振り直し準備
自分の身体がどこからか落下している感覚で目を覚ました。
今までの人生でジェットコースター以上の落下を経験してないのでなんとも言えないが、住んでる場所から近いテーマパークにある超絶叫マシンよりも速く、そして長く落下してるようだ。
正直言ってかなり怖い。
心臓がせり上がって口から出てきそうである。
とりあえずこのまま地面に激突したら、自分の身体など木っ端微塵であろう…と考え始めて数秒後、急にその落下が終わり、身体も地面に叩きつけられることなく、無事に地面に足をつけることが出来た。
まぁ四方八方真っ暗なので、足の下が地面なのかどうか判断に困る状況ではあるが。
ただ、目を覚ます前に失っていた腕の感覚はあり、視界に入るほどドバドバ出ていた自分の血液は外に出るのをやめ、傷がふさがっているようだ。
流石日本の最先端医療。あれぐらいの事故で負った損傷でもこうも綺麗に治療が出来るらしい。
ということは、ここは医療ドラマでよく観る集中治療室というところか…
と、色々と整理がついていない心で考えを巡らせていると、暗闇しかない前方から何かしら動く気配が。
「久方ぶりの客人。ようやくここにたどり着いたか」
なかなかに渋い声で呼びかけられた。
ようやくも何もついさっき目が覚めたばかりなので時間前集合なのか大遅刻かの判断がつかない。
とりあえず、返事をしようと口を開けようとしたが…
「ああ、いい。貴様の詳細はここに記してある。まずは間違いがないかどうか確認してくれ」
と、暗闇しかなかった目の前に重厚な本のようなものが突然現れた。
恐る恐る持ってみると、重力が働いていないのか重さを感じない。装調もしっかりしてるように見え、かなり重みがあるように感じるのだが…。
「自分の名前を言えば勝手にページが開く。迅速にかつ声高らかにおのが名を宣言するがいい」
と、またも渋い声。
急かしてるような声色ではないが他にすることもない。高らかにとは言わないがとりあえず本に向かって自分の名を語りかけることにした。
「阿走 駆…だ」
そう自分の名前を言うと、手の上に乗っていた本が再び浮き出し、さらには光を放ちながらページがバラバラバラとめくられ始めた。
ページがそのまま飛んでいかないか心配になるほどの勢いだ。無駄な心配なんだろうけど。
思いの外時間がかかったようだが、あたりが真っ暗闇だとどうも時間の感覚が曖昧になる。
程なくして、ページをめくる音が鳴り止み、本がまたゆっくりと下に落ちてきた。
落ちてきた本に手を添え、開いてるページを眺めると、それは自分のプロフィールのようなものだった。
氏名 阿走 駆
年齢 17歳
国籍 日本
身長 169cm
体重 55kg
職業 学生
血液 O型
家族 父1 母1 妹2
趣味 走ること 読書
…
他にも通っていた保育園の名前、小中学校のクラス、どんな料理が好きで嫌いか、体力テストの結果等、自分がうろ覚えのことまでこと細かく記載してあった。
どう調べたか知らないが優秀な探偵、もしくは陰湿なストーカーの仕業を思わせるほどである。
ただ、よく分からない項目がある。
努力値 計1000
努力値…1000?どんな数値だろうか。多いのか少ないのか…
「それで間違いないようなら話を進めるぞ」
またも渋い声が。
状況は飲み込めないが、とりあえず話も聞きたいので首を縦に振り、話を進めてくれるよう促した。
「よかろう。ではまず、貴様が事故で命を落としたことは理解しているな」
理解しているわけなかろう。え、日本の医療技術で今こうして傷1つなく立っているのではないの?
「…理解していなさそうだな。まぁ、そこはもう起きてしまったことだ。無理に理解しなくてもよい。」
「いや、そこは時間をかけて理解させてくれるとありがたいというか…」
真っ当であろうツッコミをしたが、この渋い声の御仁はあっさり無視して話を続けてきた。
思考がとにかく追いつかないが、話をまとめると…
曰く、この渋い声の正体は神様であるとのこと。
曰く、阿走駆は必死の治療も実らず死亡したとのこと。
曰く、ここは世界と世界を繋ぐ狭間であるとのこと。
曰く、不慮の事故で死んだ人間がランダムにここにくるとのこと。
曰く、その確率は数十億人に1人とのこと。
曰く、その人間が望めば、他の世界への転生が許されるとのこと。
曰く、同一世界への転生は不可能とのこと。
ざっとこんな感じである。なんとも都合のいい確率に当たってしまったものだ。数十億人に1人ということは、これを経験した先輩方も何百年、何千年前の人物であるだろう。経験談を聞けるわけもない。
望めば違う世界に転生し、生活出来るというが、はたしてどうしたものか…
「貴様の生前の努力値を見る限り、余程間違えない限り、次の世界でのステータスは高くなるはずだぞ。転生することを勧める」
「そう簡単に言わないで下さい…。そもそもこの努力値って何なんですか?」
計1000となっているが、その中でも細かく数値が記載してある。例えば「学業 20」に対して「育児 50」と項目間に差がある。1番数値が高い「運動」に関しては「700」と他とは桁が違う数値になってる。
この数値だけ見てもわけがわからない。
黙っている神様とやらに説明を求めた。
神様は隠す様子もなく努力値の、そしてその努力値を利用したステータス振り直しとやらの説明を始めた。