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スイーツとの関係性 中編

「厨房へ行くことはできるか」

 数日後に直球勝負に出ることにした。決して面倒になったからじゃないんだからな。

 フェルナンドは表情を崩さない。

「何かご不満でも?」

 フェルナンドの言葉に首を振る。

「いや、そうじゃない。サンティエール家の長男として家のことはきちんと把握しておきたいんだ」

 これは嘘じゃない。将来サンティエール家を継ぐのに家のことは知りませんでは済まされない。厨房は料理人の聖域であることは知っているけれど、視察という名目なら恐らく咎められることはないだろう。

「そういうことでしたら料理人達に聞いてまいります」

「ありがとう、頼む。料理人達が拒むようであれば無かったことにしてくれて構わない」

 フェルナンドは強い口調で返す。

「我らにジル様のお言葉を拒む権利はございません」

 俺はしばし瞬きを忘れた。これが、公爵家か。

「料理人達に迷惑をかけたりしたいわけじゃないんだ。その辺りも察してくれると嬉しい」

 フェルナンドは一礼すると部屋から出て行った。




「今からでもご見学できますが、如何なさいますか?」

部屋に戻ってくるなりフェルナンドが告げた。

「えっ、良いのか?」

 あっさりとした言葉に驚く。数日中に行けたら良いなと思ってたのに、今からとは。

「丁度空いている時間でございます。夕食の仕込みがありますので、それまででしたらゆっくり御覧いただけるかと思います」

 やっぱり無理をさせたのかもしれないなと思う。だがこれを逃す手はあるまいよ。

「わかった、行こう」

 大きく頷くと俺はソファから立ち上がった。




 厨房へと続く扉をフェルナンドが開けてくれる。足を進め中へ行くと、料理人達が綺麗に並び頭を下げている姿が目に入る。

「忙しいのに我儘を言ってしまって申し訳ない。皆、頭を上げてくれ。仕事がある者は戻ってくれて構わない」

 俺が言うと料理人達が頭を上げる。一番手前に居た男性が俺に近付いてきた。

「ジル様、料理長のマルクスと申します」

 綺麗に一礼した後でマルクスは続ける。

「厨房をご見学なさりたいとのこと、何か不備などございましたでしょうか」

 俺は首を横に振りしっかりとした口調で言う。

「いや、そうじゃないんだ。いつも美味しい料理を本当にありがとう。素敵な料理を準備してくれているのはどんな人達か、またそれはどんな場所から運ばれて来るのか、この目で見てみたかったんだ」

 あわよくばお菓子を作らせてくれ!!とはさすがにまだ言えない。

 マルクスは少し驚いたようだった。

「身に余る光栄でございます」

 それは本当に嬉そうな表情で、どうやら嫌われてはいなさそうだと安心する。

「少し見ても?」

「はい、ご案内させていただきます」

 俺がにこりと笑うとマルクスもまたにこりと笑ってくれた。




 俺は一通り厨房内を見て回った。やっぱり前世とは随分と勝手が違いそうだ。

「これは…」

 目に入ったのは取っ手がついた四角の扉。

「オーブンでございます。年代物ですがとても良い仕事をしてくれる大切な道具のひとつです」

 オーブン!前世で憧れていたオーブン!海外の備え付けオーブンにどれだけ憧れたことか!

 俺はキラキラと目を輝かせてオーブンを見つめていた。

「…ジル様?」

 マルクスの声ではっとする。いかんいかん。

「いや、すまない。随分大きなオーブンだな」

「サンティエール家に代々伝わるオーブンですから」

 サンティエール家って本当に凄いんだなぁ(他人事)

 このオーブンでどうにかお菓子を作れないものだろうか。作りたいな。


「…マルクス、お願いがある」

「はい、何でしょうか」

マルクスがにこりと笑う。俺はガバッと頭を下げた。

「俺にここでお菓子を作らせてくれ」

 厨房内に料理人達のどよめきが響き、ずっと厨房の扉付近に立っていたフェルナンドは青い顔をしているのが視界の端に見えた。


お読みいただきありがとうございました。

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