10・ルクレツィア 2
クジ引きですわ~。
「まずは尊からだぞ!」
「あ、ああ」
修兵に言われて、尊が引いてみる。女子生徒は固唾をのんで見守っている。尊が引いた箸には、何も書いてなかった。
「…セーフだ」
安堵の息を吐くと、次は2番である井上 圭吾の渡した。
「いくぞ…」
圭吾も箸を引いたが、同じく何も書いていなかった。
その後、一、相良 大輔、佐久間 興人、疾風が引いたが、やはり何も書いていなかった。
「なあなあ、零華」
疾風が滝本 大作にクジの筒を渡した時、何時の間にか隣に来た修兵が零華に話しかけた。
「なに?」
「俺思うんだけど…お前が一番、メイド服が似合っているんじゃないか?」
「……」
修兵に言われ、零華はジト目で睨む。
「冗談じゃない。僕だって絶対に嫌だ」
「でもお前って、美少女じゃん。絶対メイド服似合うだろ?」
「僕は男だ! 女の子扱いするなよ!」
そう言っている内に、大作が引くのを終わっていた。文字は無かった。
「ほら、次は修平だ。もしかしたら、修平かも知れないだろ?」
「勘弁してくれよ」
そう良いながら、筒を受け取って箸を引いた。文字は無かった。
「よっしゃー! 俺もクリア!」
「くじ用意したのは修平だろ? イカサマしたんじゃ…」
零華が疑惑の目を向ける。
「濡れ衣だぞ! もし俺がイカサマしているなら、無理矢理最初に引いてただろ?」
零華に文句を言いながら、修兵は来季に筒を渡した。そして来季もクリアーだった。次は、濱野 尚文だった。
『…不味いな…尚文もセーフだったら、もう僕を含めて五人しか残っていない…』
零華以外で残っているのは、太一、孝明、明司、そして山村 直樹だけであった。
『…女装何て嫌だ! 只でさえ女の子っぽいのに、そんな事したら…』
そう考えている内に、尚文も女装を引かずに終わった。
「次は零華だぞ」
「うん」
零華は尚文が筒を渡してきたので、受け取ろうとした。しかし…。
ガシャーン!!!
尚文が手を滑らせて、筒を落としてしまった。
「ああぁ! 何をやっているんだよ!」
修兵がやって来て、筒から落ちて散らばった箸を集めはじめたが、何故か既に終わった男子全員でやり始め、その為にまだやっていない零華達からは見えなくなった。
「おい! 何で皆で片付けるんだ!? 一人で良いだろう!」
零華はそう叫ぶが、片付けている男子は無視し、やがて五本の箸が入った筒を修兵が零華に渡した。
「ホラ、お待ちどう!」
「……」
何か怪しく感じたが、騒いでも仕方がないと判断し、零華は箸を引いた。
『女装』
引かれた箸には、そう書かれていた。
「どうだ?」
修兵が聞いてきた。
「…いや。僕も外れだ」
そう言って零華は、箸を後ろ手で隠した。
『冗談じゃない。何でよりもよって僕なんだ…』
顔は平然を装っていたが、内心は動揺している零華。
「ホントか? なら見せてみろよ?」
修兵がしつこく聞く。
「何でだよ? 他の皆は自己申告で見せてないじゃないか…それより次は太一だよ」
そう言って零華は、誤魔化した上に太一に筒を渡した。その時…
「零華! お前の手に虫が付いているぞ! デカい虫だ!」
「キャ!?」
女の子の様な悲鳴を上げて、零華は手を振り払う動作をする…そして箸を落としてしまう…『女装』の文字が書かれた箸を…。
修兵はそれを拾って、零華に見せる。
「此れは何かな? 零華ちゃん?」
下卑た笑みを浮かべる修兵。
「…何でしょう?」
はにかむ様な笑みを浮かべながら、首を傾げる零華。
「こんな時に、あざとい顔見せるな!」
そう叫びながら、クラス全員に箸を掲げて見せる。
「見ての通り、女装は零華に決まったぞ!」
修兵のその宣言に、クラスに歓声が上がる。
「という訳で零華! お前がメイド服を…」
そう言って零華が居た場所を見る修兵だが…零華は居ない…。
ガラッ!
教室の出入り口の方から音がした為に、全員が目を向けると、カバンを持った零華が立っていた。
「まあ冗談はこの辺にして…僕今日はバイトだから…バイバイ♪」
そう言って零華は、全速力で逃げ出した。
「嘘つけ! お前今日は、バイト休みだって言ってたろ! 追えぇ! とっつかまえろ!」
修兵の言葉に、男子全員が零華を追跡する。残された女子は…。
「…まさか、こんな原始的な作戦をするとは、零華も思いつかないだろうな…」
そう言いながら理奈は、筒に残った四本の箸を抜いた…其れには全て、『女装』の文字が書かれていた。
実は尚文が落としたあの時、修兵が全て『女装』の箸にすり替えるという、原始的な作戦を行っていたのだった。そして此れは、零華以外のクラスの殆どが共謀した上で行われていた。
そうつまり…零華は意図して女装をやらされる事になったのであった。
最も原始的な作戦に引っかかった!
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