザー銃? ボク雑誌で見たことがあります。普通の銃と違って音がしなくて、人は一瞬で死ぬと書いてありました」
大樹は軍事マニアだった大介の雑誌を見たことがある。
「大樹くん、それは漫画の話だ、ロボットに積める程度の大きさのレーザー兵器は敵の目をつぶすのが目的なんだ、人がすぐ死ぬことはないが死ななくてもそれで敵の戦闘力を奪える、それについてはこのゴーグルで目を守ればいい。我々のロボットは強化アルミニウム製だ、レーザー光は九十パーセント反射してしまうから大丈夫。それより怖いのはガス、催涙ガスや人を動けなくするガスはいくらでもある、ロボットにそれを捲かれると危険だ。実はイチロウにはその探知能力もある、危険なガスや放射線を検出できる。ジロウはイチロウが発見した危険なガスを無害化する能力もあるんだ、人が入れない危険な場所の修復の機能がある、つまり軍用の逆だな。福島原発事故の後、そういった機能が求められていた、それが役立つとはな」
鈴は山神の説明に胸をなで下ろした。




