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楽園の星 おもかげの星

何を楽園とするのか、それぞれなんだろう。

けれど、ここは間違いなく楽園なんだ。

楽園であるように、この星の住人は努めている。可愛らしく賢い彼らの楽園。


何処か懐かしくて美しい黄昏色が広がっている。

遠浅の金色の海に小舟も人も染まる。まばゆくもあるのに、穏やかで優しく暖かい、この星そのもののような風景。

ノスタルジー。

幸せで、こんなにも綺麗な風景を見ているのに、ほんの少し切ないような気持ちになるのは何故なんだろう。

黄昏時間。眩しさの中、しばらくすると薄紅色が光に混ざる。

ここから先の、夜になっていく時間も好きなんだけどね。

あすこの丘の上で、じっと黄昏から夜になるまで見ているのだって素敵なんだろう。

僕は、楽しんでいる。列車から見ている景色を。列車に差し込む金色。濃い影。この時間の一部になって黄昏の時間の中に染まっていく。影絵の黒の部分。それ以外の黄昏の色。僕も、この影絵の一部になってるんだろう。


ここは、いつの時間だって美しい。

空気が透き通っていて、光に淀みがないんだ。

朝、昼の時間、黄昏、夕、そして夜。

その時が持つ美しさ。

おかえりなさいの場所でも。ただただ、ぼーっとして洗い流す場所でもいい。

誰かにとっての、いつかの、どこか、なにか、そういうのに触れるのかもしれないね。

ここがあるというだけで、僕は嬉しい。大丈夫って思えるんだ。


「次は、おもかげの星に停まります。」


この星に滞在してる間は銀河鉄道は特別なんだ。とっておきの、とびきりの観光列車になる。

銀河鉄道で周る路線は、ルートを変えて星を2周する。まず一周して駅についたら転車台で90度方向を変えて、もう一周。始発駅を起点として南北、東西のルートを周るコースなんだ。

それとは別に、この星の住人が使う在来路線もある。2両から4両の各駅止まりの列車なんだ。これを利用して、のんびり過ごすもよし。繁華街、宿場町にくりだすのも、お楽しみ。

いつもより永い滞在期間に胸が踊るよね。

まずは、と。


~やっぱり鉄道旅には、駅弁は欠かせないのです~

銀河鉄道の始発駅でもある、この駅の目玉は転車台と駅弁なんだ。

どちらも、思い切りに楽しみ。

僕は転車台を見たことがなかったし、それが動くのを見られるんだもの。

列車に乗ったままで角度が変わっていくのを体感するのも面白いんだろうなあ。

そんでもって、なんてたって駅弁!大好物の海の幸を、ふんだんに使った弁当なんだもの。

「お弁当は、いかがですか?」

良く通る可愛らしい声が聞こえてきた。待ちに待った声の主を見ると美人な白猫の弁当売りさんだった。僕より少し背が低い、人サイズの猫の人。

地球のイエネコが立つと驚くほど長かったりする。それは背が高いというより、こんなにも伸びるの?って。その思ったより長い体躯のイメージより、猫人さんは安定した体格というのかしら。しなやかなラインは残しつつ、二足歩行で歩くのに適応してるのかもしれない。

弁当売りの猫人さんは、しなやかな動きでに優雅に歩く。それが、艶めいたものっていうのかな色気があるなあと思った。実際、見とれているような、浮かっとした空気を感じるもの。

白く美しい毛並みは、とても手触りが良いんだろうなあ。

「ん?」

ぼんやり当たり前のように沸き起こる自分の考えに、はて?と引っかかる。

僕は、心の鍛錬の如き冷静に客観的に考えてみる。

大人の女性に、そんなことを考えるのは失礼なんじゃないかしら。

無垢な気持ちでなら違うんだろうか、いやはや悩ましくもある。

ぽっと、デリカシーという言葉を思い出した。

配慮、気配り、繊細であれ!

