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なろうラジオ大賞3

届けられたカセットテープ

 箱の中に入っていたのは、カセットテープだった。

 カセットテープの中身は、聞かなくても分かっている。なぜなら、それは、僕が彼女へ渡したものだから。


 突然、彼女の父の海外赴任が決まったと聞いたのは、高2の春休み直前のことだった。彼女は、日本を離れることに躊躇したようだったが、結局は家族と同行するという結論を出したのだった。

 僕は、密かに好意を寄せていた彼女との別離に、ただただショックを受けるばかりだった。別に付き合っていたとか、告白したとか、そんな仲ではなく、一方的な想いだけだったから、どうしてよいのかも分からなかった。

 

 それに、海外へ行ってしまう彼女に、今更告白したところで、困らせるだけだろう。そういう言い訳めいた考えが頭を支配していたことも事実だった。

 そのくせ、何か、繋がりになるものを手渡したくて、僕は悩んだ。

 母校はバイトが禁止だったし、仮に許可されていたとして、もう時間はほとんど無かったし、用意できるものには限りがあった。


 僕は、1本のカセットテープに、出来るだけポジティブな内容の曲を選んで録音することにした。これなら、「日本語の歌が聞きたくなった時にでも」とか言って、不自然ではなく手渡せそうな気がしたから。あの頃聞いていたFMラジオ番組で流れていた曲でこれぞというものをメモしまくって、リストアップし、レンタル屋へ借りに行った。もう、そのレンタル屋は潰れてしまったけれど。

 小遣いの中から出せる範囲で、レンタル代とはじめて買った高級カセットテープという表示の付いたテープ代は、なんとか出せた。いったい何が高級なのか、当時はさっぱり分からなかったが、長持ちして欲しいという願いと、少しばかりの見栄があった。


 僕は手元に戻ってきたカセットテープを、それでも、懐かしく聞いてみることにする。

 あの頃の僕が願った思いが滲み出るような選曲に、ちょっとだけ恥ずかしくなる。こんな曲入れてたっけ?

 音質は今聞いても、そう悪くなかった。

 懐かしい曲の中には、彼女のいなくなった後で、別の想い出と繋がった曲もあった。僕は、彼女とは別々の時を過ごしたのだし、正直、僕には、この曲を彼女がどんな気持ちで聞いてくれたのかも分からない。


 A面とB面、全ての曲を聞き終わった後に、少しばかり余ってしまった無音部分があった、はずだった。

 

「ありがとう。また会いたいね。」

 彼女の声だった。たったそれだけが、空きの部分に録音されていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっと!王道ですね! 空き部分に録音された彼女の声、カセットテープならではの発想にしびれます! まるで交換日記のようだ。さらに返事を録音して返せれば良いのだけれど、、、。 [気になる点]…
[一言] なんか勝手に彼女が死んでしまったのかなとか思ってしまいました。 カセットテープはメッセージを伝えるために返したのかな? こう言った一言が胸にジーンと来ますね。 心に染みます。
[良い点] 箱で戻ってきた、と書いてあったので、なにか不吉なことを連想してしまいました。爽やかな終わり方で良かった…… カセットテープは、その録音時間にぴったりと好みの曲数をどう収めるかが腕の見せ所、…
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