11・ルクレツィア 3
逃亡した零華。
昇降口に向かっていた零華は、追いかけてきた男子達から逃げる為、出鱈目に逃げ回り、結果的に昇降口から離れた所に来てしまっていた。
現在零華は、使われていない空き教室に居た。
「ったく…何で皆して僕を女装させようとするんだ…もしかしたら、最初から仕組まれていたのか…?」
薄々ながら気づき始めている零華。
「と言っても、何時迄も此処に居る訳にはいかないし…脱出を図ろう…」
そう言って零華は意を決して、空き教室から出る事にした。尚スマホは、着信で居場所がバレる危険性がある為に、電源を切っている。
教室から出た零華は、左右を見回して、男子が居ないか確認する。
「よし…誰も居ないな…まずは昇降口に行って、靴を履き替えよう…あとは外に出てしまえば、もうこっちのものだ」
そう言って零華は、昇降口に向かう為に、廊下を進んで角を曲がろうとした。
「!」
「!?」
其処で出会ったのは、圭吾であった。
「や、やあ零華…何しているんだ…?」
白々しく尋ねる圭吾。
「まあ何ってね…家に帰ろうとしているのさ…圭吾は僕を捕まえる気なんだろ?」
「まさか! 俺はそんな事はしないさ」
「…そう。じゃあ僕は行くから…」
そう言って零華は、圭吾の脇を抜けて、昇降口に向かおうとした。
「居たぞぉぉぉ!!! 居たぞぉぉぉ!!!」
と、突然圭吾が大声を上げて、他の男子達の呼び寄せる。
「ッッ!!!」
ドゴォ!!!
咄嗟に振り向いた零華は、圭吾の『絶対蹴ってはいけない場所』を蹴った。
ドサァ…
圭吾は目を見開いたまま気絶し倒れた。
「ジャングルでエイリアンでも発見した様な声を出すなよ…」
気絶した圭吾を見下ろしながら、零華が呟いた。
「おい! 今の圭吾の声じゃないか?」
「!」
他の男子達が声を聞きつけ、足音を立てながらやってくる。零華はその場から逃げ出した。
※ ※
「ったく…零華の奴、何処に行ったんだよ」
広めの場所の中心で、修兵が愚痴る。
「見た目は女の子なんだから、女装何て気にせずやれば良いのに…」
他人事の為に、修兵は文句を言う…その修兵に忍び寄る存在が居た。
ヒュ!
「!?」
「おっと動くな修兵」
「…零華…」
振り向くと其処には、掃除に使う長ホウキを槍の様に構えた零華が居た。
「修兵…さっきのクジは尚文が落とした時、細工をしたでしょ?」
目が笑っていない笑顔で、零華が尋ねる。
「ま、まさか…俺が親友であるお前に、そんな事する訳ないだろ…? 女装の事だって冗談さ!」
「その割には、さっきはノリノリだったけど?」
「あれは場のノリさ! 皆には冗談だって言うからさ…とりあえず、ホウキ置けよ…」
「……」
零華も少し感情的になり過ぎたと感じ、修兵に言われるまま、ホウキを床に落とした。その時…。
「捕まえろ捕まえろ! 捕まえろ!」
圭吾の時と同じく、大声を上げる修兵。
「だからバラエティー番組か…!?」
すると周りから、一、孝明、太一が現れた。零華は取り囲まれてしまった。
「罠…?」
零華は自身の無警戒さに軽く嘆いた。
「悪いな零華。これはもう決まった事だ…大人しく教室に戻ろうぜ?」
あくどい笑顔で浮かべながら、修兵が言った。
「そうかな…最後までは分からないよ!」
そう言うと零華は、一番背の高い孝明に向かって走り出した。
「!?」
孝明は身構えるが、零華は孝明の手前で飛び上がって、回し蹴りを叩き込んだ。
孝明は咄嗟に腕でガードをしたが、衝撃を抑えきれずに転倒した。
孝明が転倒した直後、零華は着地と同時に走り出した。
「ごめん、孝明」
そう言って昇降口に向かっていった。
「…逃げられた…」
太一が呟いた。
「大丈夫か、孝明」
一が孝明を起こす。
「ああ…ってか一、お前陸上部なんだから、追いかければ良いだろう!?」
「えっ…ああぁしまった!」
既に逃げ去ってしまった為に、最早手遅れであった。
「くっそ…零華の奴…アイツ見た目に反して、滅茶苦茶強いからな…」
零華が逃げていった方を見ながら、修兵が言った。
修兵の言うとおり、零華は見た目は美少女なのだが、かなりの格闘力を持っており、それにより見た目に油断して、手を出そうとした男子生徒が、痛い目を見た事も数知れずだった。
「こうなったら…アイツに任せるしかないな…」
修兵は小さく呟いた。
『居たぞぉぉぉ』のくだりは、有名映画が元ネタですわ。
『捕まえろ』のくだりは、昔やっていたバラエティー番組から来ましたわ。
見た目によらず、強い零華でした。
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