振り直し準備 努力値
「努力値…その言葉のように、物事に対してどれだけの努力をしたのかを数値にしたものだ」
神と自称する渋い声の存在は、抑揚のない言葉で説明を始めた。
未だに姿がはっきりしない声だけの、怪しさ満点の存在ではあるが、とりあえず説明を放棄するほど傲慢ではないらしい。
兎にも角にも、こちらとしては情報が欲しい。その説明に口を挟まずひたすら理解することに努めることにする。
「勘違いしてほしくはないが、一口に努力と言っても、ただ闇雲に時間をかけたものが高い数値を出すわけではない。時間だけかけても、まったくと言っていいほど検討違いの努力に対しては低い数値がつけられている。逆に言えば、目的達成の為に適切な、かつ高密度な努力に対してはそれなりの数値が与えられるようになっている。結果として現れているものにはさらに追加の数値が加算されてるはずだ」
なかなか見も蓋もない話であると思った。
ようはこの神という存在は、自分が今までやってきた頑張り…努力を、無駄なものと有益であったものに仕分け、数値化していると言っているらしい。
「努力することに意味がある」
と主張する熱血体育会系が聞いたら逆上する内容だろう。
そうどうでもいいことに考えを巡らせていると、目の前に浮いていた本が声のする方に移動し、再びページがめくられる音が鳴り響いた。
「貴様の数値をざっと見てみたが…。」
バラバラバラと、どんどんページがめくられていく。
生前…と言っても未だに半信半疑であるが、自分の人生をこと細かく見られているようで落ち着かない気分になる。
「学業や交友等はほぼ平均値。育児の数値が平均値より少し高めだな。貴様ぐらいの年だと平均値を下回ることが普通…あるが…既に妻子を持っていたのか?」
そう問われ、首を横に大きく降ることで答えた。
妻子なんかいないし、悲しい話、彼女すらいない。
年の離れた双子の妹がおり、仕事で家を空ける親に代わり育児の真似事をやっていただけである。
その妹たちも今年から小学校に入学し、ほっと一息ついたところだったんだが…。
「まぁよい。それよりもおかしな数値があるのだが」
バラバラとなり続けていた音が鳴り止み、そう指摘を受けた。
それはこちらも気づいて、聞いてみたいと思っていたことだ。
先程見た努力値の数値の中で明らかに1つ桁が違うのがあった。
「この運動の努力値700…その年で叩き出す数値としては異常な数値だ。100を超えればそのもの事に対して十分適切な方法で努力し、それなりの結果を出していることになるのだが…。余程高密度、高効率、長時間の努力をし、かつ最上の結果を残してきてこなければこうはならないぞ。貴様、その短い人生を相当有意義に過ごせてこれたのだな」
褒められているんだろうが、だとしたらなおさら今ここにいなければならない状況が悔やまれる。
それにしても高密度、高効率、長時間、そして結果か…。
自分が長距離に対してしてきた努力は間違っていなかったのだと、ほんの少し嬉しい気持ちになった。
まぁ、密度、効率に関してはそうなるようトレーニングメニューを組んでくれた顧問のおかげなんだろうけど。
「努力値に関してはこれぐらいでいいだろう。数値はもう決まっているのだからな。重要なのはその数値をどう使うか…だ」
感傷に浸らせてくれる時間は与えてくれないらしい。
もう1つあった、ステータス振り直し?の説明があるんだろう。
そちらの方が重要だと言うなら集中して理解に努めることにしよう。
姿が見えないのでどうしたらいいか迷ったが、声のする方に向かって首を縦に降ることで話を促すことにした。