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 戦いを終えると、星崎と一緒に握っていた聖剣も形を失っていった。手元から感触が消えていくと、聖剣は黄金の粒となって弾け散る。


 聖剣の名残である光の粒子が粉雪のように天から降ってきて、俺たちの周りを舞っていた。細かな一つ一つの光が祝福してくれているように輝いていて、その美しさに見入ってしまう。


 強敵との戦いを終えて、自分がまだ生きてここに立っている。


 それを思うと、胸のなかを満たすものがあった。


 さっきまで自分が命がけで駆けまわっていた広間を、感慨深い想いで見渡す。そこには何か、言葉では言い表せない尊いものがあるような気がした。


「これが、マナカさまが幼い頃から憧れて、求めていた景色ですね」


 朝美は疲れきった顔をしていたけど、うれしそうに微笑している。俺と同じで、胸中に感じ入るものがあるんだ。


 星崎は舞い散る光の粒子をその身にあびながら、頬をゆるめる。


「えぇ。これが立ちはだかる苦難を乗り切ったあとの、勝利の景色よ」


 あぁ、そうか。そうなんだ。


 これが、星崎がずっと焦がれていたもの。


 冒険者にしか見ることのできない景色。


 それがいま、俺たちの目の前にひろがっているんだ。


『ラストダンジョンメモリーズ』のシナリオに正しく沿っていれば、光城涼介はシャディラスに出会った時点で殺されている。そうでなくても、黒獣王オーディックという規格外の怪物に殺されていたはずだ。


 けれど、俺は生きている。


 死の運命を打ち破り、この手に勝利をつかみとって生き延びた。


 こうしてまだ立っていられるのは、決して俺だけの力じゃない。


 この世界で出会うことのできた星崎や、朝美がいてくれたからだ。


 仲間たちがいてくれたから、こうして俺は立っていられる。


「どう、涼介? この景色を目にした感想は?」


 星崎は勝利の余韻をわかちあうように、穏やかに微笑みかけてくる。


 その微笑みを見ていたら、危険と隣り合わせである冒険者も悪くないと思えた。


 いま自分の胸のなかにある、あたたかな想いを口にする。


「あぁ、最高に気持ちいいな」


 ゲーム世界のモブに転生して、最初はわけがわからなかった。


 どうして俺がって、理不尽さに嘆いたりもした。


 でも、こうして仲間たちと笑いあえるのなら。


 この世界に来ることができて、よかったって。


 星崎や朝美と出会えて、よかったって。


 心から、そう思える。





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