第27話 CATS NEVER EAT BEEF
部室での練習終了後、僕ら3人は学校から少し離れた場所にある国道沿いのマクドナルドにいた。
本当はデカいショッピングモールのフードコートにあるマクドナルドが学校の最寄りなのだけど、そっちは人だらけで落ち着かないので、僕はマクドナルドというともっぱらこっちの方に来る。
2階のテーブル席に陣取った僕らは、注文したものを思い思いにつまみながらミーティングを始める。
議題はもちろん、このバンドが結果を出すためにどうするかだ。
「……手っ取り早いのはコンテストに応募することだと思うよ。高校生向けの音楽コンテストって、結構開催されてるし」
僕はスマホを弄ってはそういったコンテストのウェブサイトを開いて二人へ見せた。
10年前の機種であるこのスマホは、やっぱりまだ不便に感じることが多い。当時は快適だったはずなんだけどな。
「まあそれが妥当な線だろうな。どうせなら規模の大きいコンテストがいい、その方が箔がつくだろ」
僕の対面に座る理沙がそう言う。
彼女はとにかく腹が減ったとのことで、普通にクォーターパウンダーのセットを注文した。タイミングがよくポテトは揚げたてのようで、サクサクホクホクのそれに僕も食欲をそそられる。
「そうだね。出来れば全国規模で、より多くの人の目に留まるようなコンテストに出たい」
僕はコーヒーフロートの上カップを外してスプーンストローでソフトクリームを一口食べる。
「……それなら、出てみたいコンテストがある」
そう言うのは僕の隣に座る時雨だった。
マロンパイは販売期間ではなかったので、アツアツのアップルパイをかじっている。でも、彼女は相当な猫舌のようで、一緒に注文したメロンソーダで舌を冷やしながらちびちびと食べている。まるで小動物だ。
「時雨が出てみたいコンテスト?……意外だね、そういうのあまり興味ないと思ってた」
「基本的には興味ない。けど、これだけは気になってる」
時雨は自分のスマホを操作してとあるウェブサイトを僕らへ見せてくる。
そのページを見て僕は、なるほどそういうことかとピンと来た。
「『未完成フェスティバル』っていう、ラジオ番組主催の高校生音楽コンテスト」
「ああー、あの平日の夜にFMでやってる番組の……」
その番組の名前は『School of Life』、中高生向けに放送されている全国ネットのラジオ番組だ。
ロックバンドやシンガーソングライターのパーソナリティが曜日ごとに代わる代わる登場し、音楽を紹介したり裏話をしたりとロックキッズにはたまらない番組だった。
奈良原時雨も当時はヘビーなリスナーであったと――それも、この番組がなかったら生きていられなかったかもしれないと音楽雑誌で公言している。
だから時雨には、このコンテストに並々ならぬ思い入れがあるのだろう。
思いが強いイベントなら時雨も熱も入るだろうし、そうなればバンド全体のモチベーションも上がる。選択肢としてはこれ以上ない。
「じゃあこの『未完成フェスティバル』に出ることにしよう。応募には顧問か担任の先生の承諾がいるらしいから、明日にでも行ってみよう」
「うん」「賛成」
ミーティングの議論は満場一致であっさり終結。
その後は時間が許すまで駄弁っていた。これはこれで青春っぽくて良い。
◆
翌日、僕は『未完成フェスティバル』の応募を承諾してもらうために顧問の先生のところへ赴いた。
顧問の金村先生は化学を担当するぽっちゃりした女の先生だ。丸みのある身体でいつも白衣を着ているので『ゆでたまご先生』とか呼ばれたりしている。
そんなニックネームだけど、別に漫画を書いているわけではないし、好物も牛丼ではない。
特に厳しい先生ではないし、あまり部活に対して口を出してくることもない。普通にお願いすれば、普通に承諾してくれるだろう。と、思っていた。
「うーんとね、芝草くん。このコンテストに参加することを承諾するのは構わないんだけど、ちょっと困った事になってるのよ……」
金村先生は困惑した表情で僕を見る。
すんなりと承諾してくれない事情とは一体何なのだろうかと僕は疑問に思ってしまった。
「どういうことですか……?何か僕らに問題でも?」
「いえ……、別にあなた達に問題は無いのだけど……」
「それじゃあどうしてなんですか」
先生は困ったような顔をして何か書類を取り出した。
それは、『未完成フェスティバル』の応募要項が書かれたウェブページを印刷したものだった。
「あのね芝草くん、実はこのコンテストなんだけど、この要項には『応募は各校1組まで』って書いてあるのよ」
「それってもしかして、僕ら以外にも応募したい人がいるってことですか?」
「え、ええ……、そういうことなの」
なんてこった。せっかくモチベーションも上がりそうないいコンテストを見つけたのに、そんな制約があったなんて。
「ちなみに、僕らの他に応募したいって言っていたのは誰ですか?」
「えーっと、確か……、1年の岩本君だった気がするわ」
先客はまさかまさかの陽介だった。
よりにもよって陽介かよ、と僕は肩をすくめる。
「でもお互い1年生で良かったわね。まだ正式に承諾はしていないから、二人でよく話し合ってちょうだい。それで話がまとまったら、また私のところに来て」
「そ、そんな……」
先生は簡単にそんなことを言う。
彼女は知らないと思うが、陽介との話し合いがうまく妥結するなんてことはありえないのだ。あいつはだれよりも我が強い。
これは、戦いの予感がする……。
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サブタイトル元ネタはThe Birthdayの『CATS NEVER EAT BEEF』だったりします
カッコいいのでそちらもぜひ聴いてみてください




