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第27話 ないものねだり

「わぁお!しぐしぐめっちゃ似合うー!」


 試着室のカーテンが開くと、そこには水着姿の時雨がいた。

 青系の花柄スカートに、フリルのついた白のトップス。派手さで強調するのではなく、少し落ち着いた色合いとデザインで時雨の可愛らしいところを補強していると言ってもいい。


 こういう水着を一発でチョイスするあたり、麻李衣のセンスは抜群だ。


「そ、そうかな……、本当に似合ってる……?」


「似合う似合う!SNSに上げたら伸びること間違いないよ!」


 麻李衣は待ってましたと言わんばかりに時雨の水着姿をパシャリと撮る。事前に店員さんに撮影許可まで取っていたりして、なんだか手慣れている。

 一方の時雨は慣れない水着姿が恥ずかしいのか、スマホのカメラを向けられるなり手やカーテンで自分の身体を隠そうとする。


 男どもに言わせるとそういう恥じらいの部分も良いらしいが、時雨クラスになると男女関係なく可愛いと思ってしまう。これは確かに反則だ。


「ちょ、ちょっと写真を撮るのはやめてほしいかな……」


「へへへ、大丈夫大丈夫。これは私だけの永久保存版にするから安心して」


「安心できるような、できないような……」


 時雨は苦笑いを浮かべる。

 麻李衣は麻李衣で想像以上の似合いっぷりが嬉しかったようで、連射速度にも拍車がかかっていた。


「理沙はどう思う?これ、似合ってるかな?」


「似合ってるに決まってるだろ。これを選べば間違いないな」


「えへっ、理沙もそう言ってくれるならこれにしようかな。お値段も予算内だし」


「ああ、これ以上ない買い物だな」


 私がそう返すと、時雨はニコッと笑ってからもとの服に着替えるためにもう一度カーテンを閉めた。


 時雨の強烈な透明感とブーストされた可愛らしさ。それを向けられる相手というのが融なのだから、あいつはなかなか罪な男だ。


 さて、私は私で適当なのを選ぶとしよう。

 出来れば時雨の可愛らしい水着が引き立つように、目立たないものがいい。

 手に取ったのは体型が隠れそうな露出度の低い水着。


 すると、そんな投げやりな私の水着選びを見て、麻李衣はすかさずツッコミを入れてくる。


「あれー?りさぽんったらそんなの選んじゃうの?せっかくのモデル体型なんだから、もっと映えるのにしたらいいのに」


「べ、別にこれでいいだろ。私にはそんな目立つのは必要ないし」


「いやいやいやいや!りさぽんのそのスラッとした身体、活かさないとかもったいなさすぎるよ?そのモデル体型を羨ましがる人がこの世の中に何億人いることか……!」


「そんな大げさな……」


 麻李衣は私のことをモデル体型と言うけれど、それはかなりポジティブに見立てた場合の話。


 背は高くて出るところは全然出ていない。制服を着ていなければ男にだって間違えられることもある。

 むしろ私にとっては、麻李衣のように女の子らしい身なりが羨ましいぐらい。

 多分これは、ないものねだりというやつだろう。


「やっぱりそんなのよりもこっちのほうがいいよ、りさぽんなら絶対に着こなせる」


「い、いや、でもそれは……」


 麻李衣が手に取ったのは私ならば天地がひっくり返っても選ばないようなものだった。


「私としてはこれしかないと思うけどね!すっごく大人っぽいし、なんといってもりさぽんの魅力が存分に引き立つし」


「引き立つって言ったってなあ……。そんな私を見て誰が得するんだよ」


「誰って……、そんなの自分自身に決まってるじゃん」


 麻李衣のその一言に私は意表をつかれる。

 確かに自分が着飾ることで1番気持ちの面で得をするのは自分である。私はいつの間にか誰かのためにという気持ちが強くなってしまっていた。


 よくよく考えたら普段の私服だってそうだ。

 お気に入りのライダースジャケットやスキニージーンズだって、自分が着たいから着ている。


 自分で自分を補強する武装みたいなものだ。

 身につけるものにまで、誰かのためになんて考えることは今までなかったはず。


 麻李衣の一言に少し救われたかもしれない。このまま利他的な思考が私の中を支配するようになれば、それこそ自分を見失うことになりかねない。

 私が私らしくいられるなら、こいつを選んでみることも悪くはない。そう私は思い直した。


「そ、そうか。じゃあせっかく麻李衣が勧めてくれたし、試着ぐらいはしておくか」


「うんうん、絶対に似合うからぜひ着てみてよ」


 私は試着室に入り、麻李衣が選んだ水着を改めて眺める。


 彼女のチョイスは、黒のビキニ。エスニックなパレオのついたそれは、確かに細身じゃないとなかなか着こなせないように見える。


 喉元過ぎれば熱さを忘れる。羞恥なんて最初の一瞬だけ。

 私にしか着こなせないというのであれば、外野なんて結果で黙らせればいい。いつもそうやってやってきたはずだ。


 意を決してそれを身に着けた私は、再び試着室のカーテンを開く。

 その瞬間、外で待っていた麻李衣と時雨は目を見開いて驚いた。


「りさぽんっ……!すっごく良い……!」

「理沙……、大人っぽくてかっこいい……!」


「なっ……!」


 想像以上のリアクションに、私は一周回って恥ずかしくなってきたのですぐに試着室のカーテンを閉めた。


 こうなると買わないわけにもいかないので、私は結局この水着を買うことになった。

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サブタイトルの元ネタはKANA-BOONの『ないものねだり』です

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「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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