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12:ジミーを呼び戻す。敵が見えてきた

 葬儀が終わって、鈴は卓の遺品を整理しながら、卓の言葉の録音を再生した。

「ジミーを呼び戻す」「男の約束……パスワード……武士……メモリ……アアーっ」

 卓の言葉を再生すると、やはり涙がどっと出てくる。

「泣いたらダメ、卓は私の心の中に生きてる、卓と一緒に闘うんだ!」

 鈴は自分を奮い立たせた。涙は止まった。

「男の約束……パスワード……武士」何のことだろう、それがジミーの復活にどう繋がるのか? 

 いくら考えても鈴にはその関連が思い浮かばない。

「そうだ、サキに聞いてみよう……」

 鈴は友人のサキの彼氏に聞いてみようと思い立って電話をした。

「サキ先日はありがとう」

「たいへんだったわね、でも気を取り戻してね」

「分かってる、もう平気よ、ところで変なこと聞いていい?」

「いいよ、なんでも」

「あのね、彼氏に聞いて欲しいんだけど」

「ああ、今いるよ、変わろうか?」彼氏に代わった。

「すみません、卓のパソコンを起動したいんだけど、パスワードが分からなくて……」

「それで、パソコンにメモが貼ってあるんです、たぶんパスワードの覚えだと思うんですが」

「ああ、なんて書いてあります?」

「これ、男の人じゃないと分からないと思うので電話しました」

「いいですか、男の約束……パスワード……武士……メモリ、以上なんですが、何か連想できますか?」

「武士、が例えば(24)とか、たぶん読みで数字を言ってるんじゃないかと……武士だけですか、何か付きませんか?」

「それだけなんですが」

「男の約束が……何だろう……男の約束……武士、ウーン何だろ」

 彼氏は少し考えて、「卓さんって、かなり男っぽい性格でした?」

「確かにそうです、時代劇とか、戦争映画とか好きで……」

「武士道って考えると、(2410)で4ケタになりますね」

「右っぽい人で、男の約束――武士道っていうと、何か流れがいいと思いません?」

「たぶんそういう人って、パスワードを簡潔にするんですよ。友人にもそういうのがいて、長いパスワードなんか使わないよって。だからパスワードだけは(2410)の可能性が高いと私は思います」

「それと(メモリ)は、文字通りメモリ単体のことでしょう。ただ、おそらくそれも同じパスワードでロックされているはずです」

「そうか、卓だったらおっしゃる通りの人でした。メモリも近くにありました、調べてみます」

「あとは……私の友人は、超簡単なパスワードと、全然関係ないものを組み合わせるんです。自分のクセとか、そういった何か――それは人それぞれですから何とも……」

「わかりました。パスワードはかなり確実にその通りと思います。ありがとうございます」

 聞いてみるもんだ、これで少しはジミーに近づいた。

「鈴、また遊びに行こう、声かけるよ」

「ありがとう、またね」

 パスワードについては99%その通りだろう、あとは(男の約束)が何を意味するか……

 鈴は妊娠四ヶ月になった。いつもの病院に行こうとしたのだが、大きな病院は安全だろうか? エーアイ病院を始め、大手の病院のネット環境は最新だろう。だとすると、むしろヤツらが侵入している可能性は高いのではないか。

 鈴は思い切って病院を変えた。町外れに古い産婦人科医院がある、そこで診察してもらうことにしよう、鈴はその医院に向かった。

 病院に着いた。「ワーっ、古ーい」昔は地域の代表的な産院だったらしいが、いまはかなりみすぼらしい。受付からして昭和の雰囲気のある作りだ。院長と奥さん、それに看護士が二人だけ、すごく質素な医院だ。

 診察が終わり院長が、「けっこう遠くから来られたんですね、近くに産婦人科がないんですか?」と尋ねた。

「いや、私、なんか最新の設備っていやなんです、全部コンピュータで調べるのが」

「そうですか、そうかもしれないな、最新の検査機器は高いからね、数をこなさないと病院も経営がね……うちなんか昔のままだ……でもそれでやっていけるんでね」

 院長は人のよさそうなおじいさんだ、ここなら安心かもしれない。しかし、あの問題が……

 鈴は例の確認をするのをためらった、こんないい人を試すなんて。私は人間として恥ずかしい事をしなければならない、でも、でも全ては卓の言う通りに進んでいる、やらなければ。