とともに、モラルもか。反省せねば。

そうなんだ。

僕の今まで持ち合わせている概念の塊を壊して、今一度見つめ直さねば。

だって、これからも色々な出会いがあるだろうし、もっと柔軟にならなくちゃ。

今までの経験による概念じゃ、全然足らないんだから。

そう、いろいろなんだ。それも、楽しみなんだから。

僕の常識だったものなんて、ちっぽけな知識の範疇でしかない。それでも、大事にしなくちゃいけない部分は忘れずに、けれど柔軟にってことだよね。うん。しなやかに、やわらかく。そうしたら、楽しいことは、もっともっと広がっていくんだ。


僕の葛藤が、お弁当を迷っている体になっていて助かる。

実際迷っているんだけれどもね。

だって、この星の飛び切りに新鮮で美味しい魚料理なんだもの。

焼き魚弁当に、お刺身弁当。

選択は、たった2つなんだけど、僕は、どちらも大好物なんだ。

あまりの悩み様に、笑いながら助け舟を出してくれた。

「次に、もう一方を頼んでみては?」

「確かに。」

はっとして、笑ってしまった。早速、柔軟性に欠けてるや。なんて、僕は。

ほら、一つに決めなきゃって、力が入りすぎてるじゃないか。やわらかくやわらかくだよ。どちらもってのもアリだろうし、すっかり忘れていたけれどもモクさんの分も買わなくちゃ。

つられて笑っている白猫さんの後ろから、ひょこっと顔を出す子がいた。猫人さんの子供かな。

可愛らしさに、僕は頬を緩ませる。お手伝いをしているんだろうけど、人見知りさんなのかな。

「お刺身は、ぷりぷりでオススメなの。焼き魚もね。ふっくら脂が乗ってて美味しいの。」

なんて、オススメ上手!

ああ、選べない。これは、どっちもだよ。

「両方、くださいっ。」

「お弁当と一緒にどうぞ。」

おずおずと、温かいお茶入れを渡してくれた。

「ありがとう。」

「あのう。」

なにか言いたげに、もじもじとしながら僕を見ている。

僕の毛のない皮膚が気になるみたいだ。

「気になるのなら、触ってみても大丈夫だよ。」

僕は手を差し出してみた。

僕の提案に反応して瞳はくりくりだし耳が立ってるし、この可愛さはどうしたものかしら。

ふわもこの手が僕の手の平に遠慮がちに触れる。ぽふっとね。僕とそう変わらない大きさかな。このサイズだと猫の手の感触を、しっかりと感じられるんだなあ。

そのまま頬に手が伸びる大胆さに少し驚いたけれど。好奇心が勝ったのかな。暖かくて、しっとりと柔らかいや。ちょっとくすぐったい。けど、ぬくもりが気持ちいい。柔らかい毛が、こちょばゆいや。

「すべすべ、つるんとしてて面白い。ちょっと、ぷにぷにしてるのね。」

「君のは、ふわっとしてて、柔らかくて、気持ちいい。感触が面白いね。」

「ね。」

お互い、くすくすと笑い合う。

「頭も触っていい、ですか?」

「どうぞ。」

ふわふわした手で頭を撫でられる。何だか色々こそばゆいや。

「ここは撫でると、つるつるっとしてるのね。さきっちょ、チクチクちょっと硬いの。面白い。」

「そっか。僕は、これが当たり前だけれど、君のふわっと柔らかくて艶々の毛と比べると、僕のは硬いよね。」

少し怖がりなのかな。恥ずかしがり屋だけど好奇心旺盛なんだろうな。

僕の中に在る同じ部分を感じるんだ。だから、ちょっと胸が、こそばゆいや。


さあ。美味しい駅弁も買ったし、思い切り楽しもう。

星をめぐるの旅の道中に、こんな玉手箱みたいな旅行時間があるなんて。

しかも、こんな飛び切りだなんて。


海を走ってゆくんだ。

透明な海、多彩な海色に、うっとりする。それにね。美しい遠浅の海に、水平線の向こうまでも敷かれたレールが続いていくんだもの。海の道さ。なんて面白いんだろう。幻想的で、見てみたかった景色がある。

