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プロローグ

ようこそ、魔王の棲家へ。

この作品は公募用に書いたものなので、切りの良いところで完結はしております。

このプロローグは過去の話ですが、本編と繋がってきますので読んでもらえると嬉しいです。

 少女は紅蓮に染まる村を見下ろしていた。その瞳も炎に照らされ真っ赤に染まっている。

 山の中腹に避難している村人たちは皆、絶望と喪失感により立ち尽くしていた。


「なんで……なんでこんな目に」


 ある者は涙を流し、ある者は怒りに任せて意味不明な言葉を叫びまくる。


 燃え盛る村に、家族を取り残された者もいた。輝かしい未来が来ることを疑うことなく新居を構えた夫婦もいた。


 そのすべてを飲み込んで、炎は勢いを増していく。


「……お母さん」


 少女は隣の母親に声を掛ける。その声は細く、かすれていた。


 母親はなにも答えない。聞こえているのかすら分からない。ただ少女に繋いだその手は、小刻みに震え続けていた。


「お前らのせいだ!」


 一人の村人が親子に石を投げつけた。それは母親の背中に当たり、短い悲鳴を生み出した。


「なんで! なんでほったらかしにした!」


 村人の怒りは収まらない。感情の高ぶりにより、体中が震えている。その顔には流した涙が作り上げた二筋の痕が浮かんでいた。


 母親はその身体の支えを保つことが出来なくなり、ついには膝から崩れ落ち、嗚咽を漏らしだした。


「……ごめんなさい。……ごめんなさい」


 誰に向けての謝罪だろうか。村人か、少女か、それとも……。母親は何度も繰り返す。自身の中に渦巻く複雑な感情をかき消さんと。何度も何度も繰り返す。


 少女の目にも涙が浮かんでいた。幼い少女が、初めてそれと確信した涙。


 ――悔し涙だ。


 少女が再び村を見下ろす。その元凶に思いを馳せる。


 ――家族に長生きして欲しいと思うことは罪なのか?


 少女は答えを探している。震える母のその手の中に。燃え盛るその炎の中に。


「私は……。どうすれば……。助けて……らん。助け……」


 母親が微かな声で呟いている。隣にいる少女にも、そのすべては聞き取れなかった。


「……魔王だ」


 誰かが呟く声が聞こえた。

ありがとうございます。

それでは次話より本編の開始です。

楽しんで頂けると幸いです。

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