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 俺たちの前に突如として現れ、シャディラスを惨殺した黒獣王オーディックは、大きく裂けた口から唸るような吐息をもらすと、暗い瞳を向けてくる。


 瞳に映っているのは、俺の姿だ。


「強大になりえるスキルを持つ者を葬り去る」


 光城涼介は殺すべき標的だと、オーディックは重低音の声音で告げてくる。


 どうやらこいつもシャディラスと同じく、強力なスキルになるかもしれない【無形の武装】を持った俺の命を狙っているらしい。


 光城涼介にとって、この黒い獣も死そのものだ。


 しかもシャディラスとは比較にならないほどの、強烈な死のイメージを刻みつけてくる。


「覚悟を決めないといけないようね」


 勝算は皆無に等しいが、それでも戦わなくてはいけない。逃げようとしたところで、無事に済む相手ではない。


 星崎は覚悟を決めて、剣を構える。


「やるしかありませんよね」


 朝美も杖を構えた。全力で星崎と俺をサポートするつもりだ。


 俺は汗ばんだ両手で剣を握りしめる。


 死にゲーで絶対に初見では勝てないボスと戦うときは緊張したが、まさか実際にその気分を味わうことになるとはな。


 心音が秒針よりも早くなっていくのがわかる。


 しかし、オーディックは予想に反した行動を取ってきた。一気に攻めかかってきて、俺たちを斬り裂くものと思っていたが、その逆だ。


 広間の奥のほう。北側にある出入り口のあたりまでオーディックは跳びすさっていく。


 距離を取ってきた? どういうつもりだ?


 疑念を抱いていると、オーディックは北側の出入り口の手前にある床を踏みつける。


 まばゆい閃光に、視界が白く塗り潰される。

 

 広間のあらゆるところで無数の光が生じていた。


 この光、見覚えがある。『荒れ果てし辺境の遺跡』の隠し通路の先で見たのと同じものだ。


 床の上に次々と魔法陣が浮かびあがって、光を放ってくる。


 ダンジョンに仕掛けられたトラップ。


 オーディックは広間にあるトラップの位置を事前に把握していたんだろう。それを起動させた。


 だが『荒れ果てし辺境の遺跡』で見たトラップとは違う。魔法陣のなかから魔物が召喚される気配がない。


 だとしたらこれは……。


「いけない! 転移魔術のトラップよ!」


 ダンジョン内のどこかに強制的に飛ばされるトラップだと、星崎は叫んでくる。


 その星崎の足元には魔法陣が浮かびあがっていて、既に身動きが取れない状態になっていた。星崎だけじゃない。朝美も浮かびあがる魔法陣のなかに捕らわれている。


 トラップから逃れられたのは、俺だけだ。


 いいや、違う。オーディックは魔法陣がどの位置に浮かぶのかまで把握していたんだ。それでトラップを起動させたのか。


 俺一人だけを、この広間に残すために。


 浮かびあがった魔法陣が輝きを強めていく。星崎と朝美が強制的に転移させられる。


「光城くん!」


 トラップが発動する直前、星崎は呼びかけてきた。


 振り向くと、星崎はパーティのリーダーらしい毅然とした表情をしながら見つめてくる。


「必ず助けに戻るわ! だから!」


 星崎は命じるような口調で、けど祈るようなやさしい眼差しを向けながら、胸に生じた感情をぶつけてくる。


「だから、わたしが戻るまで、絶対に生きていなさい!」


 魔法陣の放つ輝きが視界を埋めつくす。転移の魔術が発動すると、星崎と朝美の姿が完全に消えてなくなった。


 その間際に、頭のなかで聞こえてくる声があった。


『好感度があがりました。レベルが50あがりました』 


 レベルアップの知らせだ。【好感度レベルアップ】のスキルによって、ステータスが高まる。星崎が飛ばされる前に、力を与えてくれた。


 広間を覆いつくすほどの光がおさまっていくと、あちこちに浮かびあがっていた無数の魔法陣が消えていった。


 床に散らばる灰と、冒険者たちの死体だけが残される。


 そして広間の奥には、依然として凄まじいプレッシャーを放ってくる黒獣王が佇んでいる。


 あんな別次元の強さのバケモノに、俺一人で持ちこたえろだって?


 無理ゲーにも程があんだろ。


 頼れる仲間はいなくて、回復手段もない。


 これがゲームだったら、諦める以外に道はなかった。


「いいぜ、やってやるよ」


 それでも、星崎との約束を守ることを誓う。


 敵から見れば微々たるものだろうが、星崎は俺に力をくれた。星崎のおかげでレベルが476まであがった。


 あいつのためにも、一秒でも長く、この命をつなぎとめる。


 ここからが、死の運命に抗うための。


 光城涼介になった俺の、本当の戦いだ。





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