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僕の旅の始まり

~~旧しょうがはら駅行き

宿の御主人に行き方を聞いたところ、廃駅前の宿まで最寄り駅からバスが出ているとのこと。

「駅からバス乗り場の案内が出ておりますから、案内板の通りに進んでください。そうすれば大丈夫です。」

大丈夫=解りやすい、簡単、万事OKとは限らないと僕は知っていながら、納得、安心してしまうのだ。

とはいえ、初めての駅は、少し緊張するんだ。何が何処にあるのか解ってないっていうのは、なかなかに不安だもの。早く着いておいてよかった。僕が思っていたより、大きなバスターミナルだったから。

幾つもの行先があるんだ。事前にバス乗り場の番号は聞いていたし、てっきり乗り場は駅前にあるのかと思っていたら、そうじゃなかった。街を循環するバスと違って、僕の行こうとしてるような山間方面や遠距離のものは乗り場が違うらしい。案内板を見ながら、上へ下へ。何かの建物の通路を通って、また案内板を確認しながら向かう。近づいているのか不安になりもする。もっと、近道もあるんじゃないかしら?と思いつつも「案内板の通りに進めば大丈夫」という言葉を信じて進む。


「そうですそうです。順路が大事なのです。今回は、ね。」

「楽しみですね。やっと会えるんですもの。」

それはさながら、条件をクリアし扉へ通じる道へと近づいていくミッション、あるいは幾つもの鍵の付いた扉を開ける作業のようでもある。

一度目は君のための条件が整っていたのだから、開けるだけでよかったんだ。

そうしなかった君の為に今回は、みんなで君が辿り着けるよう導こう。


大型のバスが並ぶ乗り場の隙間に、ちょこんとレトロで小さなバスが停まっていた。デザインが格好良いなと思いつつも、本当にこれで合ってるのかしらとの不安もあり、僕はバスの行先標を前面と側面ともに確認してから乗り込んだ。目的地がバスの終点なのが僕としては安心要素の一つだったりする。

「ご乗車ありがとうございます。」

にこやかにバスの運転手さんが挨拶をしてくれた。

「お願いします。」

内装に驚いた。使い込まれた、本当に昔のバスなんだ。このバスは昔の路面電車のような趣きがあり、懐かしいようにも新鮮なようにも感じる。思いの外、ふっかりとしたシートで座り心地が良い。始発でありながら僕しか載っていないのには不安を感じるけれど、贅沢でもある。

「道中、揺れますので御注意ください。」

スピードが出ないところが、ちょうどいい。バスに揺られながら、外の景色を楽しむ。街並みが減り、緑が増えていく。バスは、しばらく何処も停留所に止まらず走って行った。

いつの間にか僕は眠ってしまったらしい。ぱっと目が覚めて外を見ると緑の深い所を走っていた。

さっぱり何処か解らないのではあるけれど、乗るに任せて行けばいいんだもの。ここはどこ?の不安はさておき、大丈夫と思うことにする。

揺れが気持ちいいからか、すぐにウトウトしてしまう。初めての場所なのだから、いつもならワクワクしながら外の景色を堪能してるはずなんだけど、どうにもならないや。

停留所の案内の音が意識の遠くに聞こえる。バスが停まったり、乗り降りした人もいたかもしれない。

時折、話し声が聞こえたり気配を感じていたのだけれど、なんだか眠くて仕方がない。しっかり目が冷めた頃には、バスは山を登っていた。そこから終点まで、すぐだったから僕は相当寝てしまったらしい。

「終点、旧しょうがはら駅前」

「ご乗車ありがとうございました。」

「ありがとうございます。」

と、運転手さんに声を掛けてバスから降りる。まずは、一息。周りの景色を見てみる。ここら一帯だけ、ぽっかりと拓けていて下の町並みが良く見える。ここは下の駅からは全く見えなかったし、バスに長い時間を乗っていたように思うのだけど案外近かったのかな。

