ハッピーバースデー!
家に着いたけど真っ暗だ。あれ、両親はともかく、弟は時間的にもう帰ってるはずなのになんで?
鍵は開いてるから中にいるとは思うけど、疲れてもう寝たのか。最近物騒なんだから鍵閉めとけって言ったのに聞いてないんだから。
「……ばーか」
自室まで移動して電気をつけるとベットでうつむせになったあいつから、弱々しい罵倒が飛んできた。
げっ、いつも勝手に私の部屋に上がり込んでいるけど、ベットの上まで上がり込んで来たのは今日が初めてかも。
「ばーか、ばーかばーーか!」
こちらからの反応がないのを察したのか、布団から顔を上げないまま罵倒は強まった。
あ、ベットから足がはみ出てる。ったく、身長は私より高くなったのに中身はまだまだ子供か。
しかし、何が気に食わないのか。今日は特別な日だし、ちょっと帰りが遅くなってもおかしくないでしょ。
というか、あいつの誕生日ならともかく今日は私の誕生日なのに何で不機嫌なの? ケーキ狙い? いや、ケーキは今度の休みに家族で外食する時一緒にって決めてあったし……。
「俺はもう食べたからな! 一人で食えよ、ばーか!」
ふと、テーブルを見るとスーパーでよく見るショートケーキ。
ただし、2切れでワンセットであるはずのケーキは箱の中に1つのみ。箱の周りにはカラフルな小さいロウソクとケーキを食べた後らしき残骸が散らばっていた。
……私はこの世に生まれてこの方、弟から誕生日、いや誕生日に限らずプレゼントというものを一度も貰ったことがない。
おめでとうもなかったし、一週間入院したって見舞いにも来ないし、
なんなら私がイチゴをそんなに好きじゃないとはいえ、私の分のケーキから勝手にイチゴを奪っていた。
そんな弟が、これは。
「ちょ、あのさ、もしかしてこれ……」
「……ほんと、馬鹿じゃねーの、ふざけんなよ……」
身内だと意外に言えない言葉。私も正直ここ最近弟に言った記憶がない。少し躊躇したけど頑張って口にする。
「遅くなってごめんね。……ケーキありがとう」
「……うっせ」
こいつがまだうつむせで良かった。急にこんな事されて目頭が熱くなってしまったからだ。こんな姿は見せられない。こっ恥ずかしいのでちょうどいいと思わないと。
あーもう、ただの誕生日なのに急にどうしたんだ。今日は私の誕生日だからケーキ買って帰ろうとか、ろうそくも揃えようとか思ったんだ。実は私の誕生日をちゃんと覚えているのかも疑ってたくらいなのに。
想像したらおかしいやら嬉しいやら。心がぐちゃぐちゃだ。
「ロウソクもありがとう」
「うるさい」
ひと切れのケーキなのでロウソクはそんなにいらない。5本セットのこれで十分だ。
うむ、一人で食えと言われたが、向こうに未だ移動する気配はない。
「ハッピーバースデー私」
「……」
ロウソクに火をつけると小さい灯りが妙に暖かくて、蝋の溶けるにおいも特別な感じがして、更に感傷的な気持ちにさせられる。
涙を堪えつつも、私はその優しい火を吹き消した。




