ライハルト学園 派手に
人に見られる可能性があるからと、昼に空を飛ぶのを控えていたランにとって、アルジャーシュでのイグニスとの日々以降、日が登っている時間に飛ぶのは初めてであった。
最初空を飛んだ時は海の真上だったため、見えたのはどこまでも続く海、雲ひとつない青空、おぼろげに見える大陸だけ。しかし、今はライハルト学園の真上。ランたちが住むマルドゥックの住宅街、その先にある街道、少し視線を下に向ければ部活に汗を流す生徒、校門を出て家路につく生徒、真下には特別魔法教室に参加する生徒に教師陣、イグニスと色んな景色を見ることが出来る。天気が少し悪くなってきたのが少しマイナスだが…これはこれで利用させてもらおう。
もちろん、遠目からでは、空を飛んでいるのがランとは分からないだろうが、近場のライハルト学園の生徒が顔を上に上げれば、何か鳥ではない人の形をした何かが空にあるというのは分かるだろうし、真下にいる生徒と教師陣には丸わかりである。
すなわち、ここで上手くことを運び、疑惑を解消出来れば、ライハルト学園内、ひと目を気にせずに、昼に空を飛ぶことが可能になるのでは。ランは自分でもその考えは甘いかなと思いつつも、今後の展望に希望を抱いた。
まぁ、まずは今後の展望よりも、疑惑を晴らすことに集中しなければ。空を飛んでいる時点で十分度肝を抜いているだろうが、イグニスの要望にも応えなければいけない。
最初は、鍛錬してきた筋肉強化を最大限使い、殴り蹴り壊そうかと考えたが、それだと見た目のインパクトが弱いように感じた。
ならば、見た目にも派手で、かつこの空にいる状況を活かす方法にシフトしなければ。
ランはそう考えながら、杖を掲げ、術式を唱え始めた。いちから火球を作って壊してもいいが、せっかくなので自然の力を借りることにする。今回は大気中に含まれている水分だ。運がいいことに、今日は晴天ではなく少し天気が悪い。
ランが唱えたのは、物を凍らせる魔法単語、その凍らせた塊に大気の水分を集める制御単語、さらに凍らせる魔法単語、塊の位置を固定させる制御単語を繰り返し唱える。
最初は小さかった氷の塊にがどんどん大きくなり、数分後には大きな岩のような形になった。昔読んだことのある、漫画の技から発送を得た状況である。
ランは続けて、自分の足全体に強化魔法をかける術式を唱える。この時点で複数の魔法を同時に使っているが、鍛錬のおかげで魔力はまだ余裕がある。少し余分に強化の魔法をかけておいた。
さて、あとは、イグニスが作ったあの壁をを壊すだけだ。
氷の塊が作られたタイミングで、イグニスが誘導したのであろう。生徒たちと教師陣は最初いた位置より離れた場所に移動していた。
その様子を見たランは、被害か出ないだろうと確信する。
氷の塊の真上に移動し、位置を固定させる術式だけ解除した。重力にしたがって、下に落ちようとし始めた氷の塊。ランはその塊をサッカーのオーバーヘッドキック容量で真上から蹴り落とした。
氷の塊の重量、重力、ランの蹴りの加速度を掛け合わしたエネルギーがイグニスの作った壁に直撃する。
壁は一瞬にして押しつぶされ、地面にはクレーターのような穴ができあがっていた。
生徒たち、教師陣の目は開きっぱなし、口もパクパクさせて塞がらない。
そんな状況を横目にイグニスは、「派手は派手だけど…あと片付けのことも考えて欲しかったな〜、ランくん」とこのあとの事後処理に頭を悩ませていた。