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第10話 I'm 劣性

 ◇奈良原時雨視点


 私、奈良原時雨は、全くもって人に好かれるような存在じゃない。孤独というものに取り憑かれている人間だと思う。


 それを自覚したのは中学の頃。

 歌うことが好きで、覚えたてのギターも練習したいという気持ちだけで加入した音楽部。思えばそこから間違いだったのかもしれない。


 音楽部のみんなは最初、私の歌に対して凄いねとか、上手いねとか言ってくれた。

 でもそれは長くは続かず、いつの間にか私の周りからは人が居なくなった。それどころか、意図的に仲間はずれにされるようなことが増えた。


 原因は多分、私の人間関係構築能力が低いことにある。


 口下手で、表情も乏しいから人形みたいだと何度も言われた。直そうと努力したけれど、そう簡単に直るものではない。


 それが顕著に現れたのが中学3年の定期演奏会。

 当たり前のようにグループから仲間はずれにされた私は、一人でステージに立った。

 すると、一曲目を歌い始めると同時にお客さんが一人、また一人と席を立ち始めたのだ。


 私のことを仲間はずれにしているグループの連中だけではない。他に来てくれた生徒やその連れの人たちも皆、会場からいなくなってしまった。


 そうして定期演奏会は失敗に終わった。もちろん、その失敗は私のせいだとみんな当然のように糾弾する。

 そんな揉め事があったおかげで、音楽部は解散することになった。実質的に私が潰したようなもの。


 それからというもの、私は決して誰かのために歌うようなことはしなくなった。

 誰もいない寂れた商店街の端っこで、自分のためだけに歌を歌って自分自身を慰めるという、そういうひとり遊びを始めたのだ。


 入学した高校には軽音楽部があった。

 誰かとバンドを組もうなんて気持ちは毛頭無かったけど、部室というひとりで演奏するスペースが確保できるのは魅力的だと思ってその門を叩いた。


 部室の中には誰もいなかった。後から知ったけどこの日は休みだったらしい。

 私は何もせずぼーっと立ち尽くして機材なんかを眺めていたと思う。


 また適当な日に出直そう、そう思って立ち去ろうとしたとき、部室の扉が突然開いた。


 現れたのはひとりの男子生徒だった。

 彼は不思議なことに、まるで私がここにいることを知っていたかのように部屋に入ってきて、突拍子もなくこんなことを言うのだ。


「こんにちは、僕とバンドをやりませんか?」


 正直に言うと、この人の第一印象は『頭のおかしい人』だった。

 普通に考えて初対面の人にいきなりそんな事を言うのは常識外れ。だから私は反射的に「嫌」と返答した。


「そうかぁ残念。軽音楽部が休みの日にやってくる人なら、絶対バンドをやりたがっていると思ったんだけど」


 彼はなんだか掴みどころのない人で、何故か私とバンドを組もうと迫ってくる。

 私と音楽をやったところで、楽しい事なんて全く無いのに。


「僕、ドラムを叩くんだ。一緒にどう?」


「お断りする」


「それはどうして?もしかして、君もドラム担当なの?」


「……違う。私はただ、ひとりで歌いたいだけ」


 彼はまるで「私はドラマーではない」ということを知っているかのようにそう聞いてくる。


 心を見透かしたようで少し気味が悪い。でも、それと同時に私のことを理解してくれているんじゃないかという変な期待も湧いてしまった。そんなエスパーじゃあるまいし。

 私のことを理解してくれる人なんて、この世界にはいないんだ。幻想を抱くのは自分の歌の中だけでいい。


「おお!じゃあボーカルなんだね!なおさら一緒にバンドを組みたくなるね」


「ならない」


「どうして?」


 彼の明るさと勢いに、うまく言いくるめられてしまいそうな気がした。


 ……駄目だ駄目だ、早くこの人には私という人間の真実を知ってもらって、さっさと諦めてくれたほうがいい。

 そのほうが、この人のためであり、ひいては私のためになるのだから。


「バンドなんて、嫌いだから」


 きっぱりとそう言い切った。

 これだけ嫌がっているのだから、彼もさっさと手を引いてくれるだろうと思った。

 けど、私はこの人のしぶとさを見誤っていた。後から改めて思い知るのだけど、彼はびっくりするぐらいしつこい。


「なんでバンドが嫌いなの?」


 その理由をわざわざ話したくはない。

 また嫌なことを思い出して、どうしようもない自分が心の中で浮き彫りになるだけだから。


「……あなたには関係ない。帰る」


 ここは逃げるのが一番いいと思った。彼と会話をしていたら、なにか私が勘違いをしてしまいそうで怖い。

 歌う場所の確保が出来ないのは惜しいけれど、軽音楽部に来るのはもうやめにしよう。もちろん、彼に会うのも。


 それでも彼は去り際にこう言う。


「あっ!ちょっと待って!僕、芝草しばくさとおるっていうんだ、覚えておいて!」


 そこまでして名乗るのかと、私はその彼の執念深さに驚きながら部室をあとにしていた。


 でもそれは無駄なことだと思った。

 少なくとも私はもう、ここに来ることはない。

 それはつまり、彼にまた会うこともないということだから。

読んで頂きありがとうございます


少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけたら、下の方から評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います


よろしくお願いします!


サブタイトル元ネタはSyrup16gの『I'm 劣性』だったりします

カッコいいのでそちらもぜひ聴いてみてください

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連載中!
「出会って15年で合体するラブコメ。 〜田舎へ帰ってきたバツイチ女性恐怖症の僕を待っていたのは、元AV女優の幼馴染でした〜」

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こちらもよろしくお願いします!!!
― 新着の感想 ―
[良い点] こう見ると主人公ホントにヤバいな笑 [気になる点] あの中学の出来事からどういう流れで歌を世にだし、そして飛び降りするに至ったのだろう
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