生死記録
ぜひ最後まで読んでください!
2100年2月3日
これから毎日、生死記録を書いていこうと思う。
何をするでもない。
ただ、生きていることを示すのだ。
2100年2月4日
珍しく雪が降っていなかった。
行き過ぎた産業革命後の気候変動で世界が凍りついてから、こんなに暖かい日というのは滅多にない。
2100年2月5日
夢を見た。
奇妙な夢だった。
誰だか分からないが、人が泣いていた。
僕はその子を、必死に慰めるんだ。
そうして、騙されて。
お前のせいだって、そう言われて屋上から落とされる夢。
あれは、誰なのだろう。
2100年2月6日
いつも通り暗い日だった。
路地裏でネコが鳴いていたから、つい拾ってしまった。
今も膝の上で毛繕いをしている。
茶色の毛がズボンにつくが、まあいいだろう。
生き物とは、こんなふうに柔らかいものだったろうか。
2100年2月7日
珍しく花が咲いていた。
冬の世界に、真白の花が咲いていた。
花を眺めるなんて、昔なら絶対にしなかっただろう。
何とも思わずに踏んで歩いたはずだ。
僕は変わったのだろうか。
2100年2月8日
少し遠出をした。
食糧を取りに行くためだ。
懐かしい道を幾つも通った。
壊れた橋があって、危ないことこの上なかった。
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その日、家に帰った僕は疲れていたのかぐっすりと眠った。
こんな風に深く眠りについたのは久しぶりだった。
おかしな夢に悩まされるわけでもなく、芯から眠れた気がした。
毎日がこうであったらいいのに。
けれど、こんな世界でゆっくりと眠れる日が一日でもあるのだから感謝すべきだろう。
この世界は少しずつ壊れていっている途中なのだから。
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2100年2月3日
今日からきちんと日記を書いていこうと思う。
なんてことはない、ただ日常を綴るだけなのだが。
まあ、もっとしっかり日々を記録しなければならないと思ったのだ。
2100年2月4日
雪が降った。
一面が銀世界で埋もれていた。
一羽の鳥が羽ばたいていった。
僕もいつかあんな風に、この閉ざされた世界から出ていけるのだろうか。
……どうせあの鳥も、またここへ戻るのに。
2100年2月5日
不可思議な夢を見た。
世界が歪んでいくようだった。
そんな時空が曲がる世界で一人、水の中へと沈んでいく。
呼吸ができないはずなのに、どうしてか苦しくはない。
ただ落ちていく感覚が、光の薄れゆく視界が、怖いだけ。
伸ばした手は何かを掴むこともなく、やがて足に海藻が絡みつく。
浮くことができずにそのまま、目が閉じられる。
起きた時は汗がぐっしょりだった。
こんな恐怖、現実でも味わったことがない。
知らないうちに世界が消えていくみたいな感覚だった。
2100年2月6日
相変わらず暗い天気の一日だった。
スラム街の路地裏に捨てられた黒猫がいて、目があった。
金色の瞳が綺麗な猫だった。
どういうわけかその瞳に魅入られて、つい拾ってしまった。
まったく、僕には猫を育てるほどの余裕はないというのに。
ミルクを温めて飲ませてやったら、怖がることもなく飲んでくれた。
人懐こい猫だ。
名前は、クロでいいだろう。
覚えやすくてわかりやすい名前だ。
2100年2月7日
綺麗な花が道端に咲いていた。
真白の花だ。名前はスノードロップ。
花言葉は確か、あなたの死を望みます、だった気がする。
昔読んだ古代の本にそう書かれていたはずだ。
真白の世界に咲き誇る真白のその花は、とても儚げで美しかった。
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その日はいつもより早く眠りについた。
疲れてはないけれど、体力を温存したかったからだ。
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2100年2月3日
何も書かれていないこのノートに日々を綴ろうと思う。
2100年2月4日
今日は一日中雪が降っていた。
だが、この寒さにもすっかり慣れてしまったものだ。
気温はマイナス十五度。
全てが、凍りつく世界だ。
2100年2月5日
草原が燃えている夢を見た。
なぜか僕はその草原の中心にいて、燃え盛る炎を眺めている。
逃げなければと思っても、炎の中は通れない。
だんだんと、けれど確実に迫って来ている死に覚悟する。
そんな夢だった。
2100年2月6日
捨てられた動物を拾った。
捨てられていた割に綺麗な毛並みの生命体だった。
名前は、何にしようか。悩んでいるところだ。
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その日は眠気を覚えたので、日記を書き終えてすぐに深い眠りについた。
外からはヒューヒューと掠れた風の音がする。
まるで、獣の声のような音だった。
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2100年2月3日
この手帳に僕が生きた記録を残す。
2100年2月4日
寒い日だった。
慣れているとはいえ、もう少し暖かくなることを願う。
あと一月も経てば、気温は上がるだろう。
待ち遠しい。
2100年2月5日
地面が沈む夢を見た。
足元が地面に沈んで、その地面もまた沈んでいるなんて変な夢だ。
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その日は夕飯を忘れて眠ってしまった。
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2100年2月3日
僕が生きた証を残したいと思った。
2100年2月4日
夏が恋しくなるような凍える一日だった。
雪だるまを作る子供たちを見て、若さとはすごいものだと思った。
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なんだかとても疲れた。
特に運動もしていないのに、身体がいうことを聞いてくれない。
仕方がないから、眠った。
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2100年2月3日
いけない、時間が僕に追いついた。
どうしてここまで気が付かなかったんだろうか。
僕はずっと、今日を繰り返している。
そうして一日ずつタイムリミットは迫っていたのに。
何のために日記を書いたのか。
それは、一日の流れを明確にして、日付に覚えがある、というような感覚を抱くためではなかったか。
いけない、すでに時間が追いついた。
寝たらもう、明日も昨日も、今日も来ないだろう。
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必死に抵抗しても、身体から力が抜けていく。
睡眠というよりは永眠で、死亡というよりは気絶だった。
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2100年2月
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