15:天才プログラマー登場 岸田勉
「次の作戦だけど、オレ、もう一つ分からない、人工知能って言うからには人間の作ったプログラムだろ、それが生きてるし増殖するってことは死ぬこともあるわけだ、どうやったら殺せるか? ジミーはどうして死んだの?」
鈴が答えた。
「ジミーは正確には死んでないの、ただ、私が生きてる間は出てこないと思う、だから死んだと同じ、復活の方法はないと思う」
「じゃあ聞き直すけどけど、ジミーは死なないの?」
「ジミーの手紙には死ぬことはないって自分で書いてあった」
「ということはジミーは人工知能じゃないってこと?」
「そうよ、卓も言ってたけど、違うって。人工知能はネット上にある単なるプログラム。だから人間が消すことは可能なはずよ、それに対してジミーはネット空間に存在する生き物、意味分かる?」
「脳味噌ぎりぎり分かる。要するにネット空間を宇宙空間と見れば、そこで産まれた生命ってわけだね」
鈴が付け加えた。
「ネット空間を体全体とみれば、ネット回線は神経、そのどこかに目だったり耳だったりの機能が存在する。だからネット空間自体が無くならないかぎり死ぬことはないみたい」
「人工知能はジミーの体の中でうごめく悪性ウイルスみたいな物。そういう意味ではウイルスが体中に蔓延すれば、ジミーも死ぬかもしれないわ」
「逆に免疫ってこともあるのかな?」
「それは考えたことないけど理屈ではそうなるかも、でもジミーが復活してくれなければそれも無いわね」鈴はすっかり諦めている。
「分かった、プログラムにはプログラムで対抗だ。オレ、すごいプログラマーを知ってる。岸田勉、ゲームの世界では有名だよ。彼はときどきウイルス駆除のソフト制作を頼まれるらしい。いままで駆除できなかったウイルスは無いって自慢してたよ。ただ、業界ではすごい変わり者でも有名。オレはプラモデル作りで知り合った。彼は強度のモデラーとしても有名。信じられないほど精密にプラモデルを作るんだ。尋常なレベルじゃない。まあ、(キチガイ)いの域だね。おそらくヤツらにもやられていないはず。なぜなら、とにかく人付き合いが全然ない。だから侵食されることもない。たぶん連絡取れるから当たってみるよ」
大介はすぐに連絡を取った。
「岸田さんですか、山路大介です……」
しばらく反応がない、いつものことだ。大介はだまって二分待った。
「覚えてるけど何用?」
あいかわらず、つっけんどんな返答が帰ってきた。
「岸田さん、今度だけはあなたでも駆除するのが難しいウイルスが出ました。」
「何? ……オレを徴発して仕事させようっていうの? やらないよ、忙しいんだ」
「岸田さん、オレ、いい加減な事言ったことないよね、そのオレがあなたがこの依頼を受ける方に掛ける」
「それでどう?」
「やだね……」
「オレの命をかけると言ったら……」
「おい、ふざけてんのか、なに考えていやがるんだ、バカ、やだよ」
「逃げるなよ岸田さん、オレはほんとうに命をかけるんだ、それでもやらない?」
大介は岸田を、暗に意気地なしと取れる言い方で攻めた。
「おい、言ったな、オレのこと知ってるよな、ふざけたらただじゃすまんぞ!」
「ふざけてない!」
大介は絶対引かないという気持ちを込めて強く言い放った。
また岸田が沈黙した……五分待った。
「聞いてやる」岸田が返答した。
「電話じゃ無理だ」
大介は鈴と一緒に岸田の説得に向かった。
岸田の家に着くと、二人は事実をありのままに話した。聞き終わって岸田は、だまったまましばらく首を傾けて考え込んだ。
大介は覚えていた。首を傾けるのが岸田が真剣に考える時のクセだ。
「ふっ、来たな、わかったよ、やるよ、オレも命かけて。オレだって人のために何かやるってのはやぶさかじゃないんだ。ただ、いままではそれに値するものが無かったってことさ、ついに来たか、強そうだな、面白い」
岸田は快諾してくれた。
「大介、秋葉でこの部品を買ってきてくれ、すぐにだ」
岸田が頼んだのは高圧トランス、それをパソコンにつなぐケーブル、それと何に使うか分からない基盤だった。
「この基盤、秋葉で一軒しか置いていない。ガード下の一番奥の奥、白髪のじじいのいる店だ」
大介はすぐさま秋葉に向かった。岸田に聞いた店は一見ガラクタとしか思えない意味不明の部品がたくさん置いてある小さな店だった。
大介が白髪のじじいにメモを見せた。じじいは、けげんそうな顔をして、「ほんとうにいいのか?」と尋ねた。
「メモの通りの物ならいいんですが」と大介が言うと、「死ぬ気か……」と、じじいが小さくつぶやいた。
あまりに奇妙な雰囲気に大介は、「この基盤は何に使うんですか?」と、じじいに尋ねた。
「聞きたいか」
「ハイ」
じじいの雰囲気に圧倒された大介は何か、うすら恐ろしさを感じた。
「絶命基盤だよ」
「絶命基盤?」
「そうだ」
「どういう意味ですか?」
「それはな、究極の勝負をする基盤だよ」
「プログラムの勝負で負けたら高圧電流が流れてそいつは死ぬのさ」
「まあ、ひとつのデスゲームと思えばいい」
「本人が負けた、と思った瞬間に脳波を検知して電流は最大になる」
「こんな物が世の中にあるということをあんたは知らないだろうな」
じじはそう言いながら秋葉のガードの間から見える曇った空をじっと見つめていた。
この基盤の事を聞くまで大介は岸田という男を、尋常でない変わり者、そして天才プログラマーという認識であった。
しかしそれは違う、その程度の認識であった事を大介は今、岸田に申し訳ないと思う。
彼は相手が強大であるほど闘争心を燃やす、剣の道を極めようとする宮本武蔵のような存在ではないだろうか。
大介は帰って鈴とミナに事の次第を説明した。
「オレたち、戦うといっても、どう戦うかは全然分かっていなかった。とりあえず情報収集には成功した。じゃあ次どうするか、相手は人間じゃない。実体のない人工知能というプログラムじゃないか、そうすると実際ヤツらと戦う武器もプログラムということになる。
そこでオレは岸田を呼んだわけだ、ヤツは百年に一人の天才と言われている。そして今回の件を快諾してくれた、これではじめて反撃をすることができるんだ」