ゆっくり、ゆっくり進んでいけ。

滑らかに滑っていくようでもあるし、列車が海を走っていく面白さに楽しくて仕方がないんだ。

何とも爽快綺麗で堪らないじゃないか。

なんせ列車が船になっているんだから。

もちろん、陸路もある。けど、大地は、この星では貴重なんだ。なんせ、海が占める面積が広い星だもの。

遠浅なんだから、海を走ればいいのさ。浅瀬の海に敷かれた線路の上を列車が走ってゆく。

波しぶきが優しい不思議。


陸路に変わる。疾走、快走、軽快、滑走、本領を発揮する。

銀河鉄道が駆け抜けていく。大地を走る音を聞く。震動が、さらに僕を高揚させるんだ。

僕は窓を開けて風を楽しむ。非常識だと思うかい?

僕は改めて、機関車に乗っている事を実感する。体感する。

音と風が、気持ちいい。

視界を遮らない摩訶不思議。

僕は、銀河鉄道の動力源が何かは解ってはいないけれど、勝手に想像して楽しんでもいる。力強く走る鉄道から出るモクモクとした煙は、窓から中に入ることはなく視界を遮ることもない。たなびいて、空へ馴染んで消えていく。銀河鉄道の不思議の一つじゃないかしら。


豊かな畑から、手を振っている人が見える。

車窓からの幸せの構図。


~とっておきに呼ばれて~

宿泊施設に泊まらず、僕は列車に残った。

車掌さんの、

「とっておきの場所があるのです。」

チャーミングな笑顔に誘われた。だって、それはもう、間違いないから。

乗客の殆どが降車し列車は走り出す。


銀河鉄道乗務員さんと馴染みさんの「とっておき」

こっそりのような、ワクワク

待っていたのは秘密のお楽しみ

そこは、ぽつんと海の真ん中にあるホーム


海の上の温泉

月の道が良く見える。

桃のサイダー

ピンクのシュワシュワ

桃の蜜酒

こっくりと丸やかなお酒 とろりと喉を流れていく。

月も香る夜

ほんのり涼しい風が僕を通り過ぎていく。


甘露

きれいな月

薫る月 夜の匂い 海の香


「良い晩ですなあ。」

「本当に。」

風が気持ちいい。ああ、本当に、月が綺麗だ。

僕はね、ホームから線路に降りる背徳感やらワクワクやらスリルやらで頭がいっぱい興奮のるつぼで舞い上がってる上から、ひんやり足にしみる海の温度と線路の感触を味わったのだけれども。

そりゃあ、格別だもの。

線路から温泉に入るのもまた一興でもあるし、不思議が僕を舞い上がらせる。でもまあ、良いウカウカだよね。

線路には貝の一つも付いていない。しかれてる線路の石バラストにもね。

なのに、温泉の浴槽の外壁にはフジツボやら岩場の貝が、きっちりがっちり張り付いてるし、温泉の温かさの恩恵か魚も集まっている。

海の法則と、不思議の境界線が見えて面白いや。

年齢も姿形も関係なく、みんながみんな同じ入浴着を着て温泉に入ってる。愉快で、爽快、フルーツポンチみたいな時間。


空を見ながら眠るんだ。満天の星に海の音。

窓を開けて、風が通るのを味わう。

僕は、うっとりするほど美しい楽しい夜に、

にんまりしてしまう。

しあわせかい?しあわせですよ。

極上に、ごきげんな夜だもの。

とびきりに美しい夜だもの。

海の上の小さな駅。

月の道に誘われてしまいそう。


あなたが歩くのは、歩くとしたらば、

月の道ですか?太陽の道ですか?

僕は、月の道だと思うんだ。

太陽は僕には強すぎるんだ。うん。

朝日は、力に溢れていて眩しすぎるんだ。

でも夕陽なら。

あの時間は見ていたいと思う。何度でも。ずっとでも。

そうだねえ。

昼から夜に変わっていく狭間の時間

昼と夜の境目

色が変わっていくでしょう?

