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第18話 Get back

 次の日もその次の日も、理沙は現れなかった。


 いつもタバコを吸っていた屋上にも、サボり魔がたむろしていそうな空き教室にも、保健室にすらいなかった。

 もしかしてと思ってダメ元で彼女が所属するクラスにも出向いたけど、やっぱりいない。


 あの日から理沙は学校に来ていない。

 まるで父親である片岡議員に連れ去られてしまったかのように、その姿はなくなってしまった。



「――芝草くん。……芝草くん?」


「えっ、あっ、ごめん、ぼーっとしてた」


 軽音楽部の部室で時雨と共に練習をしていたのだけれども、理沙のことが気になって身が入らなかった。


「……やっぱり気になってる?片岡さんのこと」


「ま、まあ……、気になっていないと言えば嘘だな。あんな去り方をされたらさすがに後味が悪い」


 時雨はお馴染みの変化に乏しい表情のままだ。それでも、わずかにしょんぼりしたような、そんな落胆の色が見える。


「芝草くん。私ね、3人で音を鳴らしてみてわかったことがある」


「わかったこと?」


「うん」


 時雨は担いでいたギターのボリュームノブを一旦絞る。


 普段の話し声が小さい彼女は、余計な音を出したくないとき――すなわち、大事なことを言いたいときはこういうことをする。


「バンドって凄く楽しいんだなって思った。もちろん、芝草くんと2人のときも楽しいけど、やっぱり片岡さんが入ったときの音が一番楽しい」


「奈良原さん……」


 僕は時雨が素直に『バンドが楽しい』と言ってくれたことが嬉しかった。

 あれだけ自分の世界に引きこもっていた子が、ここまで前向きに音楽を楽しもうとしているのだ。


 多分それはもう、僕だけの力ではない。

 たった数回一緒に演奏しただけだけど、既に理沙のベースはこのバンドに欠かせないものになっていたのだ。


「だから私、また片岡さんと一緒に演奏したい」


「うん。そうだよな、僕も全く同じ気持ちだよ」


 時雨とは初めてこんな感じで気持ちを共有出来た気がする。それはそれで大きな一歩。


 それよりも今の課題は理沙のことだ。

 時雨にまで『また一緒に演奏したい』と言わせる腕前だ、代わりなんていないに決まっている。だからなんとかしてまた理沙をこの場所に呼び戻したい。


「でも、一体理沙はどこにいるんだ……?」


「それは……」


 さすがに県議会議員の娘とあれば、理沙の家の場所ぐらい特定するのは難しくない。

 でも、そこに理沙がいるかはわからない。それに、理沙を見つけ出したところでどうにもならないのも目に見えている。


 やっぱり理沙を引っ張り出すには、彼女を縛り付けている根源を叩かなければならないだろう。


 未来の県知事。それが次に僕が向き合わないといけない壁だ。


 一介の高校生が立ち向かうにしてはでか過ぎる壁。しかも理由が『娘さんと一緒にバンドを演りたい』というそれだけなのだから滑稽なもんだ。


 それでも僕と時雨は、理沙が戻って来ることを切望している。何か方法はないのか、頭を巡らせるしかない。


「やっぱり直接理沙の親父さんに会うしかないか」


「……だけど、どうするの?」


「会うだけなら簡単さ。片岡英嗣の選挙事務所に行けばいい」


 すると、時雨は不思議な顔をする。


「選挙事務所……?片岡英嗣って誰?」


 しまった、時雨には理沙の父親が片岡英嗣という県議会議員であることは言っていない。ちょっと口が滑ってしまった。

 僕はある程度未来のことを知ってしまっているので、言動には気をつけなければ。

 とりあえずこの場は適当な感じに取り繕っておこう。


「あっ、いや、この間理沙を迎えに来た人がなんか見覚えあるなーと思ってね。調べたら県議会議員の人だったんだよ」


「……そうなんだ。じゃあ片岡さん、不良っぽく振る舞っていただけだったんだね」


「ま、まあ、そういうことだろうね。多分、家庭内でもかなり軋轢あつれきがあるんじゃないかと思う」


 県議会議員もとい、未来の県知事の娘ともあれば、成績優秀で品行方正が求められるだろう。

 でも理沙はそうはしなかった。いや、多分真面目な彼女のことだから、やれと言われればそういう風に出来るはず。だから、理沙には理沙なりの理由が絶対にある。


 それをどうにかして、父である片岡英嗣に訴えかけられないだろうか。


「……とにかくやってみるしかない。善は急げだ、奈良原さん、このあとちょっと付き合ってくれる?」


「……うん、行く」


 まだ部室での練習時間は残ってはいるけれど、僕らはそれを切り上げて学校を出た。


 向かうはもちろん片岡英嗣の選挙事務所。そろそろ知事選挙が控えているので、準備のために事務所に彼がいる可能性は高い。



「ここか……、やっぱり地元の有力者だけあって事務所もでかいな」


「ねえ芝草くん……、本当に大丈夫?」


 一緒についてきた時雨は少し怯えている。


 当たり前だ、何なら僕だってビビっている。1周目でバンドをやっていた頃、遠征に出て地方のボスみたいなバンドに挨拶をしにいった時なんかより全然緊張している。


「大丈夫だよ、なんとかなるって。念の為だけど、奈良原さんは外で待機しておいてもらえるかな?」


「……うん、無理しちゃダメだよ?」


「わかってるって。一応相手が相手だし、僕と奈良原さんでLINE通話を繋いだままにしておこう。――何かあったら、すぐに警察を呼ぶように」


 さすがに県議会議員ともあればそんなことはしてこないとは思うけど、予防線は張っておいて損はない。


 僕は意を決して片岡英嗣選挙事務所の呼び鈴を押した。

 すると中から聞き慣れた声で返事がして、事務所のドアはあっさりと開けてもらえた。


「はい、どちら様で――。って、芝草か!?」


「えっ……?もしかして、理沙……?」


 ドアを開けたのは理沙だった。お互いにどうしてだよという感じで驚いている。


 でも僕が驚いたのは理沙が出てきたことだけじゃない。金髪ヤンキースタイルの彼女は、髪を黒く染めてビジネススーツを身にまとっていたのだ。

読んで頂きありがとうございます!


皆様のおかげでまもなく10000ptを迎えることができそうです!本当にありがとうございます!


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います


よろしくお願いします!


サブタイトル元ネタはザ・ビートルズの『Get Back』だったりします

カッコいいのでそちらもぜひ聴いてみてください

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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こちらもよろしくお願いします!!!
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