幼馴染みの王子様
「お前、最近変わったよな」
俺の幼馴染みであるロベルト・ブランシュは俺の作ったマフィン(料理長が作ったとは言ったがたぶん気付いている)を食べながら言った。
「…そうか?」
今日は王宮に来ている。先ほどまでロベルトとともにタツキの指導を受けていた。タツキは王宮でも度々指導している。
どれだけ口説こうともタツキは近衛騎士団に入らないと聞いたことがある。騎士団の面々はタツキに羨望の眼差しを送り続けている。タツキが屈強な男達に囲まれている姿を何度か見たことがあるが、あの中で一番強いのが中心に居る細身の男であるとは誰も思わないんだろうなと少し面白かった。
ここはロベルトの私室だ。ロベルトは腹を割って話せる親友である。同い年なこともあり幼い頃からずっと一緒に居る。気楽に過ごせる相手だ。
気楽だなんて言っているが彼は王族、王太子である。金髪碧眼でまさしく王子様。その美しさは国外にも広まっていると聞いたことがある。
確かに美形なんだろうなぁ。別に興味はないけど。ひとつ言っておくと前世が女性でも恋愛対象は女性だ。そこに影響がなくてホッとしたのはここだけの話。
そんなことを考えながら持ってきたマフィンに手を伸ばす。
「…あれ、お前食えんの?」
ロベルトに指摘され、あ、と思った。やべぇ説明が面倒くさ…ゴホゴホ。
「味覚が変わったんだよ、最近はリリーと一緒に食べてる」
答えるとロベルトは妙に納得していた。
「あぁ、リリー嬢か。なるほどな」
俺はずっとシスコン認定だったのか…?まぁ間違ってないか。
「そもそもコレもお前だろ」
意地の悪そうな顔でにやにやとロベルトは笑う。やっぱり気付いてやがったな。
「…なんで分かったんだよ」
「いや?何となくお前が俺の反応を窺ってる気がして」
ロベルトはまたひとつマフィンを持ち上げ齧った。
「今までにないマフィンだな。お前のレシピか?」
コイツが相手では仕方がないなと短く息を吐く。
「あぁ、俺のレシピだ。で?分かってたなら感想くらい言えよ」
俺もひとつマフィンを手に取り齧った。うん、今日のも良くできている。今日は所謂マーマレード(この世界にマーマレードという言葉はない)を入れたマフィンだ。マーマレードは甘めに作ってある。
ロベルトはにやりと笑ってこちらを見てきた。
「今まで食ってきた中で一番の味だ」
お、良い反応だ。ロベルトが褒めるなら間違いがない。味覚センスはかなり良いし嘘もつかない。
「マフィンに果物を入れる発想がなかった、しかもこれただの果物じゃないよな?パッサパサのはずのマフィンがしっとりして、紅茶に良く合う」
また一口、ロベルトはマフィンを齧った。
「かなり美味い」
その言葉に俺は心の中でガッツポーズした。
「お前のお墨付きとあれば自信を持って客人に振る舞えるな」
ロベルトは俺の言葉を聞くと一瞬の間を置き、肩を震わせ出した。
「…は?どうし…」
「嘘だろ…ジルが…客人に振る舞う…ぶふっ!!」
おい、何で笑われなきゃならないんだ。ロベルトはそれはもう可笑しそうに腹を抱えて笑い出した。
「お前な…」
「いや、悪っ…やべぇツボッた…」
まだ笑っている。
ロベルトが笑っている間に俺はマフィンをひとつ食べ終えた。
「っあーしんど!久し振りに笑った」
ようやく収まったらしい。
「悪い、バカにしたとかじゃねぇんだよ。…いや、ジルがずっと頑張ってるのを知ってるわけで、そんなお前がまさか客人に手作り菓子を出そうと算段してるとか、なんかもう意味わかんなすぎて」
まだ口許がにやにやしている。てめぇコノヤロウ。
「どうせ誰が作ったかなんて言わなきゃバレねぇ」
俺がさらりと言うとまたロベルトは吹き出した。
「そりゃそうだ!」
しばらくロベルトは笑ったままだった。
次に会う時もマフィンを持って来ることを約束させられた。ロベルトは本当に気に入ったらしい。
俺の作るマフィンは王室御用達だな、と浮かれる気持ちをなかなか抑えられなかった。
お読みいただきありがとうございました。