綺麗で面白いんだ。

色は、いろいろだし

深い色に変わっていく空の変様

色の変わりようも色の入り方も面白くて仕方ないんだ。

好きな色が見ることが出来るから

そうそう、雲も華を添えるんだ。

太陽が沈んでから、ぽっと赤が一瞬浮かぶ、そういうのも面白いんだ。


月を探す

東の空に大きく見える様を見たくて、探すんだ。

僕はね。

西に沈んでいく月が、あんなにも面白いなんて知らなかった。


月の道

物の道理は解っていても、不思議に思うし魅力的なのさ。

だってさ。見えていない部分にも形があって、

冷たいほどの熱すぎるほどの岩の塊だと言われても

なんともまろやかに丸かったりするし、黄色だし。

月の石って言ったらさ、そりゃもう宝石のようじゃないか

そんな美しいもの、見たいじゃないか


海の上の朝は、どんなだろう。

日が昇るところが見たくて、わくわくする。

それにね。

朝になったら、美味しい朝ごはんが待ってるんだ。

「朝日が昇るのを見ながら食べましょう。」

誘い上手なんだから。ほらもう、そわそわしてしまうくらい朝がくるのが楽しみ。


朝の色に染まる海

光の道がホームまで伸びている

このまま歩いていけてしまいそう。

案外そうかもしれない。摩訶不思議な事は、あるのだから。


綺麗だと思うのに、空は大好きなのに、

太陽の光に負けてしまうことがあったんだ。

僕には力が強すぎて。

恩恵に預かるよりも参ってしまうなんて不思議なことだけれど。

人には、太陽の時間と月の時間があるんだろうか。

今は、僕にも太陽の時間が来たみたいで嬉しく思うんだ。

だって、こんなに気持ちが良い。

ちゃんと、暖かいのを受け止めて染み込んでいくのが解るもの。

太陽の時間も月の時間も楽しめる。なんて贅沢な事だろう。

なんて素敵なことだろう。


~坊やの大好きなおじさん~

出会いがあったんだ。

僕にとって、この星と同じように大事なね。


よし。出発するまで時間は、たっぷりあるし買い出しに行こう。

こういうのも良いよね。何を食べようかって楽しく悩むんだ。宝探しみたいに美味しい物を探すんだ。土地の食べ物もいいし、何にしよう。

見て楽しい、考えて楽しい。何にしよう、どうしようで悩むのは楽しいね。

何にしようって選ぶこと、悩むことって手放しちゃいけない。いい加減にしちゃいけない。

だって、それは、とってもとっても楽しいことだからさ。

そしてそれは、自分を手放さないことにもなるんだよ?

