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2度目の振り直し 別れ

「いや〜、確かに教えると言ったのは私の方だし、一緒に空を飛べたらいいな〜とはとは思ったけど…」


イグニスは、横にいるランの姿を見て呆れながらつぶやく。

今ランとイグニスがいるのは、1週間前にも来た海の上…雲ひとつない空の空間である。

1週間前はイグニスがランを固定する形だったが、今回、ランは、イグニスの真隣にいる。

即ち、ランは自分の力で空を飛んでいるのだ。

ランの背中には、ランの体格に合わせたかのような小さな羽。パタパタと可愛い音を鳴らしながら、しっかりと浮遊していた。


「ランくんの魔法の才能がずば抜けてるのか、私の指導者としての才能がずば抜けてるのか、どっちなんだが分からないけど、何はともあれ、最後の日にこうやって2人で空を飛べて嬉しいよ」


ランからしてみてれば、イグニスの教え方はとても効率的で高密度であり、生前師事した部活の顧問を思い出させた。あのときも、本格的に陸上競技を始めて数年で日本有数の長距離ランナーになれた。素晴らしい指導者に再び巡り会える幸せを感じずにはいられなかった。

もちろん、ランの魔法に関する才能自体もずば抜けていたのは確かだ。2度目のステータス振り直しで、魔法関連のステータスを底上げしたのは伊達ではなかった。

お陰で、1週間という短い期間で、他のエルフでも出来ない、イグニスオリジナルの魔法を習得することが出来た。

ただ、それが嬉しいことばかりであるかといえばそうではない。

今日でイグニスのもとで魔法を学び始めて1ヶ月、イグニスたち、エルフ族の定期交易船がこの港を離れる日になっていた。

ランとイグニスの下…アルジャーシュの港では出港の準備が着々と進んでいる。もうしばらくすれば、姿が見えないイグニスを探しに、船員たちが右往左往し始めるだろう。

だが、イグニスはぎりぎりまで、ランとこの空間を楽しみたいようだ。


「1つ提案なんだけどさ」


イグニスは真剣な顔でランを見つめる。

普段、笑っていることが多い人の真剣な顔にランはドキッとした。


「ランくんさえよければ、私たちと一緒に行かない?こう言っちゃなんだけど、ランくんはその年で人族で1番の魔法のは使い手になっちゃってるよ。多分、この国の魔法の学校に行ったって退屈だと思う。私達…私と一緒に来ればそんな退屈な思いはしない。私よりも凄いエルフもいる。そういう環境で、一緒に成長しない?」


心動かされる提案である。

1ヶ月、イグニスには本当に世話になったし、一個人として魅力的な女性だと思っている。そんな存在と一緒にいれば確かに退屈はしないだろう。

しかし、ランはある1つの考えを持っていた。

次はランがイグニスの住む、エルフ族の大陸に会いに行きたいと。

イグニスに教わった、この空を自由に飛ぶ魔法。まだ大陸間を飛べる程長時間の飛行は出来ない。だが、自ら学び、工夫し、改良し、大陸間の移動が出来るぐらい修練を重ねた上で会いに行きたい。

ランはイグニスにその想いを伝える。だから、一緒には行けないとも。

イグニスはランの言葉を聞き、「振られちゃったか」とおどけて言った。その様子だと、断られることは薄々分かっていたようだ。


「そんなカッコいいこと言うなんて…ランくんも今や立派な男のだね。でも、ランくんが空を飛んで私の所に会いにくる…か。うん、いいね、それはいいね」


そう言うと、イグニスはランの方へ手を差し出す。

下の港の方では、イグニスがいないことに気づいた船員たちが騒ぎ始めている。

ランは差し出されたその手を強く握った。

イグニスは満足そうに頷く。


「私って、地元だと結構モテるんだよ〜。私の方が強くて中々声にかけてくれる勇気ある殿方がいないんだけど。でもランくんなら、そんな心配もないよね。だから待っててあげる。私も頑張るから、ランくんも頑張ってね。で、またこの2人の空間で会おうね」


そうイグニスが言うと、「それじゃ戻ろっか。そろそろ本当に騒ぎになりそうだし」と先に地上へ降りていった。

ランもその後を追うように、降りていく。

今は、背中しか見えないぐらい差があるけど、いつか、胸をはって横に立てる存在になる。ランはそう思いながら、地上へ…日常へと戻っていった。

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