振り直し後 即席魔法教室
今更言うまでもないことだが、阿走駆が生きた日本…というより地球には魔法というものは存在しない。
インチキ番組で眉唾ものの魔法が紹介されるのことがあってもゲームの中に出てくるような、手から炎を出したり、異形の生物を召喚するものは夢のまた夢のものであった。
しかし、この世界では魔法というものがたしかに存在する。
人族では遺伝的な問題で、全人族の5%ほどしか魔法を使えるものがいないが、魔法を得意とするエルフ族では逆に使えないものがいないというぐらい当たり前の存在になっている。
ランにとって幸運だったのは、最も身近な人族の1人である母セレスが、その5%のうちの1人であったことである。
家族会議が行われた翌日からセレスによる即席魔法教室が始まった。
「ランはもう本を読んで、魔法の簡単な内容は知っているかもだけど、一応簡単に説明するわね」
いつもはのんびりした口調で、ほんわかした空気をまとっているセレスが珍しくはっきりした物言いで、説明を始める。
目をキラキラしながらこちらの次の発言をまつランの…可愛い息子の力になれると思い若干熱が入っているようだ。
「魔法を行使するには、体内にある魔力を魔法具という媒介を通して初めて使えるようになるものよ。魔法具自体は専門の職人さんに頼めば、オーダーメイドで高価だけれど、誰でも入手することが出来るわ」
セレスは自分が愛用している魔法具である指輪をはめた右手をランに見せる。そして、セレスが「スイッチオン!」と唱えた瞬間、その右手の手のひらから小さな火が浮いて出てきた。
「魔力と魔法具があれば、あとはその人の頭の中で思い描いたイメージとトリガーになる言葉…この言葉は自分が気に入ったものでいいのだけれど、それだけで魔法が発動するわ」
ランはその火を目に入るのではないかというぐらい近い位置で凝視している。セレスが「スイッチオフ!」と唱えると瞬く間に火はなくなってしまった。
「ただし…」とセレスが続ける。
「魔法を使う上で必要な魔法具があっても、魔力がないとどれだけ頭でイメージしても、何も起こらない。人族は古来より魔力を蓄えることが出来ない種族で、突発的に魔力を蓄えることの出来る子が生まれてくるけど、やっぱり絶対数としてはかなり貴重な存在だと言えるのよね…」
ランが1番問題としてるのはその点である。
いくら知識と、セレスという魔法が使える存在が近くにいても、魔力自体が自分になければ、魔法が使えないのである。
「魔力があるかどうかを判断出来る人が、人族には基本いないから、魔法が得意なエルフ族に見てもらうことになるわ。ちょうど、明後日エルフ族との定期交易船が来るから、港に行って一緒にお願いして見てもらいましょ。エルフ族は子供を大切にする種族だから、可愛いランのお願いだったら絶対聞いてくれるわ」
と少しばかり能天気な考えを述べ、「それじゃ、お昼を作らなきゃ」といい、台所へ消えていった。
魔力の有無によって魔法が使えるかどうかが決まる。
エルフ族にしかその有無が判断出来ないなら、とりあえず明後日まで待つしかない。
もしかしたら今のランでも魔力を蓄えることが出来る可能性はあるが、その可能性を1%でも上げておきたいというのがランの本音であった。
ランはその方法に心当たりかあった。
自称神様がいた空間でのステータス振り直しの項目の中に魔力の欄があったことだ。
その際は免疫力と読解力に注視して数値を割り振ったが、他の項目に関しては割とアバウトに振っていた。
年齢に似つかわしくない、生前にはなかった読解力を身につけていたランは、努力値のステータス振り直しに効果があることをしっている。
ならば、今度は魔力…特に魔力蓄積量の項目に努力値を振り直せばきっと…。
そうランは考え、今まで行使してこなかった、自称神様からもらった特殊能力を使う決心を固めた。