楽しむ素敵なスキルでもあるのさ。時間やら人生やら色々楽しむためのね。

面倒くさいで済ませていたら、もったいない。じゃ、済まなくて途方に暮れることもあるのだから。

あけぼの商店街か。どこか懐かしいような響きに誘われて、楽しい予感がする。


商店街を入って早々に、あれやこれ目移りしているところに、白猫さん親子と会った。

「こんばんは。」

「あら、お客さん。こんばんは。今夜は、この街に泊まるのかしら?」

「いえ。宿には泊まらないので、夕食を買い出ししようと思って。」

「そうなのね。ここの商店街、お店が沢山あるから、また迷ってしまいますね。お惣菜でも、何でも選び放題ですもの。」

「そうなんです。だから、楽しくて。」

「じゃあ、迷わせついでに。お弁当のお刺身、おじがやっている魚屋のものなんです。すぐそこなので、もし良かったら。」

「それは、惹かれるなあ。」

「でしょう?」

チャーミングな笑顔に、僕もニッコリしてしまう。

白猫さんは、やっぱり魅力的なのだ。

「こっち。」

坊やに手を引かれ僕には少々早すぎる足取りに、あくせくしながら付いていく。

思いの外、いや猫人さんだからの身軽さなんだろうな。

魚屋の店先に、おじさんらしい猫人さんが立っていた。

「お。来たか。」

坊やが駆け寄って、勢いよくじゃーんぷ。

猫の身体能力のままに軽やかに跳ね上がり、ぽふっと大きなふっくらとした体にしがみつく。

なんか良いな。微笑ましい光景だもの。それに、とってもとっても気持ちよさそうなんだもの。

ふっくら、ふかふか気持ちよさそう。

いいな。僕も、ぽふってしてみたい。

「良いぞ、こい。」

にかっと頼もしい笑顔で、手招きされる。

わかりやすいほどに、そのまま顔に出てたんだろうな。僕は素直に、そして、遠慮せず飛びつく。

とはいえ、握力とかジャンプ力は人並なので。

思いっきりに、ぽふっと顔を埋めたという感じかな。ふっくらふわふわ温かくて気持ちいい。安心する。

「どうだ。満足したか?」

大きい手で、わしゃわしゃと頭を撫でられた。

力強い温かい手。嬉しいのと、照れくささに、こそばゆい気持ちが混ざったようなを、どう上手く言ったらいいのか解らないけれど。


甘えること、か。こんなふうに身を委ねてるなんて僕も驚いてるくらいさ。こんなに無防備に体も心も預けることなんて、いつぶりだろうと思ったんだ。むしろ、出来ていたことがあったかなって。

少し泣きそうになった。あたたかくてあたたかくて、堪らなくなった。

「大概のもんよりは、長く生きてるし。おいからみたら、まだまだ子供だに。

いつでも、こい。ど~んと受け止めてやるからに。」

そう言って、にかっと笑うおじさんは頼もしくて優しくてあったかくて。

僕は、やっぱり、うるってしてしまうのを止められなかった。


「お前さんは、上手に甘えることが出来なかったんだなあ。

甘え方がわからんってのは、やるせないこともあったろう。」

僕は、特別な何かをして欲しいわけじゃなく。

そう。何かを貰いたいわけじゃなく、ただこういう風に暖かいので十分だったんだ。十分なんだって知った。それが欲しかったんだなあ。

暖かいのが良い。暖かいのは良いよね。

心が、暖かくなるの。

体が暖かいのは良いね。

ほぐれていく、柔らかくなってさ幸せな気持ち。

ほっとする。

そう。体の力が自然に抜ける心地よさなんだ。

いつもどこかにある、泣きたくなる気持ちっていうのがあるんだよ。

隠してるわけじゃないんだけど、しまってるわけでもなくてさ。

ぽっと出てきたりしちゃうんだ。だから、仕方ないよね。

じんわりぽろっと少ししたけれど、それより暖かくて嬉しい気持ちが勝ったみたいだ。

名残惜しいけれど、行かなくちゃ。


「ありがとうございます。」

「かしこまりなさんな。本当に、いつでも来ればいい。」


僕は、本当に何度も訪ねて話をしたり、

とうとう大泣きして困らせることもあったけどね。

でも、いつでもどーんと受け止めてくれるあたたかくて大きい、この広い心の持ち主に会えてよかった。


見透かされているんだ。思ってる以上にね。

長く生きている。これもまた思ってる以上に。

達観とも言えるのかな。でもね。もっともっと違うなにかなんだ。

僕の何かを説明だの語ったわけでもないのに、察してくれたことが嬉しかったんだ。

寄り添うように。それでいて優しい距離感を持っている。

共感。心地よい空気感、気配とかね、慈しむ心、慈愛とか、そういう暖かいもの。

甘やかしとは違うんだ。だから、ときには、きちんと怒ってくれる。


お前さんは、ここの気質にあってるんだなあ。

ここに住んでしまえばいいとも思うんだがなあ。


さあ、買い出しに出発しよう。

おじさんの店から出て、賑わう商店街を軽やかに気持ちよく進んでいく。ここは、懐かしい気配がする。溢れている匂いだとか音もそう、活気やらね。

不思議と疎外感は感じないんだ。居心地が良いんだ。楽しいや。

ここは幸せで溢れた空間なんだろうな。生活音で溢れてる。店から流れる音楽。掛け声。歩いてる人の話し声。それにね、いろんな美味しい匂いがする。にぎやかに雑踏で溢れてる。なのに、なんだか心地よい。

