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ちっぽけな僕は小さな旅をする

僕は、あの汽笛のなる夜を知っている。

怖がりな僕は、一度は逃したけれど。

摩訶不思議な銀河鉄道の旅で、出会いを重ねていく冒険の旅。

それは、僕と、僕と繋がっていく人々もまた、出会いと思いを重ねて成長していく心の冒険でもあったんだ

~ちっぽけな僕は小さな旅をする

僕は、あの汽笛の鳴る夜を知っている。気のせいだとも、笑われようとも別に構いはしないんだ。

僕が、そう思っているのだから。


シュッシュッシュ カタンカタン ガタンゴトン ポーー。

心地の良い音をたてて、遠くから近づいてくる。なんてリズムカルでワクワクする音なんだろう。

僕は、あの物語を知っている。カーテンを開けて、外を見たいと思うけれど怖気づいてしまった。いっそ外に出て、乗ってみたいと思っているのに、被った布団から出ることが出来なかった。

音が近づいて去っていってしまう。残念に思っているのに、ホッとした安堵感に誘われて眠りについてしまう。けれど、結局は何故見なかったんだろうと何度も思うことになるんだ。

もしそれが、無期限の乗車券であるのなら、まだチャンスがあったらいいのに。


満天の星の中、

「そりゃあ、果てしなく大丈夫さね。繋がったのなら縁なりなんなり、手繰り寄せるのか引っ張られるのか、そりゃ解らんもんだけど。扉は、どこにでもあるのだから。」

そうして、にんまり笑う彼方の人。


僕は、小さな旅に出る。

僕は、もともとは一人で何処かに行こうとする考えのない人間だった。

「一人か。出掛けらんないな。ここに行きたいのに。つまんないな。」

それが、僕。お決まりの心の声。

誰かと一緒じゃなきゃ出掛けちゃいけない縛りなんてないのにね。

なんでスケジュールの穴埋めみたいな生活をしてたんだろう。

なんで、出かけるっていうとココ!みたいなところばっかりに目がいってたんだろう。僕自身が面白い、行きたいって、ここが好きだって思える所は、いろいろあるだろうに。

なんやかんや、自問自答な意識改革があって、一人で何処にだって行けばいいじゃないか、行ってみようとなる訳で。段階を踏みつつ、今日に至るのさ。

とはいえ、僕にとって、たった数時間、半日くらいでさえ毎回旅のようなもの。無事家に帰れますようになんて、出かけた先から考えてたりする。散歩だろ?なんて笑わないで欲しい。だってさ、いつだって内心ドキドキのハラハラのビクビクなんだ。


小さな旅を重ねていって、ぽつぽつと気付く事が増えていく。少しずつ意識の広がりっていうのかな、面白いって思う感度が上がっていくんだ。

もう、焦るくらい面白いことが増えてくるんだからさ。時間も幾らあっても足りないくらい。

本当に本当に世界中どこにだって行けるんだ。一歩踏み出せば。その一歩が、どうにもこうにも出なかった僕である。想像力があるからこそ僕は怖がりなんだ。

ただただ楽しいことに前のめりで突っ込んでいく所もある癖に、僕は怖がりなんだ。

なんていうのか、僕という人間は強気かと思えば弱気になったり、突っ込んでいく大胆さがあるかと思えば、石橋を叩きまくって日が暮れてしまうのを繰り返すような性格なんだ。

そして、以前の僕は、青空を見て何処か行きたいと言いながら、その何処かが決まっている訳でもなく、行こうという決意もない。ここじゃない何処か、それだけは明確なのに。


気付きの一つというか反省というか後悔というのかしら。つくづく、僕は視野が狭い。縛られすぎ。他人からも自分からも縛られて、意識も視野も狭いやら、受け止める感度だって鈍チンもいいとこだったってこと。

例えば、桜を見ようとするなら。以前は遙か先から日取りだの場所だの悩んでた。

人で賑わうような場所は、それはそれで素晴らしい。けどさ、すぐそこにだって桜は咲いている、賑わいを見せている所ではなくとも美しく咲いている。桜は咲いている。何処に咲いていようとも美しいことに変わりはないんだ。花は美しいんだから。ふらっと、桜を探すのも楽しいし、思い立ったら家近くの公園の桜を見るんだっていい。一人で、沢山の人で溢れてる所を行くのもまた今となっては結構楽しい。だってやっぱり、桜がワンサカ満開で楽しい笑顔で溢れていたら、自分の心も華やいじゃうのさ。

そうだね。ここにはいられないと、そう思ってしまう時もあったけれど、その先の今は随分楽しむのが上手になった。そう思う。

もう一つオマケ。5月の新緑の美しさだって、気づいてなかった。雨が降れば、緑の葉が更に鮮やかに輝くとかさ。ほんの少しの前の僕だのに、緑色の違いなんて気にしないし、木を見に行くなんてことも考えたこともなかったもん。

心は、こんなにも簡単に震わせることが出来るのに、今までどれだけスルーしていたんだろう。


楽しいことが転がってたって、気付かなきゃ味わえないままってことなんだよね。

在るのに無い事にしてたなんて、なんてなんてもったいない。

楽しいことを見つけるアンテナも、楽しいと思う感度も上げていくのさ。


もっともっと。


僕は自分で作ってしまった固定概念の壁を、壊していきたいんだ。

柔らかく、しなやかになったなら、もっともっと楽しめるはずだからね。


僕は星を見に行こうと思う。

何かの映像で緑深い山の中に綺麗に保存された駅舎の残る風景を見たことがあった。

蒸気機関車が走っていた時代の活気や人の気配を感じられて、ロマンがある。なにより銀河鉄道が停まるのなら、こんな駅なんじゃないだろうか。あのとき出来なかった摩訶不思議へ続く宇宙そらの旅だけれども、雰囲気を味わえるんじゃないかって。僕は、少しでもあの時の旅を取り戻したいと思っているらしい。

ふと目に入ったイベントのポスターを見て、ここだと思ったんだ。

星祭り~面影のロマンを感じながら星を見よう。

廃駅で星の観測をするという。

僕の頭の中で、キーワードが音を立てる。

記憶の片隅に残る景色と蒸気機関車、駅、加わる星のイメージ。

ああ、僕は、ここに行こうと思う。


~なごり駅~

かつては星が消えるほど、こうこうと明かりが灯る駅の賑わい

今はない、行き交う人の気配

新たな道ができて、違う道、人の行き交う手段ができた。

ただ、ある鉄道の道が閉じただけの話。

森の奥、山の中の名残り駅。

ぽつんと拓けた、そこにある。

駅舎とホームが、そこにある。

そして、駅の前に宿屋が1軒

「出発進行。」

ここは、思いの残る場所。

とどのつまり、駅になる。名残り駅に汽車は停まる。

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