17:ソフトウェア研究所に侵入
「関係者を装って入る。予想通りだ、バリアが五層になってる……一層、二層通過……三層目、抵抗しているな……よし破った、四層目……」
皆が息を飲んでモニターを凝視している。モニターでは警告が次々出てくるが、岸田は簡単に打ち破っている。彼の指はというと、装置に載ったまま非常に細かく振動しているだけだ。
「この辺までは、入力が速ければ簡単に通過できる、相手が反応する前に次のプログラムを打ち込んでしまえばいい」
岸田は解説しながら五層目に到達した。
「ここまで入れるヤツはちょっといないよ。プロでも相当腕のいいやつじゃないとね。五層目はちょっと手がこんでいるな、よしダマしてやる」
岸田が明かに指の動かし方を変えた。
「よし引っかかったな、前のオレに対応させておいて、一瞬で別ルートに切り替えたのさ。五層目も突破だ」
突然画面が十のエリアに分割された。
「連中はまだバリアを突破されたことに気づいていない。関係者が正常にアクセスしていると思っているはずだ。会社の警備員が出てくる前に走ってすり抜けたり、一人に対応させといて気を引きつけて、脇を抜けたようなもんだな」
岸田は余裕だ。
「ここまではある意味、パワーというかスピード勝負だった。ここからは全面的にダマしのテクニックが必要だ、オレは連中に成り済ます」
岸田は各エリアにある人間型の図のコピーを始めた、モニターの隅のエリアであっという間に全く同じ図を作り上げてしまった。
「これは絵だけじゃないよ、それぞれが持ってるセキュリティ情報もいただいちゃった。えーと、どこへ侵入しようか、情報管理、ここへ入ろう」
画面は変わって、パスワードを二十桁要求してきた。
「二十桁か、ちょろい」岸田はパスワード解析プログラムを作動させた。数字が見えないほどの速さで動き、三秒で止まった。
「よし、入る」
また画面が変わった。
「キャプチャーリスト……これは捕まった人間のリストだな、OK、コピーしとこう。組織構成……これは不要。捕獲計画……これから人間を捕まえるプランだな、これもコピー。あといろいろあるが、意味が分からん……あまり時間を掛けると怪しまれる、これで出よう」
「もう出るんですか、出る前に一発かましてくださいよ」
大介がヤツらへの報復を頼んだ。
「分かってる、今なら出る前にヤツらのプログラム本体とデータを消すのは簡単だ」
「やっちゃいましょうよ」
大介は待ちきれない。
「今ちょっと考えているところだ、今消せば、研究所は大混乱になるはずだ、ただ、そうするとヤツらの警戒が厳重になる――やるなら時限爆弾だな」
「時限爆弾?」
「そうだ、数日遅れて爆弾が破裂する――つまり、プログラムとデータが消える。その間に逆にヤツらの動きを探知する仕掛けをしておく」
岸田がニヤっと笑った。
「よし、時限爆弾セット完了」
岸田は、してやったりの顔でウインクをした。大介も岸田の肩をたたいて握手を求めた。
「んっ、……ちょっと待て……」岸田が画面を見直している。
画面の隅に警告ボックスが出て、赤いメッセージが点滅しはじめた。
「これはワナだっ、連中がもう気づいている。くそっ、やるな」
「どうしたんですか……」大介が心配な顔になった。
「ヤツら気づいて、もうオレたちを探し始めている」
「エっ、バレた?」
「いや、動き出したのは確かだが、ここは探知できないはずだ、このメッセージが出るのは、敵の動きを察知して、われわれの位置を瞬時にダミーの五番に変えたということだ」
「バレてはいない?」
「そうだ、ヤツらは我々が五番にいると思っている、オレはそんなドジはしない。そこで大樹の出番だ」
「大樹に何を?」
「大介、大樹と一緒にグリーンマンション三階に行ってくれ、そこにダミー五番の発信装置が置いてある。三十五号室にヤツらの手下が向かっているはずだ、ヤツらはオレたちを排除するために行くんだ」
「危険だな」
「危険なのは仕方ない、今、戦っているんだからな」
「岸田さん分かった、行ってどうする?」
「隣の部屋の子供を装って、大樹にヤツらかどうか見極めてほしい。それが確認できればヤツらの行動パターンが分かる、今後の安全のためにどうしても必要なんだ。時限爆弾と一緒に、その検出プログラムを仕組んである、だからヤツらが動けばそれが検出できる様になっている」
すぐさま大介は大樹とグリーンマンションに向かった。マンションの駐車場に車を止めると三階を見回した、「いるっ、三人、なにかやってる」
「大樹、オレはここから見張ってる、たのむぞ」
大樹は一人で三階に上がって行った。三人がドアの周りにいて大樹に気づいた。
「お隣は留守ですよ」
大樹が三人に声をかけた。
「あっ、そうですか、それで……君、いつ帰るか分かるかな?」
「金井さんは外国に行くって言ってました、一週間ぐらいって」
「そうですか……」
三人は手を止めて、あたりを見回しはじめた。来たのが大樹だけなのかを確認しているようだ。
危ない! ――大介は直感的に大樹の危険を察知して全力で走り出した。大樹が危ない――走って二階まで行き、三階の廊下にはわざとゆっくり上がった。
「おーい大樹、行くぞ、みんなが待ってるぞー」
大介は隣人を装いながら、みんなに聞こえるように、大声で大樹を呼んだ。おかげで大樹はタイミング良くその場を離れることができた。
「あぶなかったな、やつら何やってた?」
「あれ絶対カギを開けようとしていたよ、ボクが行ったらビクっとしてたもの、それと三人とも黄色の星のバッジがあったよ」
「やっぱり岸田さんの言う通りだな、帰って報告しよう」二人は急いで基地まで戻った。
岸田は報告を聞くと、「その三人は実働部隊だな、事故を装って、殺人でも何でもするぞ、池谷の新幹線自殺もヤツらが仕組んだな、とりあえず無事で良かったが、ひとつマズいことができた……」と首を傾けた。
「マズいことって?」
「大介が三人に顔を見せたことだ、大介は研究所襲撃でヤツらに顔が割れてる」
「たしかにそうだけど、仕方なかった……」
「あの一部始終はきっとWEBカメラで撮られている。分析されて、重要事件に二度同じ人物がかかわった事が分かったら、マークされるのは当然だな。こっちの得たプラスの情報は、ヤツら三人の顔を見たことだ。いまのところ実働部隊はそんなに多くないはずだ、大樹はヤツらの顔を確実に覚えたな」
「覚えたよ、三人とも五十才ぐらいで、ちょっと怖い顔、忘れないと思う」
「大樹よくやった、もしヤツらを見つけたら、我々に知らせてすぐ逃げることだ」
岸田はそう言うとすぐモニターに向かって再び操作を始めた。
「みんな緊張感を保て、今はまだ引き続きヤツらと交戦中だ、一瞬タマが飛んで来るのが止まっただけだ、向こうに時間を与えないことが重要だ、すぐ次の戦闘に入る」岸田はここまでに分かったことを説明した。
「今日のことで、ソフトウェア研究所が敵の本丸でないことは分かった、そうなるとおそらく本部はエーアイ製薬だな。フッ、これからが本番か……」
岸田は一息吐くと、また猛烈な勢いで入力装置を打ち始めた。