確認がてら、バス停の前に建っている今夜泊まる予定の宿を、ちらっとみる。

宿は、やっているのかしら?と思わずにいられない風貌だった。

壁肌が傷んで所々しみがあるし、宿の看板の文字が読めない。アルミサッシの入り口を覗いてみたけれど、中が暗いのかガラスが曇りすぎているのか、全く奥が見えないんだ。

僕は、いったん悩ましい宿を素通りして廃駅に向かう。

バスを降りた時から思ってたけど、星祭りは今日なのに準備をしている気配がない。

まだ準備が始まってないだけなのかな。おかげで駅をじっくり堪能できるのだもの。それはそれで、よし。


コンクリートと石積みで作られたホームは、昔の列車の歴史を感じる。思ってたより、ホームって、あまり高くないんだな。

線路跡やら昔の痕跡を探してみる。ここを走ってた列車の昔の気配や時間の経過、そういったものを勝手に想像してるだけなのだけど、なんでこんなにワクワクするんだろう。胸が躍る。本来なら雑草に埋もれて駅の場所すら解らない、そんなこともあるだろう。けれど、ここは誰か手入れをしてくれてる。それが、有り難く嬉しい。大事にされてる場所なんだな。

ホームに上ってみる。ここから見える空は広いや。山の中ぽっかり拓けてる空間に、今は僕しかいない。寂しいような勿体ない気もするけど、なんだか愛おしい。

「よし、行くかな。」

よし、と言っておいてなんだけど。先程までのワクワクから不安へ向かう気持ちを、どうしたものか。まあ、宿は駅の真ん前な訳で。しばし、見えないのは確認済みなのに覗きこんだりと、僕の怖がりが顔を出す。そんな事してても仕方ないと、カラカラとアルミサッシの扉を開けると、

「いらっしゃいませ。」

優しい笑顔の御夫婦が迎えてくれた。勝手に不安がってたのは、なんだったんだろう。

僕が覗いていたりの始終が見えてたのかと思うと恥ずかしい。とても恥ずかしい。


宿の中は木造の洋風建築で、和と洋が調和している。外の外観からは想像できないモダンとかハイカラという言葉が似合う内装だった。それに、趣味が良くて、おしゃれなんだ。大事に使い込まれて歳月とともに味が出てきた風合いの家具が置かれている。こういうのが良い。こうやって、僕とともにアンティークになっていく物達に囲まれて生活するっていうのに憧れる。静けさの中にカチカチと定期的に時を刻む音がする。外と内とで、こんなにも違うことはスパーンと頭から飛んでしまった。心が躍る方が勝ってしまっていたもの。

御夫婦で作った空間だからかな。人柄が出てるというのかしら。

可愛いものが紛れてるのが面白い。ここは、愛着を感じるもので溢れてる。

木製の動物の人形や、おもちゃの車が年代物の洒落た家具に収まっている。

ああ、ここは落ち着く、居心地がいい。

案内された部屋には、興奮してしまうほど素晴らしいものがあった。僕には贅沢すぎる。

洋室に置かれているアンティークの書斎机に、僕は暫く見とれてしまった。艶の出た木肌、色、これも年月が醸したもの。そして、美しい形。猫脚の曲線も素晴らしい。

機能美。美しい形とデザイン。

まだ時間は、たっぷりある。宿の中には、心躍るもの楽しめるものが、まだまだありそう。なので。探検してみよう。

御主人は快く了承してくれた上に、宿の中を案内してくれた。御主人は、ことのほか案内上手だった。

話し上手で聞き上手。絶妙な距離感。欲しいときにだけ説明をくれ、適度に放っておいてくれる。なので、申し訳ないほど気兼ねなく存分に楽しんでしまった。宿の仕事があるかもしれないのに、僕に時間を割いてていいのだろうかと思いつつも。

たっぷり楽しんで、お腹を空かせた僕は、女将さんの心づくしの夕食を堪能した。


~星祭り~

食事を済ませ、星祭り会場へ御夫婦とともに向かう。

外灯も殆どない場所だからなのだろうか、案内状にランタンを持参するように書かれていた。

飛ばす用ではなく、手元を明るくするための照明用のものを。

ランタンがドレスコートなんて、心くすぐる演出だと思った。

廃駅、暗い、ランタン。

外へ出て、僕は感嘆する。想像を遥かに超えて素晴らしい光景だった。

昼間の閑散とした広場が、今は光で溢れている。


廃駅に向かって登ってくる人のランタンで、光の道ができている。バスが走っていた道以外にも、ここに来る道があるみたい。眼下の森の中からもポツポツと光が溢れてる。直線と蛇行の線が、美しい絵を描く。荘厳ですらある。閑散としていた昼間の様子からは、想像できないほどの光の数に僕は驚いていた。

