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スイーツとの関係性 前編


「ジル、最近良くやっているそうじゃないか」


 シャンデリアが輝く白を貴重としたダイニングで、家族揃って夕食を取っている。

 金持ちの家のダイニングテーブルは何であんなに大きいんだろうと前世で常々思っていた。実際に大きなテーブルで食事をしているが結局理由はよくわからん。たぶん体裁とかそんなところだろう。


 先ほどの言葉は父、ステファンからのものだった。

 父は客観的に見ても美形と言える顔立ちをしている。銀髪は後ろへ流していてもサラサラさがわかるほどで、細い黒縁眼鏡から覗く青い瞳は空のように輝いている。その目尻は少し吊り気味。迷わず真っ直ぐ向けられる視線が意思の強さを物語っている。


「そうなのよ、あなた。ジルったら本当に頑張っているの」

 父の隣で母、レジーナはにこにこと笑う。両親はこの世界では珍しい恋愛結婚だ。艶やかな金髪は綺麗にまとめられ、優しげな瞳は綺麗な紫色をしている。母もまた美しい人である。

 ちなみに俺は父から銀髪と少々の吊り目を、母から全体的な顔立ちと紫の瞳を受け継いだ。


「ジルにも漸くサンティエール家の長男としての自覚が出てきたようだな」

 その声色は本当に嬉しそうなものだ。いや、ずっと励んでいたはずなんだけどな。しかしここで話を折ってはいけない。

「これからより一層励むつもりです。それでお願いがあるのですが、ダンスの時間をもう少し増やすことはできませんか?」

 俺は父へ要望を伝える。ダンスのレッスンは今までも受けてきた。これもまた前世の話になるのだが、趣味はダンスだった。社交ダンスではなかったが…。とにかくダンスは好きなので今後増えていくであろう夜会のために鍛えたかった。

「ふむ、ダンスか。今後そういう場へ出ていくことも増えるだろうしな。良いだろう、国一番の指南役を改めて呼ぶことにしよう」

 よし、と思うと隣に座っていた妹、リリーが声をあげた。

「兄さまだけズルいです!私もダンスのレッスンを受けたいです!」

 リリーは俺より年は2つ下で、全体的に父譲りの顔立ちをしている。金髪に紫の瞳を持ち、雰囲気は母親そっくりだった。可愛らしい妹に俺はつい笑ってしまう。

「父さん、ダンスにはパートナーが必要です。妹にも必要なことですから一緒に受けてはいかがでしょう?」

 リリーへ目線を向けにこりと笑いかける。リリーもまた嬉しそうに笑った。

「そうだな、リリーにも厳しいレッスンは必要か…。ジル、しっかり妹の面倒を見るように」

 父はそう言うとリリーへ目線を向ける。

「兄さんと並んでも恥ずかしくないようにするのだぞ」

「もちろんです、お父さま」

 父も母も妹もにこやかだ。幸せとはこういうことなのだろうなと、俺もまたにこやかに食事を続けるのだった。


 最後にデザートが運ばれてきた。食べようとカトラリーを手に取ったのだが…そういえばとちらりと家族の顔を見る。一様にキョトンとしていたので苦笑してしまう。

「そろそろ好き嫌いはやめようと思いまして」

 無理があるかと思ったけれど家族は納得してくれたようだ。

「そうか、良い心掛けだ」

 父はうんうんと頷いていた。単純だな、父よ。

「兄さま!美味しいお菓子がある時にティータイムへお誘いしてもよろしいですか?」

 リリーはそれは嬉しそうに言ってくれた。度々ティータイムを一緒に過ごすのだが、俺に気遣ってサンドイッチやスコーンの類いが置いてあることが多かった。

 リリーは甘い物が大好きだ。俺と一緒に楽しめることを喜んでくれたのかもしれない。

「もちろん。一緒に美味しいお菓子を食べよう」

 両親もその場に居た執事も侍女も、皆が温かい目でそのやり取りを見ていたことに、俺達は気付かなかった。




♢ ♢ ♢




 女性から男に転生したことを思い出して大きく変わったのは間違いなく味覚だ。甘い物はさほど好きではなかったのに今はもうとにかく食べたい。

 自分は女子大生として前世を終えたようだった。恐らく21の頃、その辺りから記憶が途切れている。

 大学の帰りに友達とスイーツを食べに行ったことを思い出す。タルト、ケーキ、パンケーキ、クレープ、タピオカ…なぁタピオカ飲みたいんだが?


「タピオカって芋から作られてたよな?芋からどうやって作るんだ…?」

「芋がどうなさいました?」

 淹れたての紅茶がテーブルの上へと置かれていた。しまった心の中の声が漏れた。

「いや、何でもない」

 声をかけてきたのはずっとサンティエール家で執事として働いているフェルナンドだ。父の代から居てくれていて、とにかく完璧を絵に描いたような人である。白髪を全て後ろへ流しキッチリ固めている。

 最初に食の好みが変わったことを告げたのはフェルナンドだった。特に疑問に思うでもなく受け入れてくれたようだ。まぁ普通に生きていても味覚が変わることはあるしその程度に捉えられたのだろう。


 ここは俺の部屋だ。全体的に落ち着いた色味で統一してある。家具はキングサイズのベッド(部屋で一番存在感がある)、ソファ、テーブル、学習机とそれに合わせた椅子、キャビネット、本棚。屋敷の中では広い方の部屋を与えられている。

 今はフェルナンドが用意してくれたクッキーと紅茶を存分に楽しんでいた。元々紅茶は好きだ。

 ソーサーごとカップを持ち上げ、香りを確認する。口へ含むと爽やかな風味が広がった。

「今日の紅茶もとても美味しいよ、フェルナンド」

 フェルナンドに笑顔で言うと、フェルナンドは優しく目を細めていた。


 クッキーをサクサク食べ進めながら、お菓子作りも好きだったなぁと思い出す。家族によく振る舞っていた。また作りたいけど恐らく難しいだろうな。

 貴族ともなれば厨房へ入ることは許されない。と言うか入ろうとも考えない。自ら料理をする貴族など居ないのだ。

 さて、どう厨房へ入り込むか。

お読みいただきありがとうございました。

色々改稿しながら進めております。

楽しんでいただけましたら幸いです。

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