わちゃわちゃするほど明るい気配で溢れてる。

そうだね。笑顔で溢れる場所だのに、自分が混じり合えないと、ここにはいられないと、逃げ出すように速歩きした時もある。そう感じてしまう自分が悲しくて、苦しかったな。音が僕に刺さるんだ。それは誰かの幸せの音なのかもしれないけれど。広いはずの空間が窮屈になっていく、息も苦しくなる程に。

それもまた、思い出。そして、今の僕に至る大事な欠片。だから、時折、僕を、きゅっとさせるけど無くしたりしないんだ。


どこからか、いい匂いが流れてくる。香りと一緒に思い出が蘇ってきた。

50、60円位だったかな。お肉屋さんの出来たてコロッケを食べながら買い物をしたっけ。

100円のヒーローソーセージと、その場で食べられるコロッケで悩んだりもしたなあ。大概、母さんと食べ歩きができる方を選んでた。美味しくって嬉しいからね。

ああ。懐かしくて、どうしようもないや。

僕は、食べて歩く分の1個は、ちゃんと別にしてもらって、しこたまコロッケを買った。みんなと食べるコロッケも、とびきりに美味しいはずだから。そうそう。この星の新鮮な魚のフライも忘れずに。サクサクふっくらアジフライ、それを思い出してしまったからね。


~兄弟星~

二つ星、つかず離れず並ぶ星

私達は忘れない。

教訓とし、生きていく。


星間こそ離れているけれど、交流が深く兄弟星と呼ばれていた。


どちらの星も各々の形での、ある種の一つの完成形と言っても良いかもしれない。

選んだ道筋は違えどもね。

科学が進歩し、自然とのバランスが極められた。科学と自然の調和の取れた環境により、食物は豊かだ。高度な文化水準。貧富の差がない。飢えることがなく、富む必要もないのだ。

需要と供給のバランス。

人口と自然との共存バランス。

高度な文化水準。思考。


物の価値が目まぐるしく動く、物の流れ金の流れ。

富むもの、そうでないもの。格差。富裕層なんて言葉、なんじゃそら。

富んでるものほど得られる世情が変なんじゃろうに。

平らにすればいいってことじゃない。それは解っている。

けれどもさ、気持ち悪いもんがあるのさ。


人それぞれ、能力、できることには差があるし、小さな差は出るだろう。

私は私で良いじゃないって話。君は君ってね。

放っておくか、知らんぷりしてくれ。

上だの下だの、己は偉いだの、そういうのがいらんちゅうだけさね。

位置づけで自分で自分を追い詰めて苦しむのも、よろしくないんだろう。

比べるってのは時には猛毒なんだろうね。

「私と、あなたは違う。」

ただ、それだけのこと。アタリマエのことなのに。

ひとはひと。自分は自分って言うくせに、意識のどこかに置き忘れてしまうのは何故だろう。

やっぱり、気持ち悪いもんがあるのさ。


星の技術を欲するものがいた。どれだけの価値や利益があるかと算段するものも。

己のものじゃない他者の物を、己のもののように算段するとは何事かっちゅう話じゃな。

資源。たしかに挙げられる資源、見込まれる資源は計り知れない。

最たるは、知識という資源。

この星こそが宝。

環境を整えることは星の寿命を伸ばすことだと、他の星にも喜んで教えた。

けれど、欲しがったのは完成された星そのもの。

安易に欲しがる彼らは解らないのさ。

精神、心まで至らなければ、この星の本当の価値など解るはずもないのだ。


兄弟星。どちらの星も、今はいない。


~三つ巴 堂々めぐり 道々めぐりのみちしるべ~

僕は、また悩む。もくさんのの分、僕の分。

今度は、ちゃんと、もくさんにも希望を聞いてっと。

うん決めた。

3つ、いや4つ?3つ!

