表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4.知識の槽(おけ)

「これが高度知性体だ。」



光り輝く透明な培養(ばいよう)液から取り出された、

つややかな黒色をした正六角柱の物質。



「高度知性体という名ではあるが、

 見た目はこのような、ただの石である。」



研究者がそれを爪先で(はじ)くと、

硬く冷たい音が周囲の子供たちに届く。



「ただし、その名の通り

 学習能力に特化した生物である。」



海水が(したた)る手のひらの物質、

高度知性体の姿を、子供たちに見せて回った。



皆、興味深くそれを見つめる。



目も(ふん)も、臓器(ぞうき)も、(あな)さえもなく、

生物とは思えない均等(きんとう)な石の柱。



「『考える石』とも呼ばれており、

 成体になると思考にだけ特化する。」



「変なの。」



子供のひとりがそうつぶやいたので、

研究者はうなずいた。



「人類の叡智(えいち)が生み出したこの奇妙な結晶。

 高度知性体は電気刺激によって成長し、

 『鉱化(こうか)』…つまり生物ではなく、

 このような石の姿になる。」



「あの水槽(すいそう)は?」ひとりの子供がたずねる。



「あれは幼体(ようたい)、子供の姿だ。」



高度知性体を取り出した水槽に

正六角柱の物質はなく、白く小さな(はく)

浮き沈みを繰り返し、(きら)めきを放つ。



「幼体は自力で泳ぐこともできず、

 培養液から栄養を吸収して分裂(ぶんれつ)

 自分の複製(コピー)を作り続ける。」



「どうやって幼体は成長するんですか?」



子供の質問に、研究者はうなずく。



「成体を幼体と同じ培養液の(おけ)に入れることで、

 高度知性体同士が連結し、信号を送りあい、

 幼体は成体の持つ大量の情報を共有する。」



「海中教育だ。」



「そう。皆も経験があるだろう。

 高度知性体とはいえ、遺伝情報だけでは

 『知能』としては不完全だ。

 成体となった高度知性体は水槽から取り出し、

 こうして新たな肉体が与えられる。」



そう言うと研究者は『知能』と呼んだ石の柱を、

横になっている人形の子供のところに運び、

頸椎(けいつい)頭蓋骨(ずがいこつ)の間に開かれた

小さな(あな)にはめ込んだ。



高度知性体――

『知能』を収納した人形は、

目を見開いて研究者の顔と

周囲の子供たちを見つめた。



ヒト、オスとメス、大人と子供。

人形は仕組みに(のっと)類型化(カテゴライズ)し、

目の前の個体を認識する。



研究者の大人や周囲の子供たちも、

人形の子供が動き出したのを見て、

ヒトの子供と類型化(カテゴライズ)した。



「さて、では改めて、生物学の話をしようか。」



大人がそう(のたま)うので、

子供たちはひとまず(うけたまわ)る。





(了)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