第33話 フラッシュバック
◇奈良原時雨視点
最近バンドが楽しい。
今までずっと一人で音楽をやって来たこともあって、融や理沙と一緒に音を出せることが嬉しくて仕方がない。
ずっとこのまま、この音が続いていけばいいと、そう思っていた。
とある日の練習、事件は起きた。
融のスネアドラムのヘッドがズタズタにされていたのだ。
それはもう、誰かの明確な敵意だった。
私は中学の頃のトラウマをフラッシュバックしそうになった。
敵意をまともに食らった当時の私は、自分の音楽が他人には受け入れられないものだと思って塞ぎ込んでしまった経験がある。
だからこのバンドの精神的支柱である融が、もしもこんな敵意によって心折れるようなことがあれば、私達は共倒れになる。
そんな恐怖が脳裏をよぎった。
「……時雨、理沙、君らの機材は大丈夫か?」
「あ、ああ、とりあえず大丈夫そうだ」
「私も大丈夫」
融は安堵のため息をつく。
こんな状況でも、彼は自分のことより仲間のことを気にかける強さがあった。その強さはどこからやって来るのだろう。
「……融、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ヘッドとスナッピーが壊されただけだから交換すればいい話だよ」
彼はあまり心配していないような感じでそう言う。
私を動揺させないように、わざとそんな風に振る舞っているのだとすれば、融には本当に頭が上がらない。
◆
翌週になって、いよいよ『未完成フェスティバル』の参加権を争うライブの告知が全校中に行なわれた。
部長の関根先輩はかなり念入りに準備をしているらしく、大々的に宣伝がされている。
フライヤーには私たちのバンド『ストレンジ・カメレオン』と、岩本くんたちのバンド『等身大の地球』の対決の煽り文句が書かれていた。
とても目につくデザインであるので、生徒は皆興味津々。
これほど関心が高いと、相当数のお客さんが来るのだろう。
ふとそんな事を思っていると、私の耳には聞きたくなかった言葉が飛び込んでくる。
「……奈良原、バンドやってるの?」
「マジ?懲りなさ過ぎじゃね?」
「なになに?その子、何かヤバい系の子なの?」
「えっと、実は中学の頃――」
言葉の主は中学時代の同級生たちだった。
私が音楽部で起こしてしまった失敗を、あの人たちは掘り起こし始めたのだ。
私は急に胸が苦しくなって、いてもたってもいられなくなった。いわゆる、パニックみたいな状態だったと思う。
またあの中学のときのような悪夢が繰り返されるのではないかと思うと、何をするのも怖くなってしまった。
私は本当に、ステージに立って歌を歌ってもいいのだろうか。
すぐに誰かに『大丈夫だよ』と言ってほしかった。でも、ここには融も理沙もいない。
ドロドロにうごめく自分の感情をなんとか抑えて、我慢して、ただ時間とともにその波が消えていくのを待った。
でもそんなに長くは耐えられず、2限の体育の最中にダウンしてしまった。
せっかく同じ授業には理沙がいたのに、また私はひとりでなんとかしようとしてしまったんだ。
その後はもう、逃げることしか頭にはなかった。
気がついたらあのときと同じように、自分の部屋に閉じこもってしまっていた。
ごめんなさい、融、理沙。
私はやっぱり、弱い人間です。
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ちなみにサブタイトルの元ネタはASIAN KUNG-FU GENERATIONの『フラッシュバック』です
カッコいいのでぜひ聴いてみてください




