2度目の振り直し イグニスの提案
「本当ですか!?イグニスさん」
いつの間にか、港にいた他のエルフ族の船員達がランとイグニスを中心に集まって来ていた。
流石に船員全員ということはないだろうが、それでも何十人というエルフがランのことを興味深そうに見ていた。
若干居心地が悪いと感じ、それが顔に出ていたのであろう。目の前にいるイグニスが周りのエルフに注意した。
「こらこら、皆が集まってくるからこの子が怖がっているじゃん。散った散った。私はこの子ともう少し話がしたいんだから」
イグニスはそう言うと、ランとセレスを連れ出し、港にある宿舎のような建物に向かっていった。
「ランくん、もう少しお話がしたいから、私の部屋に一種に来て。お母さんも一緒に」
こちらとしても、もう少し詳しい話を聞きたい。ランはイグニスにむかって頷いた。セレスも自分の息子に自分と同じ魔力があると分かりワクワクしているのだろう。「私もぜひ!」と期待に満ちた返事をした。
その宿舎は3階建てて、前世でいうところの学校の校舎1棟分程の大きさであった。
中に入ると、受付のようなものがあり、そこで部屋の鍵を受け取るシステムになっているようだ。
イグニスは「101号室のイグニスよ」と言うと、受付の人間はすぐに鍵を持ってきた。イグニスはそれを受け取ると、101号室…1階の西側の端にある部屋へと案内した。
ランとセレスが通されたその部屋は、通常の部屋よりも広く、調度もしっかりしたものにされていると感じられた。イグニスにそれを尋ねると、この宿舎の101、201、301号室は俗に言うスイートルーム扱いらしく、他の部屋とも少し離れているので、静かにゆっくりくつろげるということらしい。
イグニスは部屋の中央に配置された2つの対面したソファーの片方に座るようランとセレスを促した。ランとセレスは隣り合うように座り、イグニスもその向かいのソファに座った。
「来てくれてありがとね!あんなに騒ぎになると思わなくてね。ここならゆっくり話せるでしょ」
そういうと、イグニスはランの魔力について話し始めた。
「人族に魔力を持つ人が少ないってのは知ってると思うけど、逆にエルフ族は魔力がないっていうエルフの方が少ないのよ。絶対数が多いから、その分莫大な魔力を持つエルフも一定数いるわ」
イグニスは「例えばあなた!」といいセレスの方に顔を向けた。
「あなたも魔力を持っていて、ちゃんと鑑定したわけじゃないから詳しくは分からないけど、人族の中だと十分優秀な魔力量だと思うわ。それでも、あなたを1としたら私の魔力量は50ぐらいあるわ。それぐらいエルフ族と人族の魔力量には差があるわ」
ランとセレスは顔を見合わせた。セレスは自分が優秀だと言われ嬉しそうにしているが、ランはその優秀なセレスの50倍の魔力量を持つイグニスという存在に小さくない驚きを感じていた。
「まぁ、私がエルフ族の中でも優秀であるのもあるけどね。それで問題なのがランくんの魔力量。人族なのに私とほぼ同じぐらいの魔力量を持っているわ。人族としては異常な量だし、エルフ族の中に入ってもトップクラスに属すると思うわ」
ランはイグニスの話に、顔には出さなかったが、心の中でガッツポーズをした。再度のステータス振り直しの成果がしっかりと出ている。ペナルティもあるがそれは能力の使い方さえ間違えなければ問題にはならないだろう。
そう考えていると、イグニスが「でも…」と心配そうな声色で続けた。
「これだけの魔力量、使い方を間違えたら大変なことになるわ。ただでさえ人族は魔法に関して他の種族よりも遅れているわ。間違った知識で莫大な魔力を扱ったら周りにも被害が出ることになる…」
と、イグニスは途中で言葉を切る。黙ったまま、何か考えているようだ。
数秒後、「そうだ!」と声をあげランとセレスにある提案をした。
「私、1ヶ月この街にいるんだけど、もしランさえよければ、その間、私が魔法を教えてあげるよ!」
ランとセレスは再度顔を見合わせた。今回は2人とも驚愕の表情になっており、イグニス1人だけがニコニコしながらそんな2人を眺めていた。