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疑似転生の雑な仕組み

 一人称視点で作品を書く場合、難しいと思うのは自分の容姿についてだと思う。鏡に映る姿を客観的に説明したとしても、それはやはり主観的な説明になってしまう。何故ならどう足掻いても自分が見ている自分の姿なのだから。

 何処にでもいる平凡な顔。

 背は高いほうかも知れないが秀でるものはない。

 モテなさそう。

 小説ではこんな表現が多い。曖昧で濁された表現。当たり前だ。何が悲しくて自分の容姿について事細かく説明する必要がある。そんなのは自己愛が高いナルシストだけでいい。

 その点、異世界小説は便利だ。何故なら鏡に映る自分の姿を客観的に表現することが出来る。正直言えば、本当にーー


「誰だ、お前?」


 そう問い掛けてしまう程に他人だった。現実と変わらないのは髪の色だけだろうか。ひょろ長い体格、貧相な腕、白すぎる程に白い肌。見るからに病弱だ。顔は……なんだろ。凄く優しくなったどこぞのとあるレベル5みたいな感じだ。

 え、本当に大丈夫? 現実にこんな奴がいたら思わず「え、病院いく?」って言っちゃいそう。


「まじでお前、大丈夫? 日光浴してる……? こんな白、まるで死体みたいなーー」

「気に入ったかのう?」

「うぉっ!?」


 背後からそんな声が聞こえ、思わず振り向く。だが、そこには誰もいなかった。先程、俺を異世界に誘ったリヒの声だったような……いや、気のせいだ。まだ混乱している。混乱するほど情報もないけど、きっと幻聴に違いない。


「阿呆。鏡を見てみろ」

「鏡……んなっ!」


 リヒに言われたまま鏡を見ると、俺の背後にリヒが纏わり付いてきていた。か、感触が全くない! なんでだよ! 容姿の説明省いてたけど灰色のロングヘアが似合うグラマラスな美人さんだったじゃん! ラッキースケベも無いんですか!


「たわけ。わしはまだ思念体でしか現世出来ん。取り敢えずはお前に知識を授けてやる。色々と分からんことだらけじゃろ。何より……時間が無いしの」

「時間が、無い?」

「お前、自分の姿を見てどう思う?」

「病弱、貧相、ひょろ長い」

「違うわ。年齢じゃ」


 そう言われて、改めて自分の姿を凝視する。

 若い。現実の俺も学生だから大差は無いが、異世界の俺は【若い】ことが問題だ。テンプレートに則るなら最後まで則れよ。これが【幼い】なら喜ばしい。何故なら時間があるからだ。まだ自分が眠っていた部屋と家具と木造の小さな家しか知らない。この世界での自分の名前さえ知らない。


「おいおい、人外さん? 普通なら修行期間があってこう、何とかなるのが普通だろ! これ猶予どれくらいだよ!」


 リヒはニヤリと笑い、指をひとつだけ立てる。


「一年じゃ」

「馬、馬鹿野郎……! 無理難題過ぎる」

「死なないことがお前のゴールじゃ。やりきって見せろ」

「ふざけんなぁー!」


 と、盛大に叫んだ時に扉が勢い良く開け放たれた。むし

ろ吹っ飛んだ。え、何事?

 扉へ目を向けると、そこには瞳に涙を浮かべた男と女が立っていた。うぉぉ、なんだこの展開全く読めん。思わずまた誰だよお前らと言いそうになってしまう。


「やめとけ、総司。わしの声に反応するな。お前にしか届いてない。その上で聞け。こやつらはこいつの親じゃ」


 親? 当然だが全く覚えがない。

 そもそも記憶の補填がされてないことに腹が立つ。多くの作品は異世界での記憶に現実の記憶が重なりシナジーが起きるものだろう。おいおい、リヒ! 肝心なところで仕事サボってんじゃねぇ!


「アベル……あぁ、神様! こんなことが……」

「あぁ、あ、ありがとう!ありがとう神様!」


 2人はそう言いながら抱き付いてくる。どうやら俺の名前はアベルというらしい。華奢な体では耐えきれず、そのまま床に倒れ込む。天井を見上げれば誇らしげなリヒの姿。


「おぉおぉ、構わん構わん! わしの気紛れなプレゼントじゃ!」


 黙れ人外……! 後でしっかりと説明してもらうからな!



 簡潔に言うと。

 リヒは俺のために新しい体を用意したわけではなかった。


「本気で異世界転生、転移を行うならお前の魂に沿った体を造り出す、または選定するのが妥当じゃろうな。しかし言ったであろ? 暇潰しじゃと。新しい生命を造り出すのは容易ではない。何より器となる体には元々魂が宿ってしまっている。それと中身を取っ替えるのは面倒じゃ」


 盛大に【死】からの復活を祝われた俺は中々両親から解放されず、最終的に病み上がりだから、むしろ死に上がりだからそっとしていてとだけ告げて自室に避難した。そしてリヒから説明を受けている真っ最中。


「暇潰しにそんな労力は使わん。お前はそもそも死んでいない。だが異世界に転移したわけでもない。総司の場合は疑似転生じゃな……つまり総司を入れる器だけが必要じゃった」


 器だけ。要するに……元々の魂が消えた体。死体があれば良かったんだ。新鮮な死体、尚且つリヒの目論みになるべく近い器。それが【アベル】だった。


「器があれば魂は宿る。当然拒絶反応はあるが……わしからのサービスじゃ。器の記憶、経験、アレルギーといった様々な弊害は除去しておいたぞ」


 つまり中途半端に育った器に俺は放り込まれたわけだ。おぉ……ちょっと待て。ゲームでは割と大切な初期ステータスってどうなってる? 失礼になるかもしれないが、正直【アベル】の見た目からして高いステータスではなさそうだ。早速詰みそう。


「察しがいいのう。残念ながら高くはない」

「リヒ……もう言うのも飽きたけど心読むな」

「読まんでも表情で分かるわ。ポーカーフェイスも出来んのか童貞」

「は、はぁ!? ポーカーフェイスと童貞の関係性についての説明を求める! ど、童貞って決めつけた理由も含めてだ!」

「……もうよい。お前、その反応は肯定しとるようなもんじゃろ。可愛い奴め」


 ぐ、ぐぐ……は、反論が出来ないのが悔しい。

 俺が下を向いて歯を食い縛っていると、場面を切り換えるためなのかリヒが息を吐いた。それだけで空気が引き締まったように感じるのは彼女が多分、神に近い人外だからだろう。応じて空中を漂っているリヒを見上げる。


「総司。わしが考えていたより状況は些か悪いようじゃ。元々、暇潰しに巻き込んだんじゃし……スタートラインくらいは整えてやろう」

「スタートライン?」

「明日には面白いことが起きる。何……わしに全て任せておけばよい!」


 だから、説明しろよ……人外。

 

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