しっかり、お弁当を買ったことだし、安心満足して発車時間を待っていた。

時間があるので、お弁当売りさん親子と会話を楽しむ。

お弁当は、早々に完売してしまったしね。


「はあはあ。間に合った。お酒が過ぎて、乗り遅れるとこだった。

あいやー。弁当買いそびれてしまった。あいたたた。」

慌ただしく乗り込んできたのは、ビーバーのようでもあり大きいジリスのような人だった。

「こりゃあ、困ったことになったもんだ。そうですか。完売。完売…。」

息が荒い。汗を拭くためか、タオルを取り出す。汗、かくんだなあ。

コートのポケットから、葉っぱが落ちた。瑞々しく綺麗な青い色の葉だった。

なんと表現したものかしら。葉の色が、こんなにも空の青、海の青、深く鮮やかな青だなんて見たことないや。

光沢があって、透き通っている。なんて綺麗なのかしら。

こんなの見たことないや。面白い。

「落ちましたよ。」

「どうも、どうも。バタバタして。」

葉が大雑把にポケットにしまわれるのを、ちょっと残念に思いつつ、更に僕は名残惜しそうに見てしまう。

まだ落ち着いていないせいか、お弁当が気になってるのか、僕に気付いていない様で良かった。

余計なお世話かもしれないけれど声を掛けてみることにする。

「お弁当、余分に買ったので、もし良かったら

「なんですとっ。」

食いつくような詰め寄りに、少々面食らいつつ、

「渡りに船。ぜひとも。」

本当に買いたかったんだな。

「お代は星貨で?それとも、一応持ち合わせのものがあるので、これとこれ。これもあるな。どうでしょう。」

「いや、あの。


声を掛けておいてなんだけれども、流れの速さに追いつけないでいるんです。

僕の持ち合わせていないテンポの速さなんだもの。

「商人たるもの、見合った対価でなくては流儀に反するのです。」

先程までと違い真剣な面持ちだった。迫力といい、受け流してはいけない雰囲気を感じた。

僕も、きちんと受け止めて答えなきゃ。

「なら、僕は、さっきの葉っぱがほしいです。」

「落ちてた葉っぱに、そんな価値があるかね。」

「僕にとっては、とても。」

とても、に僕は心を込める。

「宝物になると思うんです。こんな綺麗な色の青の葉なんて、初めてだもの。」

僕は、一呼吸あけて、さらに気持ちを込めて言う。

「僕は、これが良いんです。」

商人さんにも伝わったのかな。少し間があったんだ。

「そうですか。なら遠慮なく。それじゃあ、これで。」

「3枚とも、貰って良いんですか?」

「そう喜ばれると何ともはや。」

「ええ。とびきりに嬉しいです。こうしてみたくて。」


僕は、早速頭に浮かんだことを実行してみた。

僕の日記兼メモ本に一枚を挟んでみた。にっこりにんまりしてしまう。

「ほら、やっぱりだ。しおりにしたら、なんて素敵なんだろうって思ってたんだ。」

すると、葉が僕の言葉に反応したみたい。ぴしっと張りが出て、さらに青が透明度を増してステンドガラスのよう。なのに。みずみずしい葉のしなやかさを持ってるなんて。

「うわあ、綺麗。いつでも、ご機嫌になれちゃいそう。とっておきの本になる。うん。なんてったって、読書が、とびきりの時間になるもの。」

「なんとまあ、葉っぱが自分から背筋を伸ばすなんざ初めて見た。こりゃ、驚いた。」

しなやかさがあって、折れたりしないとこも良い。

「綺麗。僕も何か交換できるものがあったら、青い葉っぱ貰えますか?」

くりんと目を輝かせて、僕を見る。

「欲しいっていうだけでいいんじゃないですかね。」

「うん。僕も、そう思うよ。一枚どうぞ。」

「でも。」

「君と僕とは、ちょっと似てるとこがあるって思うんだ。

同じ物を見て、綺麗って特別っておもってくれてるのは、とっても嬉しいことなんだよ。同じ価値観の共有ってのは、嬉しくて良いもんだからね。

ほら、僕は、もう貰ってる。」

「でも。」と続ける。

「あ、そうだ。これでどうでしょう。お茶の葉なの。」

リボンの付いたお茶の袋だった。

「お弁当に付いてる美味しいお茶だね。これ、僕は凄く嬉しい。けど、今度は僕が貰い過ぎになっちゃう。」

「それを言うなら、わたしのほうですよ。」

「堂々巡りに、なっちゃいますね。」

3人顔を合わせて笑ってしまった。

「遠慮なく交換しましょうか。」

「そうしましょう。そうしましょう。」


この綺麗な青い葉っぱは僕の宝物になった。

あの人と同じ不思議は起きなかったけれど、いつまでも変わらず色褪せることなく、みずみずしさを感じられる青い葉っぱは、それだけでも不思議で面白い。見飽きることなんてない綺麗な青色に、うっとりするもの。つるつるすべすべなとこも良い。