こんなに沢山の人が集まるとは思っていなかったから。

かつて駅前の広場だった場所に、沢山の人が集まっていた。明るい光と賑わい。活気に溢れている。


「まさか、こんなに人が集まるなんて思いませんでした。」

正直に言葉に出しすぎてしまったかな。

「昼は閑散としてるものね。本当のことだもの。」

「この駅が活躍してたときは、こんな風に星が見えないぐらい明るかったんだよ。星を忘れるほどにね。」

「信じられないでしょう?駅前の商店街は繁盛していて、何軒も店があったのよ。人も沢山住んでいたの。とても賑わっていて。そうね、本当に星空を忘れるくらい活気も光も溢れていたのよ。」

どれほど明るかったんだろう。ここに、人が沢山住んでいて生活してたのか。

僕は想像してみる。

賑わう駅。舗装された道。宿、広場、商店街。

「駅が閉じることが決まって、人が減る毎に夜空の光が戻ってきて星の明るさを思い出したの。」

「人がいなくなった土地は、想像以上の速さで森に還っていくからね。」

僕が森だと思っていたところは、かつては人が住んでいて。でも、今は商店街や住居の面影はないし、全く感じない。なんて感慨深さと不思議。こんなにも人の気配って、跡形も呆気なく消えてしまうんだなあ。

「駅舎と道が残ってることで、この場所を忘れずにすむの。」


「久しぶりだな。」

「おお。お前も来たか。」

「懐かしいな。元気か。」

そんな声が耳に入ってくる。

ここを離れた人たちなのかもしれない。懐かしい再会に涌いている。

声を掛け合ってる人、肩を抱き合ってる人もいる。

沢山の人達の思いのある場所に僕はいるんだなあ。

そう思うと、感慨深い=しみじみ深く湧く思いがある。

この場所は、僕にとっても特別になるのかもしれない予感があるのだもの。


ここは、明るい。でも、眩しくはない、優しいような暖かい光。

でもね。この一角から離れると闇が近い感じ。

昔の盆踊り。お祭りみたい。

子供の頃を、ふと思い出した。

今より、夜の街は静かで暗かったから、お祭り会場の明るさが際立ってたっけ。

楽しみなんだけど道中が怖くて、着くとホッとしたんだ。

音がするけど場所がわからないときは周りを見て、光を探した。

明るいところが、祭りのやってるところだって思ったもの。

僕の怖がりが、より夜の暗さを感じさせてたのかもしれないのだけど。


「時間ね。」

ざわめきが止んだ。

ランタンが消されていく。不思議なことに眼下の街の灯も消えていくように、暗がりが広がっていくんだ。

さっきまで、ぼんやりだった空が鮮明になっていき、星の輝きが増していく。強くなっていく。

そして、満天の星が広がった。溜息のような、歓声があがる。

星の光が、こんなに明るいなんて僕は知らなかった。

綺麗なのに、少し怖いと思ってしまう。こんなに沢山の星の先の、宇宙の可能性を感じてしまうから。

一人で、いたなら怖気づいてしまったかもしれない。

それ以上に今見えている星空が美しくて、この空の下に、いられることが堪らなく嬉しい。

天の川が、こんなにも鮮明に見えるなんて。

川、道、橋、線路のようにも見える。想像が掻き立てられられる星空なんだ。

「銀河鉄道が走るのなら、こんな夜空なんだろうな。」

口に出して言ってしまった。

奥さんは、にっこりしたけれど僕を笑わなかった。


そう、僕は、あの音を聞いたことがある。

銀河鉄道の汽笛が聞こえた夜の話をした。

「乗ってみたいなら、行ってみればいいのよ?」

「え?」

ぽんと押されると、ホームにいた。

目の前には、ピカピカ輝く黒の宝石のような機関車。

スチーム。機械音。この音!

