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人外と始める異世界冒険

 異世界転生。

 知ってる。

 最近滅茶苦茶流行ってるし書店に足を運んでライトノベルコーナーを覗いてみれば、右を向いても左を向いても異世界物が溢れているのが昨今の棚事情だ。多くの作品に共通するのは社畜(ブラック企業勤務)が過労死もしくは事故死して剣と魔法の世界に招かれ、社畜知識を活かして無双する。または無職のまま何かしらの理由で死んで、今度の世界では頑張る!と意気込み神様から貰ったチートなスキルで無双する。そして両方に共通するのは女性キャラの多さ。当たり前のようにモテる。羨ましいことで……とか、思ってる時期がありました。


「……もう一回言ってもらっていい?」


 目の前に立つ自称女神様にひきつった表情で問い掛ける。見目麗しい女性は欠伸をしながら、先程俺に伝えた言葉を繰り返す。


「じゃから……正直異世界に人類を送るの飽きたんじゃよ。もう世間的にも飽和状態じゃし、今更わしがお前に能力を与えて新しい世界で無双したところで、ぶっちゃけ面白くない」

「うぉぉ……すげぇぶっちゃけるじゃん。目の前に拡がった摩訶不思議空間に膨らんだ期待がどんどん消えていく」


 死因は知らないけど、多分俺は死んだんだろう。目を開けば歯車が回る世界に立っていた。地面という概念は無く、まるで水面に浮かんでいるかのような感覚。辺りを見回しても何もない。歩けば水面に波紋が広がっていく。

 そして空から……空というか上から自称女神様が降りてきた。その時に確信した! 俺も異世界転生するんだ! 最強無双! 美少女ハーレム! ひゃっほう! でも、目の前の女神は終始こんな感じでやる気が皆無。

 なんだこれ。全然イメージと違う。


「因みにお前、死んでないから」

「ナチュラルに思考読んでくる辺り本気で人外と見た。しかも死んですらなかった。え、じゃあ何で俺は此処にいるんだよ」

「わしなりのテスト。まぁ神……と言っても神様なんて曖昧な存在じゃお前も納得せんじゃろう。人外の暇潰しに選ばれたと思えばいい。選考理由は年齢と性別を指定した以外はランダムじゃ」

「え、何? くじ引きで選ばれた感じ?」

「くじ引きはくじ引きでもあみだくじ」

「滅茶苦茶時間掛かりそう!」


 この人外暇すぎるだろ。絶対神様とかじゃない。多分だけど神様はもう少し忙しいだろう。知らんけど。


「死んでないなら別に異世界転生しなくていいんじゃないか? 拒否してもいいなら拒否させて欲しいんだけど。異世界行きたい奴なんて腐るほどいるでしょ」

「拒否権はない。わしはもう一度あみだくじをするのが嫌じゃ」

「選考方法をあみだくじ以外にしたらいいだろうが……」


 こうもやる気のない人外に異世界転生とか任せたら即ゲームオーバーになりそう。無双どころか最弱スタートで最弱のまま転生終えそう。


「なぁ人外さん」

「もう心の中でも神様言わなくなったの。人外でいいけど、合っとるし」

「あんたのテストってなんだ? 俺が死んでないならテストが終われば元の世界に帰れる感じ?」

「正解。わしの課題をクリアすれば元の世界に戻してやる。ただし、クリア出来なかったら死が待っている。その場合はゲームオーバーじゃ」


 滅茶苦茶不穏な単語出てきた。死が待っているとか笑えない。それって異世界の死と現実の死が直結してるって意味で……


「正解」

「心読むな人外」

「わしのテストは簡単じゃ。先ずは異世界の学園入学を目指せ。そこが取り敢えずの合格ラインじゃ」


 異世界の学園。そこら辺だけテンプレートに則るのかよ。しかし学園ねぇ……現実みたいに受験でもすればいいのかね。


「お前との問答にも飽きてきたの。魔法という概念は知っとるじゃろ? 異世界では魔法を使うことが出来る。そこに縛りを設ける」

「縛り?」

「そう。分かりやすく言えばURとかSRといった高レベルな魔法を、お前は使うことが出来ない」


 馬鹿なの? 何でゲームクリアして2周目でするような縛りを設けるの? チートスキルを授けるとかじゃなくてむしろ縛りプレイ強要とか嫌すぎる。


「馬鹿とか言うな」

「言ってねぇ……思っただけ」

「縛りを設けねばテストの意味がなかろう」

「テストねぇ……なぁ、人外さん。ゴールは何処にある? あんたの目的は?」

「言ったじゃろ。暇潰し。ゴール? では聞くがお前の考えるゴールは何だ? よくある魔王討伐か? それとも戦争の英雄にでもなることか? そんなものは求めておらんよ。異世界から来た人間が魔王を倒しても、戦争を終わらせても意味なんてない。世界の命運を異世界から来た人間に託すような奴等に先は無かろうて。終末を先延ばしにしているに過ぎんよ、それは」


 酷なことを言う。けどそれも一理ある。地球が終わりを迎える時、異世界から来た何者かがそれを防いだとしても……その何者かが居なくなれば遅かれ早かれ地球は終わってしまう気がする。


「神は助けんよ」


 心を読んでくることにはもう慣れてしまった。じゃあもう喋る必要ないんじゃないか? けど口を開く。思ったことを口にしないと、何だか後悔しそうだったからだ。


「どうして? 神かどうかは知らないけど、人外に祈る奴等は沢山居る。信仰、だっけか。俺はないけど。そういう人間がすがってきても?」

「助けんよ。諦めたんじゃろ? 自分達でどうにかすることを。他人に全部を任せて、押し付けて、逃げた連中を助ける義理はなかろうて」


 冷めた口調だった。興味はないと瞳が物語っている。


「話が逸れた。それで、お前の考えるゴールはなんじゃ?」

「死なないこと」

「ほう……殊勝な答えじゃ。その過程がどんなに厳しくても、無理難題だとしても走りきる覚悟はあるか?」

「覚悟なんてない! 単に死にたくないだけだ。それに現実で死んでないなら、普通にあっちで暮らしたい」


 こちらの返答に呆れたのか、人外は溜め息をひとつ。だが、どこか満足そうに笑って此方を指差した。


「まぁ良い。お前の境遇は行けば分かるじゃろ。滝谷総司……わしの名はリヒ、導き手としてお前と運命を共にしよう」

「運命を……?」

「お前が死ぬ時はわしも死ぬ。勝手に巻き込んだのじゃ、それくらいはリスクを背負おう」

「まさか人生を共にするパートナーが人外になるとは予想外だ……」

「なんじゃ? 誓いの言葉でも欲しいのか?」


 リヒはからかうように笑う。老人のような口調のくせに、笑った顔が魅力的なんてひどく反則に思えてしまう。俺も笑う。何気無く伸ばした手をリヒが力強く握る。それが、俺の異世界デビューの合図。水面が硝子のように砕け割れ、世界を埋め尽くしていた歯車が回り始める。


「わしの望みを叶えてくれ、総司」


 繋いだ手から目映い光が放たれ、俺の意識が断たれる。その間際、そんな言葉が聞こえた気がした。

 


 

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