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「なんだ?」


 再び広間にいくつもの光が生じる。誰もトラップを発動させていないのに、新たな魔法陣が浮かびあがってきた。


「まさか、第二波ですか」


 朝美は忌々しそうに眉根を寄せて、召喚される魔物の援軍を睨みつける。


 魔法陣のなかには、額から二本の角を生やして、大柄で筋肉質な体躯をした鬼のような魔物がいた。手には大振りの包丁みたいな武器を持っている。


【疎まれし鬼人おにびと】 

 レベル:120

 忌み嫌われる鬼の一族。怪力を駆使して、肉切り包丁で攻撃してくる。


 もしかしたらと思っていたが、やっぱり闇さらいや人食い蜘蛛よりも強い魔物だ。それが集団で召喚された。


 かなり悪質なトラップを仕込んでくれたもんだな。


 ついさっきレベルアップしたってのに、戦況は厳しくなるばかりだ。


 鬼人たちは筋肉の塊のような胸を反らしてくると、大きく開けた口から雄叫びをまき散らしてくる。まだ残っている闇さらいと人食い蜘蛛を押しのけて、襲いかかってきた。鬼人どもの狙いは朝美だ。


「アサミンのところには行かせねぇよ!」


 自分よりもレベルが高い魔物だとわかっちゃいるが、尻込みしていられない。地面を蹴って立ち向かっていく。


 直近の鬼人のもとまで迫ると、頭上から肉切り包丁が振り下ろされる。速い。だけど単純なモーションなので防ぎきれる。ロングソードを斜めに構えた。


 金属音が耳を刺して、火花が散る。


 筋肉ダルマな外見どおり、とてつもないパワーだ。ロングソードが折れちまうんじゃないかってほどの衝撃が、手元から肩にかけて突き抜けていく。


 それに近くで見ると、威圧的な風貌が恐怖心を与えてくる。こんなの冒険者じゃない人間が目にしたら、腰を抜かしているぞ。


 全身の血管が破裂しそうなほど力んで肉切り包丁を受け止めていると、横合いから別の鬼人が肉切り包丁を振り下ろしてきた。


 脳天がかち割られる前に、あえて力をゆるめる。刃を噛み合わせていた正面にいる鬼人に押し返されると、その勢いを利用して後方に下がった。


 横合いから振り下ろされた肉切り包丁は、俺を押し返して前のめりになった鬼人の頭部に食い込んで、鮮血の花を咲かせる。

 

 後退して距離を取ったが、次は背後だ。またしても別の鬼人が肉切り包丁で斬りかかってくる。


 左足で地面を蹴って、右側に跳び回避。肉切り包丁は空振りに終わる。そして逃げた先にもまた別の鬼人がいた。休む間もなく回避に徹する。


 どこもかしこも魔物だらけだ。


 脂汗が止まらない。うまく呼吸できているのかどうかも怪しい。ちょっとでも気を抜けば、致命傷を受ける。一つのミスが命取りだ。


 だっていうのに集中力は途切れない。むしろ研ぎ澄まされていく。


 まだ死を迎える運命の日にすらなってないんだ。


「こんなところで死ねるかよっ!」


 どれだけ格上の魔物が襲ってきても、膝を屈さずに抗う。


 死の淵でこそ、力が湧きあがってくる。


 絶対に生き延びてやる!


 目の前にいる鬼人が雄叫びをあげながら肉切り包丁を叩き込んできた。もう完全に見切ることができる。


 鬼人の身のこなしは俺よりも速いが、モーションさえわかっていれば対処できる。半身をそらし、垂直に落ちてくる肉切り包丁をかわす。


 そして地面に打ちつけられた肉切り包丁の峰に足をかけて踏み台にし、上背のある鬼人の顔面めがけてロングソードをブチ込む。 


 岩石のように固い手応え。鬼人の顔面がひしゃげて、ロングソードが頭部の半ばまで達したが、それでもまだガクガクと下顎が動いている。死んでない。死んでないなら、死ぬまで攻撃するだけだ。


 ロングソードを引き抜くと、首、胸、腹を繰り返し突き刺しまくる。血しぶきをあびる。にわかに足場が崩れて、地面に降り立った。鬼人が灰になって崩れていき、踏んでいた肉切り包丁も灰に変わっていく。


 肉切り包丁はドロップできなかったが、白い魂精石は残される。


『レベルが5あがりました』


 格上の敵を倒したことで、レベルアップする。

 

 しかし、その余韻に浸ることはできそうにない。別の鬼人たちや、闇さらい、人食い蜘蛛たちがこっちに殺到してくる。後衛の朝美よりも、俺にヘイトを向けている。


 回復魔術が使える朝美はパーティの生命線だ。絶対に失うわけにはいかない。狙われるのは危険ではあるが、都合がいい。


 四方から押し寄せてくる魔物たちに目を配ると、繰り出される攻撃をロングソードで弾き、身をかがめ、左右に跳ぶことでかわす。だけど全ては避けきれない。何発か攻撃がかすめてダメージをもらう。でもそれ以上に、こっちもロングソードで斬り返して相手にダメージを与えて殺していく。体温がたぎり、脳味噌が熱くなる。


 回避と猛攻を繰り返すと、魔物を討ち取ってレベルアップしていった。レベルが116まであがる。ステータスの数値が上昇すると、更にこっちの動きは加速する。


「あの人、わたしたちよりもレベルが低いんですよね? それなのにあんな動きができるなんて……本当に人間ですか?」


「光城くんは、ここにいるどの魔物よりも血の気が多いわね」


 我武者羅に戦っていると、仲間であるはずの二人から奇異の目を向けられる。こっちは死にたくないから一生懸命なだけなのに。


「けれど、あの戦いっぷりには感心するわ。わたしだって、こんなところで死ぬつもりはないもの」


 星崎は破顔すると、気合いを入れ直すように炎のエンチャントを施した剣を構え直した。


『好感度があがりました。レベルが30あがりました』


 俺に対する星崎の好感度があがったことで、レベルが一気に146まで押しあげられる。





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