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第51話 リッケンバッカー

 喫茶店で再び集合した僕たちは、息をつく暇もないままライブハウスへと戻った。

 出番にはなんとか間に合いそうだ。控室に入るなり、陽介は担いでいたベースのケースをおろして中身を取り出し始める。


 そのベースをひと目見た瞬間、理沙は目を見開く。


「おお……、岩本の姉さんが貸してくれたっていうのがこのベースか……」


「ああ。リッケンバッカー4003、これじゃなきゃ片岡の良さは出せないと思ってな」


 サンバーストカラーのリッケンバッカー4003、明菜さんの愛機であるそれには、理沙のプレシジョンベースに負けないぐらい弾き込んだ痕がある。

 その明菜さんの姿をよく知っていた僕は、理沙がリッケンバッカーを弾く姿というのが容易に想像できた。


 陽介の言うとおり、プレシジョンベース以外で理沙に弾かせるなら確かにこれしかないと納得できる。


「うわあ、リッケンバッカーなんて初めて触るぞ……。本当に弾いてもいいのか?」


「当たり前だ。そのベースで魂の赴くままに弾けばいい」


 ストラップをリッケンバッカー4003に付け替えた理沙は、早速それを担いで弾き心地を確認する。

 世辞抜きでよく似合っているなと、僕ら3人には自然と笑みがこぼれてきた。


 そんな柔らかい空気になりつつある中、それを引き裂くように後ろから誰かが刃のような言葉を言い放つ。


「リハなしのぶっつけ本番で、人様に借りたベースか。ざまあないな」


「お、小笠原……!?」


 そこにはまた小笠原がいた。スリアンがまもなく出番を迎えるということもあって、彼は黒のエクスプローラーを担いでいた。

 わざわざ僕らを牽制しに来たのかと思い、弛緩していた空気は一気に引き締まる。


「お前らがやったくせに、その言い草はないだろうよ」


 理沙がそう言うと、冗談じゃないという表情で小笠原が言い返す。


「おっと片岡さん、証拠もないのにそんな言い方はひどいじゃないか。俺から言わせてもらえば、自分の大切な楽器すらまともに管理できないほうがよっぽど杜撰だと思うけどね」


「このやろ……!」


 さすがの理沙も怒りの導線に火がつきそうになる。しかし、それをすぐさま陽介が制した。


「やめろ、理沙」


「い、岩本……!?」


 陽介が制したことに驚いたのか、それとも初めて名前で呼ばれたことに驚いたのか、理沙の怒りのボルテージは一気に下がった。


「俺も限りなく100%に近い確率でこいつらが犯人だとは思う。でも今ここで手出ししたら、悪いのはこっちとみなされても仕方がない」


「……た、確かに」


 理沙はしまったと反省をする。ひとつため息をついて落ち着きを取り戻したところで、僕も彼女へ声をかけることにした。


「陽介の言うとおりだよ。こんな奴ら、気にしてたって仕方がない。僕らのできることをやるべきだよ」


「私もそう思う」


「2人とも……。そうだよな、取り乱してすまなかった」


 すると、そんな僕ら4人の様子が気に食わないのか、小笠原は苛立ちを見せる。


「友情ごっこは終わりか? まあ、もうすぐ俺たちの出番だし、全部圧倒して、焼け野原状態でお前らに回してやる。楽しみにしていればいい」


 小笠原は吐き捨てると、ステージの方に向かって消えていった。


「……行っちゃった」


「気にするな。妨害作戦が空振りして、あいつの方が内心動揺しているはずだ。俺たちはブレずに演ればいいだけの話」


「確かにそれもそうだね。うちのバンドで1番ブレない理沙のベースがやっぱり最強なんだってとこ、見せてやろうよ」


 程なくして、スリアンのライブが始まった。

 敵情視察ということでライブハウスのフロアへ出た僕と陽介は、彼らのサウンドの圧倒的物量に押しのけられそうになる。

 曲は彼らのライブの人気曲から3つを選びだしたセットリスト。


 会場内は、このバンドで決まりなんじゃないかという雰囲気に包まれ始めていた。


「……やっぱりアイツら、この3曲を出してくるよな」


「昔から鉄板のナンバーだったからね。本気で獲りに来てるよ」


「小笠原が『焼け野原にしてやる』なんて言っていたけど、案外間違いじゃないかもな」


「確かにこの後っていうのは演りにくいね。でもなんだろう、不思議と負ける気がしてこないんだよね」


 僕がそう言うと陽介も同じことを思っていたのか、不敵な笑みをこぼす。

 いっちょやってやろうぜと陽介が僕の背中をポンと叩くと、僕もそれに応えるように「ああ」と一言だけ言う。


 ◆


 僕らはステージに上がりセッティングを始める。

 先程理沙だけ音出しが出来なかったので、そこを念入りにチェックしていた。


「……よし、出音はこんな感じでいいかな。いわも……陽介、どう思う?」


「そのベースは出力が高いから、ちょっとゲインを下げといたほうがいい。それ以外は問題ない」


 理沙も陽介の見立てには信頼を置いているのか、アンプについているゲインのツマミを少しだけ絞った。

 これでなんとか大丈夫そうだ。僕もセッティングは完璧。

 最後に僕は、時雨へと視線を送って確認する。


「私も準備オッケーだよ」


「さあ、演ろうかみんな。色々思うところはあるかもしれないけどさ、全部音に昇華してやればいいよ。全力でいこう」


 PAさんに合図を送ると、ステージの照明が一旦暗くなる。

 ステージ転換のBGMがフェードアウトすると、絶妙なタイミングで陽介がリフを刻み始めた。


「――『From now on』」


 時雨がタイトルコールをすると、4人の音がひとつずつ重なり始める。


 ――さあ行こう、僕らの最高速で。

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サブタイトルはリーガルリリー「リッケンバッカー」

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「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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