「 」
目を開くと、闇の中にいた。
足元を見ても頭上を仰ぎ見ても左右を見ても後ろを振り返っても。
変わることのない、暗黒。
どこからか、ぽちゃん……と水滴が滴り落ちる音がする。
水音は大きくなり、次第に流れへと化してゆく。
ざあざあと滝の流れるような音へと変わった水音は、一向にその姿をあらわそうとはしない。
どこから聞こえてくるのかもわからないその音に、不安を覚え始めた頃だった。
ふわり、
ふと目前を何かがゆったりと落下していく。
紙束……?
それは私の足元よりさらに下へ、深く、深く闇の中へと下降していく。
その姿を目で追い続けていると、自分まで引きずられて落ちてゆきそうな気になる。けれどなぜか、目を離すことができなかった。
ゆっくりと、ゆっくりと。
激しく流れ落ちているであろう水音とは対照的に、まるでスローモーションのようにゆっくりとそれは落ちていく。
ぱたん、という音が遠くで聴こえ、どうやら紙束が底にたどり着いたようだ。
そろり、と自分の足を一歩前へと動かす。
地に足つかないとは、このような状態なのだろうか。
歩いても歩いても、何かを踏み締めているような気がしない。ふわふわとした足元が心もとなくて、だけど足を取られるような歩きづらさはなかった。
一歩、また一歩進むうちに、自分の中に欲が湧き上がってくる。
あの紙束を、手にとって眺めてみたい。
生まれた欲に促されるまま足を運んでいると、
ぱたり、と何かが頬に落ちた。
つう、と流れ落ちてくる冷たい雫。
落ちてきた上方を見上げると、続けてぱたぱたぱた、と大きな水滴が落ちてきた。続け様に一滴、二滴とおちるそれは次第に流れへとかわり、私を飲み込んでゆく。
抵抗もせず、なされるがまま水流に抱かれる私の視界の端を、あの紙束がくるくると流れていく。
行っちゃう……!!
必死で手を伸ばしそれを掴もうとするが、水流は激しく、思うように身体が動かせない。
掴まなくては。あの紙束を見失ってはいけない。
衝動と焦燥が入り混じった気持ちに追い立てられるが、手は虚しく空を掠める。あともう少し、というところまできて、頭が何かにぶつかった。
天井!?
手でベタベタと触り、持ち上げるように頭上に力を加える。推してもびくともしないそれ。
激しく流れる水はもう鼻の下にまで到達していた。顎を上にむけ空気を確保するが、それもすぐに意味が無くなるだろう。
私は限られた空間で思い切り酸素を取り込み、息を止めた。
昔書いた脚本を小説にしてみました。
読みづらい箇所等あるとは思いますが、
ご一読いただけますと幸いです。
※『不思議の国のアリス』モチーフのお話です。