準備万端、今にも発車できる状態だってわかる。

僕が見たかったものが、ここにある。


「車掌さんに、あなたの荷物を渡してあるから受け取ってね。」

「え?」

「まもなく、発車します。」

と言うアナウンスが僕を後押しする。

「ほら。行って。」

考える間もなく、流されるまま流動的に僕は足を進める。ううん。これは、僕の意思。あの時を、取り戻せるチャンスなんだから。だって、ほら僕は今高揚してる。石橋を叩いたりなんかしない。

列車に乗り込み、振り返る。

程なくして、扉が閉まる。タイミングを図ったみたいに。

奥さんが僕に手を振りながら、もう片方は胸を指している。

目線を自分の胸に向けると、切符入れを首に下げていた。

僕の乗車券だ!

「楽しんでらっしゃい。良い旅を。」

「ボン・ボヤージュ」

二人が手を振ってくれている。僕も二人に手を振る。

「行ってきます。」

僕の旅が始まるんだ。止まってた時間が動き出すかのよう。


列車が、スピードを上げていく。駆け抜けていく。駆け上がっていく。

今、見えている景色を僕は忘れない。

地を離れて、空から宇宙に。

こんな摩訶不思議が起きているのに、大地から住んでいた星から離れていくのに、怖いとか寂しいとか不思議と思わなかった。

近場でも帰れないかもしれないと想像して怖がる僕を知っている。だから、これは、僕の不思議。


「軌道に入りましたね。さあ、こちらへ。御案内します。」

僕を待ってくれていたみたい。

案内されたのは寝台席の車両だった。そして、ある扉の前に立つ。

「本当に僕の席なんですか?」

聞かずにはいられなかった。

だって、そこは個室だったから。ベットに、小さなテーブルがある。

そして、大きな車窓。これを、独り占めできるの?

乗れるだけで凄いことなのに、寝台室なんて。

状況が把握できてない以上、僕は委ねるしかない。とはいえ、対価となるお金を出してもいないし、

「もちろん、お客様の席ですよ。さあ、中へ。」

これは、憧れの個室。

促されるまま、素直に入る。 

「まず、お預かりしている荷物になります。」

見たことのない肩掛けカバンと、コートだった。

「これ、僕のじゃないと思うんですが。」

「いえいえ、お客様の物ですよ。女将さんから、きちんと伺っております。

こちらに、手紙も預かっていますよ。」

宿の女将さんからだ。

「まずは、こちらのカバンを。」

手渡されて、かけるように促され斜めがけにした。

うんうんと、車掌さんが頷く。

「そのコートは、一番上に羽織るようにして下さい。」

「鞄の上から?」

「はい。これから巡る場所は、気候など、まあ色々あるでしょう。コートは、あなたを守ってくれるものなので、汽車を降りる際は必ず着用してくださいね。」

フード付きのコートは袖口が広がっていて、ゆったりとした大きさ。

ポンチョコートっぽいかな。ドレスコートともいえるのかしら。

どこも締めつけ感がないし着心地がいい。

「こちらで過ごされるのも良いかと思われますが、やはり、列車旅の醍醐味は乗客の方々との出会い。座席に御案内いたしますね。」

「座席もですか?」

「はい。さあ、いきましょう。その前に、もう一度確認を。」

ゴホンと一息入り、続いた。


「安全を期しているつもりではありますが、色々な、お客様が乗られます。首に掛けてらっしゃる乗車券は、あなた専用のパスです。必ず、あなたの手元にあるようになってはおりますが、お気をつけくださいね。なにせ、解っていても興味を持つ方は、おられますから。」

手元にあるようになっているという言葉が耳に残る。僕に起きている不思議に、わくわくする。

「基本、コートは着用していること。特に降車する際は必ず、必ずですよ?お忘れなく。」

「は、はい。」

「よろしい。では、参りましょう。」

歩きながら説明は続く。

「座席番号、客席番号は、記載されております。

お客様が招かない限り個室には入れないとは思いますが、絶対とは言い切れませんからなあ。こほん。断言すべきなんでしょうが、ワタクシの持論として絶対なんてことはない。

世の中何があるのか解らないと。そう思うところでして。」


そう。仕事人の役割の中の本音と建前はあるのです。

正直でいたい。いつでも、そうありたいもの。

とはいえ、何が起こるかわからない。

可能性の先。

自分では解らない、知る由もない事象であるならば。

未知なる領域、つながった縁、エトセトラ、エトセトラ。

良き、思わぬ事象でありますよう。


どうしようもなく、委ねるしかない事象はあるものです。

どうにもならない悲しみか

降って湧いた幸運か

はてさて


「さあ、こちらの席です。」

指定席は、ボックス席の一席だった。列車旅の趣に、ぴったりはまっていて僕は好きなんだ。だから嬉しい。でもね。向かい合ったこの席に、誰か座ってくるんだと思うとドキドキする。

