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第43話 ハネウマライダー

 陽介がバンドへ加入してから最初の練習日。

 うまいこと部室の練習時間枠が取れなかったので、今日は今村楽器のスタジオでの練習をすることになっていた。


 一応陽介をバンドに誘うことは事前に時雨と理沙へ伝えていたのだけれども、まさか本当にそうなるとは2人とも思っていなかったらしい。

 店の前で僕ら4人が集合すると、真っ先に時雨と理沙が陽介の姿を見て驚く。


「まさか本当に岩本を引き入れるとはなあ……。一体どんな口説き文句で落としたんだか」


「うんうん。融って、実はかなりの人たらし?」


「そ、そんなことないよ? なあ陽介?」


「さあな」


 陽介はフフッと微笑してはぐらかした。

 時雨ほどではないけど割と陽介もクールで表情が硬いので、こんなふうに笑うのは少し意外だった。


 彼には僕がタイムリーパーであることを打ち明けたけれども、この2人にはやっぱりまだ打ち明けられない。

 いつか話してもいいかなと思える日まで、このことは黙っていようと改めて僕は心に決め直した。


「まあ、そんなことより早く練習しよう。岩本が加入したぶん出来ることは増えるけどさ、曲のアレンジとか考えることも増えるんだからさ」


「そ、それもそうだね。早くスタジオに入ろう」


 話を深堀りせずに理沙が練習へと誘ってくれたおかげで助かった。


 確かに彼女の言うとおり、陽介が加入することでバンドで出来ることは増える。時雨のギターへの負担も減るし、なんなら歌うことも出来れば、曲の構成やアレンジにも強力なアシストをしてくれる。


 それでも考える時間というものは必要だ。そしてその時間が僕らにはあまり残されていない。あと一週間もすれば、予選ライブが始まってしまうのだ。


 スタジオに入るやいなや、すぐにセッティングを始める。

 時雨はサンバーストカラーのジャズマスターを、理沙は白地にべっ甲ピッグガードのプレシジョンベースをケースから取り出す。

 陽介も当然、この高校時代に愛用していたギターを取り出すかと思ったら、僕の予想を裏切るものが出てきた。


「陽介……? そのギターは一体?」


「ああ、これか? この間見つけて即買いした」


「即買いって……、そんなに安いものじゃないはずだけど……?」


「もちろん新品じゃなくて中古だ。このぐらいのパワーのあるギターじゃないと、バンドの中で埋もれる思ってな」


 陽介が取り出したギターは、ギブソンのレスポールスタンダードだった。カラーは黒で、クリーム色のピックガードがついている。中古で買っても20万円近くはする代物だ。

 サウンドは太く無骨で、ロックギタリストの中でも愛好家が多い。


 実は同じようなギターを彼は1周目でも購入していた。彼が敬愛するELLEGARDENの細美武士が使用するものとよく似ているのだ。それゆえ、買ったときの陽介がやけに嬉しそうにしていたのをよく覚えている。


 しかし買ったとはいえ、このギターの暴れ馬のようなサウンドがバンドに合わないと言って滅多に使われることはなかった。

 それが今回はどうだ、バンドに合わないどころか、むしろこれぐらいではないとパワーが足りないと言うのだ。

 好きなギターを思いっきりバンドで弾き倒せるとなれば、彼は今相当嬉しいのではないかと思う。


 嫌々とか成り行きでバンドに加入しているのではないかと少し恐れていたけれど、僕はそのギターを見て安心した。

 陽介も本気だ。


「それじゃあ早速始めようか。まずは『トランスペアレント・ガール』からでいい? 陽介はとりあえずついてくる感じで頼むよ、コード進行は――」


「大丈夫だ。全部コード進行も頭に入ってるし、アレンジまで考えてきてある」


「えっ、マジで? そんな時間の余裕なんて無かった気がするけど?」


「それはまあ……、俺の実力ってことで」


 陽介は端切れ悪くそう言い放つ。

 なるほど、と僕は理解する。これは照れ隠しだ。


 陽介のやつ、なんやかんやで僕らの曲を自分で演奏したらどうなるか、頭の中でシミュレーションをしていたのだろう。

 本当はバンドに誘われたくてうずうずしていた彼のいじらしい姿を想像すると、僕もニヤけ顔を抑えるのに必死になってしまった。

 そんな僕ら2人を見て、理沙と時雨がツッコミを入れる。


「なんだなんだ? お前らやけに仲良くなってないか? 前からそんな感じだったっけ?」


「……なんだか楽しそう」


「ま、まあ、これは男同士にしかわからないような話だよ。なあ陽介?」


「そうだな」


 適当な返しをすると、理沙と時雨はジト目でこちらを向く。

 初合わせなのに、とてもリラックスした雰囲気なのは間違いない。何かピリピリした雰囲気になる可能性もあり得たから、これは良い傾向だと思う。


 気を取り直して僕はドラムスティックでカウントを入れると、一味違う『トランスペアレント・ガール』が奏でられ始めた。


 時雨のギターだけではカバーしきれなかった部分を、陽介が余すことなく拾っていく。何か欲しいなと思うところには、すかさずフレーズを入れてくる。

 野口の言っていた『めちゃくちゃ美味い白米』に、極上のおかずがついたと表現したらいいだろうか。


 ドラマーの僕だけではなく、みんな思っているはず。

 これならスリアンに勝てると。

読んで頂きありがとうございます


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います


よろしくお願いします!


サブタイトルはポルノグラフィティ『ハネウマライダー』

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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こちらもよろしくお願いします!!!
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[一言] 陽介は小笠原に出会って何を思うか。
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