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14/26

14:協力者

 大介がおもむろに話始めた。

「全部事実でしょう、最近の事件を私たちも不思議だと話し合っていたんです。これで全て納得ができた」

 ミナもうなずいている。

「それで私たちに出来ることは何ですか? 言ってください」

 それを聞いて鈴は、重い重い肩の荷が急に軽くなった。

「ありがとう、ほんとうにありがとう、私、苦しかった、ありがとう」

 とうとう味方が出来た。うれしくて鈴は声をあげて泣き出した。

「作戦会議だ」大介が言い出した。

「おれたちは本気だ。こうなった以上三人で戦う、おれたちは奴隷になることも、死ぬのもいやだ、鈴といっしょに戦おう、三人でやれるだけやろうじゃないか!」

 鈴はずっと一人で戦ってきた。仲間がいるのはなんと心強いことか。

「戦いはまず現状分析だ。それによって作戦が変わる。ゲームと同じだ。オレはゲームでさんざん敵を打ち破ってきた、絶対に勝つ」

 鈴はつくづく思った。卓もそうだった。今の、これほど深刻な状況をゲームと同じと言い切ってしまうような感性、それが男なんだ。

 大介が続けた。

「鈴から聞いたことを基にすると、ヤツらは人から人へ侵食を広げてる。それと間違いなく電話を盗聴してる。鈴はヤツらからしたら危険人物だ。卓から情報を得たかどうか、それに注目しているはずだ。それでまずサキがやられた。おそらく我々にも接近してくるだろう、ただ今のところヤツらは平静を装って来ているから物騒な事にはならない。だから注意するのは、我々が感づいたことを悟られないことだ。いいか、バレたら絶対暴力的に来る。今考えられるヤツらの弱点は、言ったように平静を装っていることだ。侵食されていないまともな人間に行動を起こされたら、侵食の障害になる。だから表立った動きは控えている。ヤツらの手順は、少しずつトップの方から侵食をしているようだ。だからまだ侵食のペースは遅い」

 大介の分析は続く。

「ドアーズ・10とエーアイ・B、この二つが広まってしまったら、もうヤツらの思うがままだ、一気に侵食が進む。その前に反撃をしないとダメだ。ここからが作戦だ。ヤツらの意表を突く想定外の行動を起こすんだ。そうすれば慌ててボロを出す。ヤツらを引っかけてやる。ゲームも将棋も同じだ、意表を突く一手から展開が変わる。これほどの事をやる人工知能だったら相当頭がいいはずだ。計算だってスーパーコンピュータを使ってるとしたら、人間なんかハエぐらいにしか思ってないに違いない。だけど戦略はアイデアだ、想像力はオレの方が上だ、負けるもんか」

 頼もしい。卓とそっくりだ。大介なら戦えるかもしれない。鈴は震えるほど嬉しかった。

「具体的に言う。三人でソフトウェア研究所に乗り込む」

 鈴はのけぞった「大介、いくらなんでもそれは危険すぎるでしょう、自殺に行くようなものじゃない? あそこはヤツらの本部じゃないの」

「だから狙い目なんだ。まさか乗り込んで来るとは想像もしてないはずだ。乗り込んで一芝居打つ。ヤツらが混乱している間にオレは情報収集する。息子の大樹にも手伝わせる。危険だから外で待たせるけど、」言い終わると大介が鈴の目を見つめた。

「鈴、オレの覚悟は確かだ、鈴を信じる。だけどこの事件が本当かどうかオレは確かめる義務がある。だから研究所に乗り込むんだ」

「もちろんよ大輔、確かめよう。みんなのために」

 鈴は大輔に申し訳ない気持ちで一杯だ。

「無事帰れたら、次の作戦を考えよう」

 大介は三人と綿密に手順を打ち合わせた。作戦は三日後だ。


 三日後、三人は研究所の受付で、社長を待った。卓の葬儀のときの時の専務が、いまは社長だ。

「よくいらっしゃいました。急なので驚きました」

「すみません、実家に引っ越すことになったので、その前に卓の残した物を整理しようと思いまして、あの……卓の部屋はまだそのままですよね?」

「あっ、ああ、まだそのままです……もう少ししたらご連絡しようと思っていたんですが、ちょっと忙しくて、そのままになっています」

 社長は拒否できなかった、作戦通りだ。

「この二人は卓の親友で、いっしょに来ました、卓がどんなことをしていたか知りたいというので」

「ああ、ごくろうさまです」

 社長は平静を装っているが、ちょっとまずいというのが顔に出ている。

「あの、私、初めてここに来ましたので、できれば館内をいろいろ見せていただければ……あっ、見せられない所も当然あると思いますので、かまわない所だけで結構です、卓の仕事場を目に焼き付けておきたいだけなんです」

「そうですね、特に秘密の所はないんですが、企業や個人データの部屋はご遠慮ください」

 社長は努めて当たり障りのない言い方をしている。

 大介が口を挟んだ。

「私たち、デザイン関係の仕事をしてまして、卓の作った絵とか図とか、残っていたら許可を取って持ち帰りたいんです」

「ああ、ほとんど大丈夫です、申し出てください」

「じゃあ一階からご案内しましょうか」社長が歩き始めた。三人は後に続いた。

「一階は事務所と印刷物関係です」

 三人は周囲を見回すふりをしながら、ある物を確認している。

「二階は一般的なプログラム作製です。この階にいるのは、ほとんどプログラマーです」

「三階は開発です。井上さんはこの階の二十号室でした。そこに行きましょう」

 社長は二十号室を開けた。雑然としているが、ほぼそのままになっているように見える。

「四階は情報管理です。この階だけは全部見せられません」

「とりあえずざっとお見せしました。一般にはお見せ出来ないのですが、皆さんは関係者ということで見てもらいました。この後ご自由に見てください。ご説明のため、一人ずつ説明員をつけますので、遠慮なくご質問なさってください」といって社長は三人の男を連れてきた。