座ってみると、直角椅子なのに具合よく体が沈み込む。

なんとも適度な、ふかふかと固さ。手触りはベルベットのよう。

気持ちいいや。不思議。だって、固くて直角じゃないんだもん。

「それでは、よい列車の旅を。」


手紙を読んでみる。


銀河鉄道に乗った実感は涌いてきたかしら?

カバンとコートは、あなたに用意したものです。

カバンの中のものは遠慮せず自由に使って下さい。

星貨も、いれておきます。銀河鉄道や旅先で使える、お金のことです。

旅の道中で色々な出会いがあるでしょうし、上手に星貨を使ってね。

もちろん、気兼ねなく旅に使ってくださいね。

まずは、楽しんで。

おいおい星貨は自分で増やしてね。


追伸

旅の諸々のことは、君と相席する僕の友人が教えてくれると思います。

君の思うように色々感じて、楽しんでください。

良い旅を。


「どんな思い出を詰めて帰ってくるのかしら。楽しみだわ。」

「楽しむことが上手な子だから、この上なく良い旅になるだろうね。」

「旅先案内人代わりもいるし、大丈夫さ。」

「そうね。経験豊富な、ね。」

楽しそうに、笑い合う二人。


かばんの中身が気になって開けてみると、何かが飛び出した。調子外れの声とともに、小さななにか。

「もくろくちょーーー。」

「うわっ。」

目録?鳥?羽がある。ネズミのようでもあり、いたちのようでもある。そうだ。ナキウサギ!

まじまじと、僕は眺めることにした。そして気づく。

しっぽ・・・まんまるぽよぽよ、まるぽよ。

ふわふわのポンポンみたいだ。

そのあんまりにもキュートな丸に目が釘付けになる。

「ごほ。ん、ん、んー。私は、モクロクチョウなのである。」

渋い、男前の声でした。

あまりのギャップに、僕の気持ちは追いつけないでいた。

僕が知っているナキウサギの声は、小さく可愛らしい声で鳴くのだけど。

キュッキュッって。

僕が驚いている間に、モクロクチョウなる方と車掌さんが親しげに会話をしはじめた。

「お久しぶりでございますな。

そのカバンも、コートも実に、懐かしく、今日はワタクシ、実に実に張り切っております。」

小さい手と大きい指が、握手を交わす。

「私も、あまりに久方ぶりで、つい調子を狂わせてしまった。お恥ずかしい。」

車掌さんと、よく見知った間柄なのか。

モクロクチョウ。しゃれのような、まんまのような。

鳥?蝶?


僕が、あんまりにも頭をぐるぐるさせていて、キョトンとして固まっていたからかな。

「君の言うところの不思議かばんみたいなものさ。カバンはカバン。そう思って使えばいい。制限容量のないカバンとも言えるし、倉庫のようでもあるし、」

ざっくりな説明が入りだした。

「まあ、私がいることだし、必要な時に声をかけてくれればいい。聞きたいことを聞いてくれればいいのである。まあ、答えるかは別として。とりあえず、私は中に戻るので。

あ、そうそう。

私は、鞄の中の整理と管理をしている。ちなみに、わたしも乗車券は持っているので安心してもらいたい。では、よろしくなのである。」

矢継ぎ早ってこういうのを言うんだろうか。僕も頭の中を整理しようと思ったら、

「そうそう、君のリュックも預かってるから安心してくれたまえ。

取り出したいものが明確ならば、私に声を掛けなくてもよろしいぞ。

では、ごきげんようなのである。」

ひょこっと顔を出し、言うだけ言って、鞄の中に戻っていった。

マイペースなのかな、せっかちなのかしら。でもなんだか、僕は楽しいや。

僕は、展開の速さについていけずポカンとしていたけれど、

面白い旅仲間ができたみたい。

改めて。ゴホン。


旅の仲間ができた。

僕は旅をする。

さあ、旅の始まりだ。

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