ライハルト学園 追っ手
大の大人2人相手、かつ女の子を抱えた状態であるが、ぐんぐんスピードを出して、スーツの男たちとの距離を離していった。
強化の魔法をかけたランは、100mという短距離を全力で12秒ぐらいで、10kmという長距離を35分ぐらいで走ることが出来る。もちろんその道の人ならもっと速く走ることが可能であるだろうし、事実、生前の阿走駆の方が速く走ることが出来た。しかし、ランはまだ今年初等学校に入学したばかりの子供である。同年代の子供と比べたら圧倒的な速さであり、一般人の中でなら十分以上の能力である。
エルミーも自分より小さいランに抱えられ、後ろからくる追っ手を引き離している現状に驚きの色を隠せないようだ。
ランは、勝手知ったる地元の細い道、抜け道も駆使し、2人の男の視界から消えようと工夫していく。
しばらくして、ランの家の近くに来る頃には、後ろから追いかけてくる男たちの姿はなく、ランと、その腕の中に抱えられているエルミー2人だけになっていた。
とりあえずランはエルミーを降ろす。
エルミーが逃げるような所作をしたためここまで抱えて来たが、果たしてその判断は間違っていなかったのだろうか…。
ランが一抹の不安を覚えた時、黙っていたエルミー「ありがとうございます」と口を開いた。
「その、大変お話しにくいことなんですが…ちょっと家のことでトラブルがありまして…家出をしてきてしまって…連れ戻そうとうちお抱えのボディーガードが…」
申し訳なさそうに話すエルミーは、学園で見るよりもずっと弱っているように見えた。
家の前で、立ち話でするような内容でもなさそうだったので、とりあえずランはエルミーに家に入るよう促した。始めは遠慮していたが、もう時間も夜に差し掛かろうとしているところで、どのみちエルミー1人で夜道を帰らせるわけにもいかなかったので、半ば強引に家へと引き連れていった。
家に入ると、セレスが「おかえり〜」と出迎えてくれた。せそして、ランの隣にいるエルミーを見る。
「あら、ランくんのお友達?可愛い女の子!ま、まさかランくんの彼女!?」
盛大な勘違いをしてくれていた。
まぁ、この分だと邪険に扱われることもないだろう。
ランはセレスに、エルミーを1日泊めてもいいかを尋ねた。
セレスは「ん〜」と少し考える。ひと呼吸置いて、エルミーの方を向き尋ねた。
「エルミーちゃん、だったね。親御さんにはこのことを話してあるの?」
「いえ…その…家には帰りたくなくて…」
「そっか〜。うーん、そうだね〜…。まぁ、いっか。ランとエルミーちゃんさえ良ければ、1日泊まっていって!明日以降のことは明日話しましょう!」
とセレスは台所に向かっていき「1人分多くご飯作らなきゃ」と調理に取りかかった。
やり取りが終わったところで玄関の扉が開いた。エルミーは男たちが入ってきたのかとビクッと怯えていたが、そこにいたのはイグニスであった。
「ただいまでーす。あ、ランくん!私のお出迎え?嬉しいな〜、抱きしめちゃう…って、エルミーちゃん!?あれ?どうして?…は!まさか、エルミーちゃんもランくんの家にホームステイを?」
「いえ、そういうわけでは。というか、イグニス先生はこの家に住んでいるんですね」
イグニスの明るい雰囲気にエルミーも少し気が楽になったのだろうか。いつもの真面目な調子に戻ってきていた。
この調子なら、話を聞いても大丈夫だろう。
そう思いランはエルミーに詳しい話を聞くために一緒にランの部屋に来て欲しい旨を伝えた。
エルミーはランの顔を真正面に捉え頷いた。
「あまり、他の家の人に話すような内容ではないかもしれませんが、ラン師匠はあの2人に顔がわれた可能性もありますし…。今後の為にもぜひ聞いて貰えれば」
ランはその言葉を聞き頷き返しつつ、自分の部屋にエルミーを案内した。