「監視役だな、予想通り」大介が耳打ちした。

「それではごゆっくり」社長は引き下がった。

 鈴たちは計画実行に移った。

「それじゃ上の階から見せてもらいましょう」

 三人は四階に上がった。

「すみませんちょっと電話……」大介が携帯で電話をかけはじめた。

「私たち、ちょっとトイレ」鈴とミナがトイレに向かった。

 しばらくして、「ちょっとあんた、なんだその態度は!」大介が思いっ切り大声をあげた。

「えっ、なにがですか?」説明員は訳がわからず狼狽している。

「ゆるせないよ!」大介がさらに大声をあげた。

 騒動を聞いて、部屋から数人が出てきた。

「だから許せないって言ってんだ」大介は大声をあげ続けている。

 さらに多くの人が部屋から出てきた。

 その時、「バンッ、バンッ」トイレで破裂音がした。

「いやーっ」鈴とミナが悲鳴をあげながらトイレから飛び出してきた。

「火事、火事! 」と叫んでいる。トイレの方から白い煙が出ている。

「やばいっ火事だぞ!」

「みなさん火事ですよ!」

 大介は部屋の中に向かって大声で叫んだ。

「なんだ」、「ほんとか」、部屋から一斉に皆が飛び出してきた。

「ジリリリリ……」火災警報が鳴り響いた。

「トイレです、消さないと」

 大介が大声で叫んだ、騒然となって皆一斉にトイレに向かった。

 大介は部屋に飛び込んで、「消化器、消化器」と叫んだ。

「ここにはないです、三階、三階」と社員が言っている。

「なにやってんだ、すぐ取ってこい」

 大介にあおられて残っていた数人が三階に向かった。部屋をのぞくと全員が出てしまっている。

「バカめ引っかかったな」

 大介はおもむろに、持っていたバッグを開け、白い発泡スチロールの箱を取り出した。

白い塊を廊下に投げ、一緒に入っていたボトルを取り出した。

 大介は体がドアから半分部屋に入った状態で、ボトルから湯気のある液体を塊に掛けた。

「バンッ」大音響とともに真っ白な煙が吹き上がった。

 大介は部屋のカギを内側からかけ、持っていた携帯カメラで、部屋の中を撮りまくった。

「ウーーーッ」消防車のサイレンが聞こえてきた。

「よしっ、終了」

 撮影を終えて大介は部屋から出た。廊下は煙で真っ白でなにも見えない。大介は壁を伝って階段を探し、一階に降りた。一階にはすでに鈴とミナが待っていた。まわりは大混乱になっていた。消防車と梯子車が駆けつけ、消防士が次々建物のなかに入って行く。

「完璧! ……」三人は小さな声でつぶやいて、グータッチをした。

「ハッ、ハッ、ハー…… 極、大成功!」

 帰りの車の中で大介が高らかに笑った。

「ヤツら完全にひっかかった。ドライアイスの煙ってすごいね。すぐに消防車が来るわけないじゃん、タイミングばっちり、大樹に外から一一九番させたんだ。火災報知器もいいタイミングで鳴ったな。これで、あと数分で煙が全部消え、あとに何も残らない。完全犯罪ってやつだ。写真撮りまくったから帰って分析だ」


 大介の撮った写真は恐るべき内容だった。

「これ、コントロールされている人のリストだな、現職の総理、大臣、警察関係、マスコミ関係、タレント、やっぱりな……こいつらおかしいと思っていたんだ」

 大介は別の資料に目をやった。

「OSの普及率5%だな、まだ発売されて間もないからな、三ヶ月後本格発売となってる。エーアイ・Bドリンクは前宣伝中、これも約三ヶ月だから、ここがリミットと考えないと。さて、これからどうするか、意見ある?」

 ミナが珍しく発言した。

「今回の事で連中は混乱していると思うわ、だけど私たちの事に気づくのは時間の問題よ。たぶん数週間、なにか探りが入ってくるはず、その後引きずり込もうとする。私たちヤツらの手口を知ってるから、簡単に引き込まれることはないわ、だけど……私、怖いの、私じゃなくて息子の大樹のこと。中学生になったばかりの子に戦えって言ったって……」

 大介がきっぱりと言い放った。

「オレが仕込む。鈴の話は全てが事実だった。この戦いに負ければ所詮皆死ぬ、死ななくても死んだも同然になる。大樹は男だ、戦える」

「ボク、剣道をやってる。先生が男は戦わなければならない時が必ず来るって言ってた。大丈夫、戦える」

 代わって鈴が発言した。「私はジミーと卓を失って、投げやりになった時期があったわ、でもお腹の子供のことを考えたらそんなこと吹っ飛んだ。一人でも味方は多い方がいい、子供でも」

「よし、みんなの覚悟はさらに固まった。四人で戦おう」

「違う、大介、五人よ、お腹の子供がなかったら、私とっくに諦めてる、だから五人!」

 鈴の言葉にみんながうなずいた。

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