 私が傷つくのはいい、だけどこの先生が、と思うと、なかなか言い出せない、人工知能こそ、なんてイヤな、なんて罪深いヤツらだ。

 鈴は思い切って田舎の医院を見下したような言い方をした。

「でも、こんな古い設備で、ちゃんと診察できるんですか?」

 ああ、言ってしまった。言ってから唇をかんで下を向いた。鈴は先生をまともに見ることができない。

 先生は、「そう思われてもしかたがない。確かに設備は古いですよ、でも私たちは毎日、きちんと設備を点検しているんです。安心してください」と、ゆっくり返答した。

 鈴は思い切って頭を上げ、先生を見つめ直した。先生は胸を張ってこちらを見ている、澄んだ優しい目をして。

 よかった、ヤツらじゃない。ほっとすると同時に、先生の人間としての大きさに頭が下がった。まだ、なんとかなる、私は卓と一緒に闘わなければならないんだ。改めて鈴は心に誓った。診察の結果は良好だった。鈴は一安心して病院を後にした。


 ♪(SAKURA)の着メロが鳴った。サキからだ。

「鈴、おはよう、きょうそっちに行っていい?」

「いいよ、きょうは朝からボヤっとしていたから、どうぞどうぞ」

 サキがやってくる、ひさしぶりにバカ話でもするか、ほんとサキは楽しいヤツだから。

 鈴は自慢のクッキーを焼いてサキを待つことにした。サキは昼過ぎに彼氏の陽太郎を連れてやってきた。

「ピンポーン」

「こんにちわ、元気かな、大丈夫かな……」

 サキがドアから覗き込んだ。

「元気に決まってるでしょ」

 鈴は思いっ切り元気に振る舞った、自分で自分を奮い立たせるために。

「お昼食べてないでしょ、シュウマイ買ってきた」

 サキは三人分のシュウマイを持っていた。

 そういえば鈴はクッキーを焼くのに一生懸命で、食事を忘れていたのだ。

「そうね……まだだった、気が利くじゃん」

「ほらね、言った通りでしょ」サキは彼氏に鈴の性格を説明しながら来たという。

「シュウマイとクッキーは合うのよ!」鈴は負け惜しみを言った、

「バカねー、完全にスベッてる」、大笑いになった。

 サキとは高校の美術部時代の話になった。サキの方がみんなの消息について詳しい。

「美咲とナツが今どうしてるか知ってる?」

「どっちも普通のOL。美咲は食品会社、ナツは貿易会社、あんたみたいに美術と関係ある仕事してる人は少ないよ」

「他には……女は大部分結婚してる。そうっ、長野ミナ、覚えてる?」

「マンガがやたらうまい子でしょ、覚えてるよ」

「あの子ね、山路大介と結婚したのよ」

「山路って、デブでまったく無口な男子でしょ、ミナとは全然合いそうにないけど」

「そうっ、一番不自然なカップル」

「ハハハっ、それを言っちゃ悪いよ」

「ところであんたはどうなのさ」

 鈴はサキと彼氏を見比べながら話を振った。

 陽太郎が先に反応した。

「サキと付き合ってると、どんどんテンションが下がってきて、結婚? ……はあっ?、ってなってる」

 それを聞いて、サキが「結婚したいけど金がないって言わなかった?」と問い詰めた。

「はいー、両方でございます」

 陽太郎のギャグに大笑いとなった。

 サキとは昔話に花が咲いた。担任のこと、文化祭のこと、……さすがにしゃべり疲れた。

「ちょっとのど乾かない?」陽太郎が、持ってきたコンビニ袋をごそごそ開け始めた。

「これ飲んでよ」陽太郎は、差し出しながら飲み口を開けた。

「ヒッ、」それを見て、鈴は思わず小さく悲鳴をあげた。

 缶は(エーアイジェイ)だった。

 鈴は手を引っ込めて受け取らない。

「遠慮しないでさ、……もう開けちゃったから」

 陽太郎が鈴の口もとまで缶を近づけた。

「あのっ、それ大嫌い」

 鈴は横を向いた。

「それ、おいしいよーっ」サキが後を押している。

 鈴は陽太郎とサキを見つめ直した、さっきまでの大笑いと雰囲気が一転した。

 二人の目は「飲めっ! 」と言っているように見える。

「せっかく買ってきたんだから飲めばいいじゃん」

 サキの追い打ちを掛けるような強い言葉に鈴は動揺した。

「まさか、サキが?……」

 突然、♪(SAKURA)の着メロが鳴った。母からだった。

 母は妊娠中の鈴の体調を尋ねてきたのだ。鈴はとっさに機転を利かせて、話をでっちあげた。

「そうっ、……体調そんなに悪いの、じゃあ今から行くから、すぐに」

 電話を切って、「母が急に具合がわるくなったみたい、すぐ行かないと」と言って強引に、あたふたと出かける準備をはじめた。さすがに二人もあきらめて帰ることになった。

「じゃあ気をつけてね」サキが帰り際に鈴を見て、ニヤニヤと笑った。

「ああっ、笑った、サキが笑っちゃった。サキまでも……そんな……」

 鈴は最高の親友までも奪われた。怖い、もうだれも信じられない。

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