ある時、タイミングが来たら。あるいは、僕が何か至ったら不思議が起きたりするのかしら。


物の価値ってのは、なんなんでしょうなあ。改めて考えさせれましたわ。

たかが昔馴染みの木の落ち葉3枚。懐かしさにポケットに入れたまんま忘れてた葉っぱさな。されど誰かからしちゃあ宝。

葉っぱにも意志があるとは。目の前で見たとはいえ、いやはや。ウロコもウロコ。

たかが、葉っぱ。落ちてた他愛もない葉っぱ。あたしが触ったって、葉っぱは葉っぱだったものさね。


儲けるためのあれやこれ、算段があるにせよ釣り合いってのは間違っちゃあいけない。

貰い過ぎも貰わなすぎも物の価値の天秤によろしくないこともある。

商売人としての流儀だとか心意気もあるもんでね。

あこぎなことはしないようには心がけちゃあいる。

それにまあ、そんなことしたら乗れなくなっちまうってのもあるんでさ。

商売の儲けばかり考えてきたもんだが、品物とはいえ意思があるのかもしれない。

それに気づいた商売人は、どうしたらいいもんですかね。

物が行きたい相手ってのがあるんだと。

お客さんが望むものとの、その折り合い。

手に渡ったお客さんによっちゃあ、物が喜ぶのか。

ううむ。縁。つなぐ。旅渡りの物売りだからこそできることもある。

なんとも愉快な悩みが増えたもんだ。


~とっておきは、続くのです~

最後に。行きますよ。さあ。

僕は、またもや車掌さんの笑顔に呼ばれることになる。

まだまだ、とっておきがあるなんて。

銀河鉄道が、海の中へ突き進んでいくなんて。

列車の線路が海中に敷かれているなんて。こんなことって。

どこまで僕をワクワクさせたら気が済むんだろう。

窓から見える景色は、うっとりするほどに、とびきりの青の中を走っていくのだもの。

海中を走る列車なんて。

それにね。

この星は、どこもかしこも。


視界いっぱいの青と命。こんな綺麗なものを見ていると海もまた宇宙のようだななんて、のんきに思ってみたりもする。こんなふうに思わせてくれることが嬉しい。


離れがたくなる絶妙な時間て、どのくらいだろう。

車掌さんは言う。

「特別な場所だからこそなんです。

離れがたくなるその前に。離れなくては。」

でも。離れがたくなったら、そこが帰る場所になるんだろう。

ここは、車掌さんの帰る場所なのかもしれない。

そうだなあ、僕も、ここには何度だって帰ってきたい。

車掌さんの離れがたくなる思いとは違うんだろうけれど。

美しい場所。

どこか懐かしくって、愛おしい。

そういう星。


~旅立つ者の心得~

覚悟がいるんだ。

僕らが星を出るときには、往復の切符を渡される。

帰る手段は、この銀河鉄道だけだからね。

そこにあるとは、限らない。

そう。知っているのは、銀河鉄道のみなんだ。

外は無限に広がってるし、知識や技術を星に持ってかえるのもいい。

道は、ひらかれている。無限にね。

ただし反する思いがあるのなら、はじかれる。

それにね。無限の中の一点を探すなんて事になったら、どう思う?

銀河鉄道は、架け橋であり道標。だけれども、門でもあるんだろう。

どこまでも広がる思いはあるけれど、きゅっと持ってないといけないんだ。


星の船。月の時計。

星と引き合う二つ月

ジャイロの内側

星の鼓動

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